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2-12

 都会に住んでいる人には分からないかもしれないが、田舎の町と町の間には本当に何もない。

 少し町を出たと思うと急にだだっ広い畑が一面に広がり、スーパーやコンビニなんかも一軒も見当たらなくなる。そして隣町に着くと途端に民家が密集して現れだす。

 それはまるで、畑の海に浮かんでいる小さな島のようだと僕は思うのだった。


「ここが倭町か」


 家から自転車で三十分かけて隣町の倭町に来た。


 倭町は、背の高い高層ビルはほとんど見当たらないがそれなりに交通量は多いようで、ぱっと見て飲食店も多く、歩行者が途切れて無人になることもない。

 街と呼ぶには田舎だけど、町と呼ぶには都会。そんな微妙なまちだと感じた。


 この町に来たのは先日のニュースで流れた地盤沈下の大穴を見るためだ。

 ニュースの情報から、大穴がどこかダンジョンのようだと感じ、気になっていたのだ。

 キアミのお爺さんは、ダンジョン十階層へ行けば知りたい答えが分かると言っていたけど、十階層なんてそんな簡単にたどり着ける場所でもない。

 降りるだけでも時間はかかるし、未知の階層はやっぱり危険だ。慎重に行きたい。

 だから近場で何かわかりそうなこの大穴は見逃せないのだ。

 町へ着いた僕は、さっそく件の陥没した大穴を見に町の中心部に向かった。

 

「穴は今どうなってるんだろうか」

 ここに来る前に、陥没した穴について調べてみたのだが、インターネットで調べてみても何の情報も得られなかった。ネット記事は軒並み駄目でSNSなんかでも倭町の大穴のことを誰も呟いていなかった。

 不自然なほど何も情報が出てこないのだ。

 マイナーな町だから情報が少な過ぎて見つけられなかっただけだろうけど、情報が消されている!などと一人で盛り上がりながら、この町に来るのを密かに楽しみにしていたのだ。


 

 町の中心部に着くと、そこには規制線が張られていて、大穴を隠すように大きな壁が建てられていた。

 壁を避けるように車が行き交うので、道路は酷く渋滞していた。

 陥没を直すなら重機が必要だろうけど、それらしき車は見つからない。

 ただ、作業員らしき人たちが壁を行き来しているのだけは見て取れた。

「むぅ、これじゃ何もわからないな」

 

 せっかく三十分かけてここまで来たのに何も収穫がないのは寂しいから、僕は高いところから中の様子を見下ろしてみようと考えた。

 と言っても壁は高く、十メートルはあろうかという壁を覗くためには、もっと高い視点から見下ろさなければならない。

 しかし、近くにそんな高いビルは見当たらない。

 少し離れているけど、マンションが見えたのでそこから見下ろしてみることにした。


 マンションはオートロック式ではなかったので簡単に最上階へ上がることができた。

 しかし位置が悪く、壁のある通りへ向いた窓はなかった。

「どうしようかな」

 窓は簡単にロックが外れて横開きになるタイプだった。

 監視カメラは見当たらず、窓をのぞき込むと、屋上まではたった数メートル。これなら届きそうだけど……。

 僕は少し考えてから、窓から外へ身を乗り出した。


 

 少しジャンプすれば簡単に屋上の柵に捕まることができた。

 さっとよじ登り、屋上に到着。

 屋上はソーラーパネルもなく、何もない平坦な場所だった。

 

 到着した後で今更だけど、勝手にマンションに入って、窓から屋上へ侵入するなんて普通に犯罪だよな、と思う。

 不法侵入ここに極まれり。

 ……後でマンションの人に謝ろう。


 罪の意識に駆られるのはいいけど、せっかく来たんだから目的を完遂してから降りよう。


 屋上からの景色は大変眺めがよかった。

 周りにこれ以上高い建物がないから見晴らしがよいのもあるが、レベルアップした僕の視力により下を歩いている人の表情までもよく見えた。


 目的の壁は、探すまでもなく見つかった。

 道路に立つ無骨な壁は周囲に溶け込まず、それだけ異質に浮いていた。

 だけど壁の中を見ることはできなかった。

 角度は問題なく底の大穴を見れる位置なのだが、なぜだか壁の中だけぼやけて見えるのだ。

「なにあれ」

 周りの景色はきれいに見えるのに、壁の中だけ視点が合わないというか。まるでそこだけモザイク処理されたかのように不自然に見えないのだ。

「……なんか、きもちわるい」


 よくわからないけど、可笑しなことが起こっているということだけはわかる。

 その事実に、僕は少し怖くなった。

 あれは、僕が関わっていいものなのだろうか。



 僕は進退決めかね、暫く屋上で立ちすくんでいた。

 すると、急に大きな音が鳴った。

 何かが壊れる音と、炸裂音。それから建物が少し揺れた。

 何事かと思い、音のした方。つまり壁に囲われた大穴あたりを注視する。

 すると、壁がいくらか崩れていて、いつの間にかぼやけていた壁の中も見えるようになっていた。


 先ほど見た作業員らしき人達が見たこともないモンスターに襲われているのが見えてしまった。

 遠くからでもよく分かる、歪な機械の形をしているモンスター。

 倒れて血が出ている人たち。

 魔法のようなもので応戦している人たちもいる。だが、モンスターに押されているのか、劣勢な様子が見て取れた。

 このままじゃまずい。

「助けなきゃ!」


 事態を把握した僕は、ほとんど反射的に屋上から飛び降りた。


 

 

 戦闘になるなら防具は必要だ。

 最近は防具を錬術師の工房に入れいて持ち歩いているので持ってきてはいるが、今防具を着ている暇はない。

 だけど、僕には一つ考えがあった。

 

