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2-8

 夜、ダンジョンの中で作業していると、【ピロン】といつもの電子音が鳴った。

 

【試作スキル 錬金空間のマイグレーションが完了しました】

「ん、マイグレ?」

 いつもながら突然だな。

【この度は 安全性の確認が不十分な試作スキルのインストールおよび行使により 記憶の混濁 意図しない遭難 魂の破損など多大なご迷惑をおかけしたこと 深くお詫び申し上げます】

 ……そうか。いつの間にかダンジョンの奥深くに入り込んでいたのはやっぱりコレのせいだったんだ。って、魂の破損!?なにそれ聞いてないんだけど!

【スキル 錬金空間は 大幅な仕様変更により スキル分類がconnectからisolateへと変更されました そのため 名称も【錬術師の工房】へと改めています】

「なるほど?」

【つきましては お詫びを兼ね 錬術師の工房空間内に錬生に必要な物品をインサートさせていただきました】

 インサート?よくわからないけど、錬金術用の物品をくれたってことかな。

【今後このようなことの無いよう システムの強化と情報の取り扱い方法を見直し システム全体で対応策を講じさせていただきます】

 まじめだなぁ。でもこれで僕の二の舞を演じる人がいなくなるのであれば、頑張ってほしいね。

【これからのあなたの活躍と御健勝を心よりお祈りしています】

「うん、ありがとう」

 

 錬金空間のスキルを新しくしてくれたのも、お詫びも兼ねてってことなのだろうか。

 試作スキルではなくなったようだし、今度はちゃんと安全性も確認してくれているはず。

 どんな風に変わったのか、早速使ってみたいな。

 

「使い方は前と同じでいいのかな」

 疑問に思ったことを、何とはなしに口にした。

 すると、驚いたことに、お姉さんから反応が返ってきた。

【音声コマンドは以前と同様に アトリエ となっておりますが 任意で変更することが可能です 変更時はスキル名と共にコマンド変更 と唱えてください】

 おぉ!こんな風に答えてくれることなんて滅多にないのに。

 今回は少し話ができそうな雰囲気だぞ。

 これは名前を聞くチャンスかもしれない。

 

「そうなんですね。ところでお姉さん、お名前は何ていうんですか?」

【………………】

「…………………………ごめんなさい何でもないです」 

 ちょっと唐突に聞きすぎてしまった。

 これじゃお姉さんじゃなくても警戒するよ……。

「そっ、それより幾つか聞きたいことがありまして――」

 取り繕うように別の話にもっていこうとしたのだが、言葉の途中でお姉さんがぼそりと呟いた。

【まだだめ】

「え?」

 それ以降、どれだけ話しかけても返答は帰ってこなかった。

 

 

 いつも丁寧に話し掛けてくれるけど、あれが本来の口調なのだろうか。

 まだ、ということは、時期が来れば教えてくれるのかな。

 それとも、ゲームみたいにダンジョンを攻略していけば何らかのアクションを引き出せるのかもしれない。

「新しいクエストの発生だ」

 それならやっぱり、やることは変わらない。

 さっそく実験を始めよう。

 

「いざ、錬金術師の工房へ 『アトリエ』」


 音声コマンドを唱えると、僕の体の内側から、何かが弾けるように広がった。そして、一瞬のうちに知らない部屋の中に立っていた。

 一瞬のことに驚いたが、周りを見渡して、感嘆のため息が漏れた。

 

 工房内は学校の教室を二、三くっつけたような広さの丸い部屋だった。天井も高く、奥はロフト状の構造になっているようだ。

 部屋の中央には大きな作業台があり、壁に設置されている棚には見たこともないような実験器具が所せましと並べられていた。

「すごい……」

 器具だけじゃない。作業台の近くには黒板があり、近くの棚には錬金術っぽい絵の書かれている本がずらりと配架されていた。

 ロフトを上がってみると、こちらは休憩スペースのようで、ソファにベッド、小さなテーブルがあり、そこにも本棚が置かれていた。

 まさに至れり尽くせり。

 

 お姉さんはお詫びだって言ってたけど、これは少し貰いすぎじゃないかな。

 ……いや、実際死にかけるような目にもあったのだ。これくらいが妥当なのかもしれない。

 

