EP001[災害世界]
書いてみたはいいけれど、メイン作品の執筆に影響するので投稿せずにずっと放置していた作品です。
パイロット版なので、序盤までしか描いていませんのであしからず。
日本。某県某所。湖を見回せるキャンプ場で焚火の爆ぜる火花がテントと椅子に座る男の姿に影を作っている。
少しアクセスが悪く車も途中までしか入れない立地な為か普段から利用者が少なかったがこの日は他の利用者は居らず、男はたった一人のキャンプ場に満足げに椅子に深く座って眠る前のココアをのんびり夜空を見上げながら少しずつコップに口を付けて飲んでいた。
「お~い。杉浦君!」
その時、背後から声が掛かる。呼ばれた男の名前は杉浦大地。
椅子から身体を捻って声のする方を見やると一人の初老が懐中電灯を手にこちらへ歩いて来る姿が暗がりから浮かんできた。
「あぁ、管理人さん。そろそろお帰りですか?」
駒原昭吉郎。通称:管理人さんと呼ばれた初老と杉浦と呼ばれた青年は顔見知りなのか気安く喋りながら互いに近づいていく。
「うん、これから帰って風呂に入って寝るよ。また朝になったら事務所開くから帰る時は顔を出してよ。この間友人にお土産を貰ったんだけど今は一人だし食べきれなくてね……」
「ありがとうございます。もう暗いですから帰りは気を付けてくださいよ。おやすみなさい」
「あぁ、お休み。良い夜を」
駒原は昨年配偶者を失くしたばかりでこのキャンプ場も趣味の様な管理体制だ。料金は掛からないけど枝を集めたりは自分で行わなければならないので着いてから夜までの間に色々と動き回らなければならないがそれはそれで楽しいのだ。大人気ではないがリピート客に支えられ荒れ果てる事無く常に人の手が入る事で静謐な空間でのキャンプ場は運営されていた。
彼の自宅はここから然程離れていないけれど、道路に出てから少し歩くので懐中電灯が無ければ真っ暗で家に辿り着くことも出来ないだろう事から気を付ける様にと杉浦も声を掛けたのだった。
再び一人となった杉浦は残ったココアを飲み干すと井戸に併設された水場でコップを洗い歯磨きもすると早々に眠る事にした。実はココアを飲み始めた時点ですぐに眠気は来ていたし駒原と会話中も少しフワフワしていたのでテントに戻ると焚火台の火を処理して就寝の準備をして寝袋に潜り込むとすぐに杉浦は寝息を立て始め夢の世界へと旅立って行った。
この夜を最後に世界が壊れてしまう等と想像だにすることなく……。
* * * * *
ゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
深夜の事だった。激しく地面が震えている事に気が付いた杉浦は飛び起きた!テントは倒れ頭に固い部分が当たって「ウゴッ」と変な声が漏れてしまったが誰も聞いていないので特に気にする事も無く思ったよりも長い地震が終わるのを待つ事にした。焚火台の火は消しているし此処はキャンプ場でこれ以上被害が広がることは無い。地震大国日本に住んでいる杉浦は段々とただただ揺れる地震に慣れて来てしまい瞼が徐々に重くなっていく。
意識が覚醒したのも緊急事態に一時的なものだったのか流れに逆らわず瞼はそのまま閉じてしまい、やがて杉浦はこんな状況の中にも関わらず再び夢の世界に旅立ち、覚えていないが夢の中でやり残したことを達成すべく寝息を立て始め……朝!
チュンチュンチュン。
雀の囀りと大自然の中で駆け抜ける空気が杉浦の意識を刺激する。更に何やら声も聞こえる気がする。
「……クン。起きているかい!怪我していないかい!?」
声が聞こえる。でも、まだ覚醒には至っていない。いつもの目覚めに比べて寒い気はする。何故だ?
