1章12 森から帰還
真夜中の魔法師の森は、全てが闇に覆われている。生い茂る木々のせいで月光もまともに届かない。
ケイはひたすら来た方向に向かって走っていた。夜が更けていくほど、忘れたい体の痛みは酷くなっていく。
「あっ」
足がもつれ転んだ瞬間、ガサガサと茂みから嫌な音が鳴った。
途端に辺りが明るくなり、肌にじわりと熱を感じる。
草木の間から松明と共に現れたのは、長い髪を一つに結った女――ケイを襲った盗賊達の頭であった。
予想よりも早い再会に絶望しつつ、ケイは力を振り絞って拳銃を構える。
女はただじっと銃口を見つめ、
「先程は怖がらせたな」
と大人びた声で言った。
「え…」
「だが、お前が我々のアジトに侵入してきたのだ。悪く思うなよ。しかし、この数時間で随分とやつれたな。それではいつか野垂れ死ぬだろう」
「わ…私に何をする気ですか」
「私はお前に興味がある。だから、お前を生かそうと思う」
「え…?」
「おい。この女を出口まで送れ」
女が髭面の男に命じる。知らぬ間にケイは、沢山の盗賊達に囲まれていた。
「頭。俺達が馬を持っているとでも?」
「おぶって送れ」
「はあ?」
「おぶって送れ」
「…はぁ〜〜…」
短剣を持った髭面の男が、心底面倒くさそうにため息を吐く。女はケイの目をしかと見て言った。
「私はお前に期待する。世界を変えろ」
「世界を…?」
言うが早いか、女は背を向け姿を消した。
薄明かりがぼんやりと夜を照らし始めた頃、
「…あれ……。…おい、おい!! 異世界人だ!! 帰ってきたぞ!!」
森から煙が上がるのを一晩中待ち続けていた神殿兵が、一際大きな歓声を上げた。
ケイの「魔法師の森」の調査は、こうしてわずか1日にも満たない形で終わったのである。
***
2章へ続く




