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彗星の如く  作者: タロウ
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第21話 帰ってきた男、赤星

練習試合を目前に控え、星流高校武道場には、日に日に緊張感が高まっていた。 特に、絶対的エースである菊田 空が放つ「素人が練習に参加している」ことへの無言のプレッシャーが、道場全体の空気を重く、ギスギスしたものに変えていた。




その、張り詰めた空気を、まるで風船を針で割るかのように、唐突で、陽気な声が切り裂いた。




「ただいまーッ!フランスの空気はうまかったでー!」




部員たちが驚いて振り返ると、そこには、日に焼けた肌に「J'aime Paris」と書かれたTシャツを着た、一人の男が立っていた。 燃えるような、鮮やかな赤髪。 二年生の、梅木うめき 赤星あかぼしだった。




「赤星、帰ってたのか。親父さんの仕事は、もういいのか?」




主将の竹村が、驚きながらも嬉しそうに声をかける。




「おう、キャプテン!昨日な!向こうのプロジェクト、一段落ついたらしくて、無事、強制送還や!」




梅木は、ニカッと笑って敬礼してみせた。




「赤星先輩!」「おかえりなさい!」




後輩たちが駆け寄り、道場の空気が一瞬で華やぐ。彼は、部のムードメーカー的存在だった。 後輩たちの頭をわしわしと撫でていた梅木は、ふと、道場の隅で孤立している見慣れない姿に気づいた。




青い髪の少年、青野彗悟だ。


「ん?」 梅木は、彗悟の元へズカズカと歩いていく。彗悟は、その威圧感(と派手な髪色)に、思わず後ずさった。




「なんやあいつ、新入りか?それにしても…」




梅木は、彗悟の頭を、面白そうにまじまじと見つめた。




「なんやその髪の色は!青い藻ぉみたいな頭しとんなあ、お前!」




あまりにストレートな物言いに、彗悟は、思わず、小さな声で言い返していた。




「……そっちこそ、すごい赤じゃないですか」




その言葉に、梅木は一瞬きょとんとし、次の瞬間、腹を抱えて爆笑した。




「アッハッハ!言うやんけ、オモロイやっちゃな!気に入ったわ!」




その時だった。栞奈が「青野くん、続きをやるわよ」と声をかける。 梅木は、その言葉に興味津々で首を突っ込んだ。「三秒間の奇襲」という、栞奈が立てた作戦を聞くと、彼はニヤリと笑った。




「三秒やて?面白そうやんけ!監督はん(栞奈のこと)、ワシがこいつの相手したるわ!」




梅木は、フランスでさらに磨きがかかったという、まるで絵に描いたような、完璧な構えを取る。




「始め!」




栞奈の号令。彗悟は、これまでの全てを懸けて、追い突きを放った。 梅木は、彗悟をただの素人だと侮り、華麗に捌こうとする。しかし、彼の認識を遥かに超える、異常なスピードと間合いで、青い髪の少年が眼前に迫る。




「なっ…!?」




梅木の反応が、コンマ一秒遅れた。彼は、咄嗟に上体をのけぞらせて衝撃を殺すが、彗悟の拳サポーターが、彼のメンホー(頭部プロテクター)の顎の部分を、カツン、と軽くかすめた。




しかし、その一撃は、威力が乗っておらず、審判がポイントを告げるほどのインパクトはなかった。いわゆる「浅い」当たりだ。 だが、事実は一つ。彗悟の拳は、この部の実力者である梅木の顔面に、確かに届いていた。




道場が、静まり返る。菊田が、信じられないという顔で、その光景を見ていた。 静寂を破ったのは、またしても梅木の爆笑だった。




「アッハッハ!なんや今の!?速すぎやろ!お前、おもろいやんけ!」




彼は、呆然としている彗悟の肩を、バンバンと親しげに叩いた。


その日の夜。 視聴覚室で、王城高校の偵察映像を見た彗悟は、改めて相手のレベルの高さに、顔を青くしていた。 会議の後、落ち込む彼の隣に、梅木がどっかりと座った。




「心配すんなや、彗悟」




その声は、関西弁特有のイントネーションも相まって、不思議なほど心を軽くした。




「お前のあの突き、初見で完璧に避けられる奴は、全国でもそうおらんで。俺が保証したる」




彗悟の心に、栞奈の緻密な作戦への信頼と、初めてできた「先輩」という味方の存在が、確かな、そして温かい光を灯したところで、物語の幕が引かれた。

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