 工房内には四方に窓があり、外を覗くとさっきまでいたダンジョン内の風景が見えた。

 そして、出入り口と思しき扉が一つ。

 試しに扉を開くと、ちゃんと外へ繋がっていた。

「いいね!」

 これでダンジョン内の時間との乖離がなければ、完全にダンジョン内で生活することができる。

 生活するなら、まず食料を大量に持ち込んで、あ~それなら冷蔵庫が必要か、……ここ、電気通ってるかな。もしかしたら、魔法のようなもので動かせるかもしれない。

 なんだか楽しくなってきたな。

「これから忙しくなるぞ」

 そのために、さっきまでやっていた実験を早急に進めなくちゃ。

 僕はやはり、死にかけていたことなんか忘れて、いつものようにダンジョンに夢中になっていった。


 


 僕がさっきまで何をしていたかというと、これまたダンジョンの時間に関する実験だった。

 ある時ふと思ったのだ。ダンジョン内の時間が十倍だったとして、僕の体の成長はどうなるのだろうか、と。

 例えばダンジョン内で安全に寝泊りができる方法を編み出したとして(これは実質クリア)、学校と部活の時間以外すべてをダンジョン探索に使うと仮定すると、使える時間は寝る時間も込みで12時間ほどだろう。十倍にすると120時間、日数にして5日だ。

 地上にいる12時間を合わせると、1日でほかの人より4.5日多く年を取ることになる。それを毎日繰り返したとすると、高校を卒業する頃には僕は31歳のおじさんになってしまうのだ。

 皆はティーン、僕だけ三十路。

 これを初めて考えたとき、恐怖で夜も眠れなかった。

 さすがにこれはあんまりだと思った僕は、ダンジョン内における肉体の成長速度を調べようと決意した。

 

 調べるにあたって、今回は生物を使った実験を行うことにした。

 自分の体を使った実験は、いい案が思いつかなかったから。

 比較的成長が早くて、ほったらかしても大丈夫な生き物。

 最初に植物を想像したけど、植物は水やりの必要があるため却下した。

 それ以外となると、やっぱり昆虫だろうか。

 比較的環境への適応力があり、食事や水分補給も置いておけばKO。

 最長10日放置しても大丈夫な生命力のある……。

 そこまで考えて僕はGから始まる生き物を想像した。

 いやいやいや!却下却下!ありえない!

 虫は別に苦手ではないのだけど、あの生き物だけはどうしてもダメだ!

 昔、あのクワガタサイズの巨体で家中飛び回られた経験があり、それが今でもトラウマだった。

 それに、ダンジョン内がテラフォーミングされそうで怖いし。


 ということで、無難にショウジョウバエで実験を行うことにした。

 なぜショウジョウバエが無難なのかというと、ショウジョウバエはモデル生物と呼ばれ、実験生物として重宝されている生き物だからだ。

 モデル生物は飼育・繁殖が容易で、観察がしやすく、世代交代が早いといった実験を行いやすい生き物のことで、特にショウジョウバエは全ゲノム解読が終了しており、人間のゲノムとの類似性が高い(相同性が70%程)ので、人間の病気や薬の研究によく使われる生き物なのだ。

 なので今回の実験にはもってこいの生き物といえる。


 まず、外に腐りかけの果物を放置し、寄ってきたショウジョウバエを確保。

 繁殖したら寿命がわからないので一匹一匹別の瓶に詰める。

 瓶の中には、餌となる培地と足場の木くずを入れる。

 培地はコーンスターチに、砂糖・水を混ぜ、寒天で固めたものを使った。

 呼吸ができるように瓶の栓にはスポンジを使い、完成だ。

 とりあえずそれを10個作り、ダンジョン内に置いてきた。

 置いた場所は、前に見つけた隠し部屋だ。

 あそこが一番モンスターが出なさそうだからね。

 ショウジョウバエの寿命は約1ヶ月。ダンジョン内で肉体の成長スピードも十倍なら、3日程でお亡くなりになるはずだが……。

 さて、どうなるだろうか。

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