1章04 青年と出会う
背中と頭にズキズキとした痛みを感じながら、ケイはゆっくりと上体を起こす。
長い階段を転がり落ちていった先には、ズラリと続く石畳の廊下と――、氷のように青白い瞳をたたえた青年が1人立っていた。
紺色の長い前髪に、どこかもの悲しげな眼が見え隠れしている。
唖然とした表情の青年は、低く柔らかな声で
「お前、今、外から来たのか…?」
と問いながら、慎重にケイへと近付いていった。黒いローブが、ゆらり、ゆらりと揺れる。
「あなた…魔法師…ですか」
警戒しながらケイが尋ねると、
「そうだ、俺は魔法師だ。お前…、人間だな?」
「…人間です」
「…信じられない…。お前、どうやってここに来た? 外は今どうなっている? 他の魔法師は? 誰の力を借りたんだ? どうしてここに来た?」
必死の形相で青年は捲し立てる。
「ま、待ってください。分かりました、知りたいことがあるのなら全て答えます。その代わり…しばらくここに匿ってもらえませんか。
私今、賊のような人達に追われていて…。この怪我では地上へ戻れません」
額の血を拭うケイを見て、青年はむず痒そうな顔をし、手袋をはめた両手をぎゅっと握った。
「…良いだろう。だが、俺はお前に手を貸してやれない。お前には1人で立って、1人で治療をして、1人で生活をしてもらわなくてはならない。できるか?」
「…。できます。そういうのには、慣れてますから」
よろけながらも自力で立ち上がろうとするケイを見て、青年はまたしてもむず痒そうな顔をし、悲しげに目を伏せた。
その様子が、森の道中で目を伏せた自分の姿と重なり、ケイはハッと息を呑んだ。
橙色の松明が等間隔に配列された長い廊下。
耳を澄ませると、微かに人々の喧騒が聞こえるような気がする。
「俺はアールだ。お前は何と言う」
「恵です」
「そうか。ケイ…」
最初の扉の前で立ち止まった青年がそっと右手をかざすと、オルゴールのネジのような音が鳴り響き、壁の中に空間が現れていった。
「入れ」
言われるがままに、ケイは中へと入った。
続いてアールも中へと入り、重い石扉はゆっくりと閉ざされていった。
次回 1章05「言い合い」