 今日までに幾つかの実験を経て、工房内のある一定の区画に置いてあるものは、念じるだけで出し入れできることが分かっていた。

 肌に触れてさえいればどこからでも出し入れできるようだった。

 なら、すでに着ている状態で出し入れすることも可能なのではないか。


 僕は屋上から落下しながら着ている上着を収納し、そこへ黒いインナーを体に合わせるように念じて出す。

 すると、インナーは初めから着ていたのかと錯覚するほど、なんの摩擦もなく僕の肌にピタリと吸い付いた。

「うん。いい感じ」

 成功したことを確かめると、僕は素早く念じ、次々と防具を着ていく。

 アームカバー、ソックス、パンツ、銅鎧(プレートメイル)()()()()()()、スカートは……まぁ、人命救助が優先だよね。

「わわっ」

 スカートを履いた途端、風で捲れてしまいそうになり、慌てて足を畳んだ。

 少し恥ずかしくなったので、保身のため桜色の飴(トゥアドラーブル)を口に入れた。

 それから最後に花の髪飾りを出した。

「これは付けたことなかったな」

 僕は髪を左に流すように耳にかけ、それを固定するように耳の上でぱちりと付けた。


【ピロリ】

【装備が一定の割合を超えたため 装備スキル 蒼月歩法がアクティブになりました】

 

 


 屋上から飛び降りたとき、怖さは感じなかった。

 地上十二階の建物から飛び降りるなんて、自殺願望でもない限りすることなんてない。

 以前の僕なら、急いでいても階段を駆け下りていることだろう。

 でも、落ちてる今も怖さは全く感じていない。

 身に着けた装備が、僕にどう動けばいいのかを教えてくれるから。


〈蒼月歩法 クレーエ〉


 僕は空中を駆け、大穴へ急いだ。

 



 壁の縁にたどり着いたとき、状況は膠着状態にあることを知った。

 魔法使いらしき人たちが必死に光の壁を作りモンスターの襲撃に耐えていた。

 出入口は初めの衝撃で壊されてしまったのか、がれきに埋もれて見えなくなっていた。


 モンスターは、近くで見ると機械の寄せ集めのような姿をしていた。

 獣のような四足歩行の物から、二足歩行のロボットのような見た目のものまでさまざまあり、そのすべてに複数の大きなレンズが埋め込まれていた。

 ここはやはりダンジョン――いや、迷宮なのだろう。



「支援はまだ来ないのか!」

 光の壁の中で作業員たちは叫びあっていた。

「まだ五分も経ってませんよ!」

「機械の魔獣こわいよぉぉぉ」

「子供みたいなこと言ってないの!」

「だめだ!もう持たない!崩れるぞ!!」


『pigyooooooo!!』

 機械モンスターの一撃で、光の壁がガラスのように割れた。

 壁の内側にモンスターたちが押し寄せる。

「畜生!もうおしまいだ!」

 

 声をかけてる暇もない。

 僕は上空の何もない空間を強く蹴り、モンスターに突っ込んでいった。


「はぁ!」

 先頭にいるモンスターに剣を叩きつける。

 叩き潰すつもりで振りぬいた剣は、思いのほか強い抵抗もなくモンスターの胴体を切り裂けてしまった。

 いつも使ってるけど、さすがの切れ味だ。金属まで切れてしまうとは。

 っと、切れ味に感心している暇じゃないな。 


「大丈夫ですか」

 モンスターを注視しながら背後の作業員へ声をかける。

 けど、反応は返ってこなかった。

 どうしたのかとちらっと後ろを振り向くと、作業員はみんなぽかんと口を開けていた。

 なんだ?

 急に僕が現れたから驚いてるのかな。

 

 なんだかわからないけど、とりあえず考えるのはモンスターを倒してからかな。


 動かない僕をみて、好機と思ったのか、モンスターは一斉に僕へ襲い掛かってきた。

 二足歩行のモンスターの鋭い鉤爪が僕に迫る。

 僕はそれを半身になって躱し、躱しざまに腕ごとかぎづめを切り落とした。

 間髪入れず左右から獣型のモンスターが襲い掛かってくる。

 僕はそれを飛んで躱すと、空中で体をひねりながら足元のモンスターへ技を繰り出す。

〈青鎧剣術 一之剣 シノグロッサム〉

 空中から放たれた桜色の闘気の刃は、足元にいた複数のモンスターを巻き込み地面に大きな亀裂を作り出す。

 しかし、モンスターは未だ大量にダンジョンから這い上がってきている。

 空中にいる僕へ向けて、複数のモンスターが地を蹴り、壁を駆け僕を仕留めんと牙を向けてくる。だが、

「まだまだぁ!」

〈シノグロッサム 変則二連〉

 モンスターが僕へ到達する前に闘気の刃をぶつける。

 それから宙を蹴り、飛び上がっていたモンスターをなます切りにした。

 

 崩れかけの壁に足が付いたところで、全体の様子を俯瞰する。

 倒せたモンスターは全体の二割ほどか。

 先に作業員たちを逃がしてあげたいところだけど、出入り口を作るとそこからモンスターも逃げてしまいそうで怖い。

 そもそもどうしてモンスターが地上に出てきているんだ?

 うちのスライム達は出てきた途端消えてしまうのに。

 

 少しの間思考をしていただけだったが、モンスターたちのヘイトはすぐに近くにいる作業員へと移ってしまった。

 まずい。向こうには負傷者が沢山いるのに。

 僕は思い切り壁を蹴ると、モンスターと作業員の間に割り込んでいった。

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