「あ、ちょっと。危ないから潜っちゃダメだよ!あぁ、ああああああ~!」
声はきっと駒原だ、と起き始めた頭の中で予想を立てる杉浦だがまだ起きない。そんな中で慌てる駒原の声に合わせて何かモフモフした何者かが倒れたテントに潜り込んで自分の元まで辿り着いた事を理解した。
「キュンキュン。キュンキュッ!(あむあむ)」
先ほどまでの寒さはどこかへ行き、今度はモフモフの体温で暑くなって来た杉浦はゆっくりと。だが確実に意識が浮上し始めて瞳を開いた。杉浦は目が悪くメガネが無いと赤ちゃん以下の視力をしていた。しかし、甘噛みしてくるモフモフを抱きあげてキスする寸前まで寄せて顔を拝んでやると中型犬ほどのデカウサギという事が判明した。
何でウサギが……、と一瞬過ぎったがそれよりも駒原がテント前で今も声を掛けて来て心配する様子から早くここからの脱出をすべきと判断してもぞもぞと這い出る事にした。
「おお!良かった!杉浦君、怪我は?どこか痛めたりしていないかい?」
自分がテントから脱出したら今度は置き去りにしたデカウサギを引っ張り出して膝の上に乗っけながら返事を返す。
「あい、大丈夫です。テントが倒れた時に頭を少し打ちましたけど……コブにもなって無いですね。あ、メガネ!」
杉浦は再びテントへ突入した。生活必需品の眼鏡が無ければ何をするにしても不便で仕方がない。常に薄目で生活するなどやっていられるか、と杉浦は内からテントを持ち上げたりして眼鏡を探した。そして、見つかった。フレームの片方が折れた状態で……。
「終わった……」
先ほどまで動いていたテントが静かになった事で駒原はウサギを撫でながら再び声を掛ける。
「杉浦君、眼鏡はあったかい?」
「はい、あったんですけどフレームが折れちゃってるので掛けて帰る事は出来そうにないですね。はぁ……」
テントから這い出て来た杉浦が駒原に無残な眼鏡を見せて溜息を吐いた。
この時、杉浦は本当に落ち込んでいた。故なのか、頭の中に一つの文章が不意に浮かび上がって来た。
【スキル:視覚拡張を取得しました】
え?何が起こった?
杉浦は混乱しつつも非現実的な状況に妄想か思い過ごしと考えて駒原との会話に集中することにした。
「そういえば昨晩の地震は大きかったですけど家は大丈夫でしたか?」
「あぁ、そうだよ!地震対策はしていたんだけどね、流石に木製で年期も入っていたし倒壊しちゃったよ、ははは!」
笑い事じゃないですよ!と、杉浦はツッコミを入れるも駒原は朗らかだった。
「母屋は倒壊したけどね、倉は頑丈だったから雨風や大事な物は無事なんだよ。倉の地下には非常食も結構貯め込んでいたから今日はこれから賞味期限とかを調べる予定なのさ」
結構な惨事の様だ。出来れば帰る前に片付けを手伝いたい所だったがこの視界では満足に手伝うことも出来ない。
「僕の事はひとまず置いておいて。壊れているのはフレームだけだろう?その眼鏡で周りを見回してごらん。もしかしたら腰を抜かしちゃうかもね、ははは!」
駒原に言われるがまま手で支えながら壊れた眼鏡を目にあてがい視界を良好にすると、昨夜から一転した景色に度肝を抜かれ声を失う。
美しかった湖はあまり変わりなかったがそれなりに整備された森が大樹林、いや。大原生林へと変貌を果たして名前も知らない大樹が一本二本どころじゃない。視界に映る森や山すべてが変な色をした花が咲く樹や蔦が伸びる樹に侵食されていたのだ。
「はぁ~~~。何……じゃこりゃ……」
「本当になんじゃこりゃだよ。TVはまともに映らないけど何とかラジオは聞けたから情報を集めてみたけど、世界中同じ状況で交通も動いてないらしいんだよ。だから杉浦君もそこで倒れている原付で帰る事は出来るだろうけれど生活は一変しちゃうだろうね」
これは想像しているよりも絶望的な被害状況かもしれないと杉浦はやっと理解し始めていた。念の為自分でもラジオは持ってきているので電源を入れると駒原が言った内容が流れて来たので本当の事なんだと完全理解をするに至った。
世界が破壊されたと理解してしまえば今度は目の前のモフモフの存在が冗談みたいに思えてきた。
「管理人さん。このでっかいウサギは自宅で飼われていたんですか?」
今も駒原から頭を撫でられて嬉しそうにジッとするウサギの事を質問しつつも杉浦も手を伸ばして背を撫でると凄いモフモフ感が得られる。
「いや、出会ったのは今日だよ。明るくなるのを待ってから家を出た所で見掛けてね、どこかから逃げ出したのかと思って家にあった野菜を適当に差し出したら食べてくれてね。そのまま懐かれたのか此処まで付いて来たんだよ、ははは!」
ははは!じゃないよ管理人さん!こんなデカイウサギは海外にしか居ないんだよ!日本にこんなデカイウサギは居ない!
「それでね、キャンプ場まで来る間にも何匹か見かけたからどこかの施設で飼っていた子達が逃げちゃったんだと思うんだよ」
「あ~~、いや、管理人さん。俺も実家でウサギ飼ったことがあるんですけど、大人になったウサギは殆ど動かず寝転がってばかりですよ。それに明らかにこっちの言う事理解してるように見えます。試しに犬みたいに何か指示してもらえます?」
杉浦の言葉を受けた駒原は素直に従いデカウサギに指示を出す。
「一回廻って鳴いてくれ」
「(てってってってってっ)……キュン!」
可愛らしい姿に二人は癒された。しかし、喜んでも居られない。杉浦はあり得ない想像を浮かべていたが、周囲の環境の変化が完全に払拭することを否定して来る。振り向いた駒原に杉浦は自分の予想を伝えた。
「管理人さん。コイツ、多分魔物ですよ」
「魔物って何だい?」
ゲームをしていれば理解は早かっただろう。だが駒原は初老。ゲームに興味が無くあまり接する機会がなかったのだろう。
「え~とぉ……動物とは違う生物で知力が高いです。今みたいに言葉を完全に理解して言う事を聞いてくれる知能があるんです」
「へぇ、凄いね」
凄いけど違うんだよなぁ、と杉浦は共有出来ないこの温度差に内心で慟哭した。
「それに餌をあげただけでここまで懐くってのも……管理人さんはもしかしたらテイマーなのかも……。試しついでにステータスって言ってみて貰えませんか?」
駒原は頷くと即実行した。
「ステータス……っ!テイマーじゃなかったけど調教って文字があったよ。凄いね杉浦君は頼りになるね」
初老の尊敬の瞳に何故か後ろめたい気持ちになる杉浦。自分の功績ではなく幾千幾万の先進者が小説とかゲームにもしている知識何ですぅ……。気を取り直して気になった事を駒原に確認した。
「ステータスって口にしてからすぐに喋り始めましたけど、そんな簡単に確認出来たんですか?」
「えっとね、ステータスって口にしたら真っ暗な空間に大きな映像が浮かんでいてね。そこに調教って文字とそこからテイムミングと魔物指導と下級餌作製って文字に線が伸びてSPが2ってなってたよ。結構色々見てたけど現実には一瞬だったのかもしれないね。杉浦君も自分で試せばわかると思うよ」
そりゃそうだ。流れから試してもらったけど異世界系の知識の無い一般初老に先に試させるのは結構酷だったと後悔して若干落ち込んだ杉浦はすぐにステータスと口にする。
駒原の言った通りに真っ暗な空間に大き目のウインドウが浮かんでいる。
* * * * *
Neme:杉浦大地 種族:人間 年齢:19歳 状態:健康
【スキル】
◆視覚拡張Lev.1 ……熟練度0/1000 SP:2
◇内包マスタリー≪視力強化Lev.1/暗視Lev.1/下級鑑定眼≫
* * * * *
シンプル過ぎて見る所無いわ。この情報量でステータスって言えるのかよっ!
つまり元の世界に完全スキル制の世界が混ざっちゃったみたいな状況という事で無理やり納得した杉浦は視力強化をLev3に振り分けた。ウインドウにタップする事でスキルの詳細を確認する事も出来て、視覚拡張自体にレアリティは設定されておらず紐づくレベル有りがコモンスキル、レベル無しがエクストラスキルという表示がされている。下級と付いているくらいだし上位互換のスキルが存在するのだろう。早々にステータスを閉じると先ほどと些かも変化の見られない駒原と視線が合った。なるほど、ステータスのあの空間は時間が停止しているのかと理解して駒原にも情報を共有した。
視力は1.0くらいまで回復した事からもLev10とかになったらマサイ族並みの視力まで回復する恐れすらある。
もう一つの異世界転生なら誰もが我先にと取得する[鑑定眼]を試しに駒原とデカウサギにスキルを発動させた。
* * * * *
Neme:駒原昭吉郎 種族:人間 年齢:68歳 状態:痛風
【スキル】
◆下級鑑定眼では閲覧不可
◇内包マスタリー≪下級鑑定眼では閲覧不可≫
* * * * *
痛風……。歳も歳だし仕方ないよな。
* * * * *
Neme:Nameless 種族:ラージラビット 年齢:0歳 状態:健康
→契約者:駒原昭吉郎
【スキル】
◆下級鑑定眼では閲覧不可
◇内包マスタリー≪下級鑑定眼では閲覧不可≫
【ドロップ】
・ウサギ肉塊(1㎏)
* * * * *
ウサギ肉塊(1㎏)……。剥ぎ取りじゃなくて良かったけど何とも言えない……。
「管理人さんのテイマーみたいに俺も視覚拡張っていうスキルを持ってて、その中にステータスを鑑定出来るものがあったんで失礼ながら管理人さんと、ついでにウサギのステータスを確認したんですけど……」
「へぇ~、鑑定? どんな感じだったの?」
勝手に鑑定した事を怒る事も無く駒原は興味を示した。その様子に普段キャンプでお世話になっているのだから本当に異世界みたいな状況に世界が変わってしまったのなら自分の知識で駒原を支えなければならない。そう杉浦は密かに決意した。
「管理人さんは状態が痛風と出ました。ウサギはやっぱり管理人さんがテイムした事になっていたので名前を付けて可愛がってあげてください」
「ありゃ、痛風がバレてしまったか。ははは。そうなのかい……、君は僕と家族になったんだね。名前はゆっくり考えようね」
「キュン!」
配偶者が亡くなってから少し活力が減っていた様に見え心配していた杉浦は駒原がウサギを撫でながら声を掛け、それに鳴いて返事をする姿に新しい家族が出来て良かったと安堵した。
念の為自称冒険者がこのキャンプ場に現れてこのラージラビットを襲わないとも限らないと考え、荷物の中にあったスカーフをウサギの首元に巻いてあげる。
「まぁ無いよりはマシでしょう。出来れば近くに居てあげてください」
「わかったよ。それで?杉浦君はこのあと何か考えているのかい?」
駒原は先ほど倉の整理をすると言っていた。杉浦もラジオの情報からせっかく入学した大学は休校になってしまうだろうと考えた末に一旦家に帰る事を決意した。知らない植物でも鑑定眼があれば食べられるか判断出来るし最悪1㎏の肉塊の当てもある……。この変化してしまった世界の事もわからないしスキルの事も色々と調べるには時間が掛かる。ならばこのキャンプ場で生活しながらのんびり情報収集をしたい。空き時間には駒原の手伝いも出来るだろう下心も含めて衣類などを回収する為にも一旦帰宅が必要だった。
「歩いて家に帰ります。道路が使えない以上原付は置いていくしかないので……。徒歩だと片道1時間半くらいですかね」
「片道って、またここに戻ってくるつもりかい?ご実家に避難とかしなくていいの?」
駒原の問い掛けは当然と言えば当然だった。例え一人暮らしの大学生でも親からの仕送りはあるだろう事は想像に難くない。故に家族と連絡を取り合って合流して支え合うのが家族というものだからだ。その問い掛けに杉浦は答えた。
「連絡が取れるなら取りますけど合流は難しいでしょうね。首都が混乱しているなら混線して連絡はすぐ取れないですし電気ガス水道が止まるならまずは自分達が生き延びる事を考えないといけませんから」
「そりゃそうだね。生き伸びてこそ再会する機会も生まれるだろう。戻ったら家に寄ってよ、非常食をいくつか分けてあげるから」
「ありがとうございます。じゃあ荷物をいくつか持ったらすぐ出発しますんで。テントとかはこのままで大丈夫ですか?」
駒原は頷いた。
「あぁいいよ。どうせ避難先として開放するつもりだったしね。好きにしてくれていいよ」
その後は別れて駒原は自宅の倉へ、杉浦は水筒などの荷物を小さくまとめる作業に入り各々行動を開始した。
——こうして文明社会は崩壊し、新たに魔物や異世界の異形な植物が世界中に現れて再形成された新世界が始まった。世界中の都市は地震により壊滅的な被害を受け、植物は異常な巨木へ変貌して道路をその根が破壊した。空気には魔素が含まれるようになり、それは人口密集地であればあるほど濃くなり強い魔物を生み出した。
後に語られる話だが世界人口の四割が地震に因って死亡し、近づくだけで襲い掛かる魔物に更に二割が死亡したとされる大事件。
生き残った人々は新しい世界の事をこう口にする。————【災害世界】と。
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