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2-5

 あれから一週間が経った。

 モリミツはまだ学校には来ていないけど、江畑くんとイトが取り成してくれて、とりあえず誤解は解けたようだった。

 けどしばらくは会いに行くのはやめたほうがいいかもしれない。

 今僕が会いに行っても、あまり良い影響は与えないと思うから。

 火曜日からは江畑くんも部活に顔を出すようになり、部活動も本格的に始まった。

 先週のことが嘘のように、楽しい一週間だった。


 週末になると、かづきちゃんが来た。

 この日は一日空いている日らしく、僕のうちで少しのんびりしてから買い物へ出かけることになった。

 

 かづきちゃんがトイレに行っている間、僕はスーパーで買ったドリップコーヒーを入れて、お菓子と一緒に居間へ運んだ。

 木製のテーブルにカップを置くとコトッと音が鳴り、静かな部屋の中に響いた。

 しんとしていると寂しいから、僕は何となくテレビの電源を入れた。

 

「ここはいつ来ても、静かでいいところだね」

 かづきちゃんは居間に戻ってくると、ソファに腰かけコーヒーを手に取った。

「ずっと居ると、静かすぎて少し寂しいけどね」

「それがいいんじゃないか。私のアパートは近所がうるさいから羨ましいよ」

「僕はそっちのほうが安心できるかも」

「まるっきり真逆だね。隣の芝は青いってことなのかな」

「そうかも」

 僕らは静かに笑った。


 そうしていると、つけていたテレビが急にニュース番組に変わった。

 ニュースはヘリからの映像のようで、上空から街の様子を映し出していた。

『現在私は、(やまと)町の上空に来ています』

 リポーターの女性は流暢に話しながらヘリの下の様子を指差した。

 女性の差す方向をカメラが追いかけると、道路に大きな穴が開いている様子が映しだされる。

『見てください。ここからでも、町の中心部にある道路が大きく陥没しているのがわかります』

 陥没している道路の幅は少なく見積もっても10メートル以上はありそうだ。

 周囲では玉突き事故が起きていて、崩れた道路の端で街路樹が倒れている様子も見える。

『あれは、火事でしょうか。何かが燃えている様子も伺えます』

 画面に映る穴をよく見ると、リポーターの話す通り何かが燃えているのが分かった。

 けれど、何かに引火したような燃え上がり方には見えない。煙もなく、小さな火が揺れているだけ。

 瓦礫に紛れて階段のようなものが映っているようにも見える。

 あれ?もしかしてこれ、ダンジョン?…………まさかね。


 僕がニュースを食い入るように見ていると、かづきちゃんが話しかけてくる。

「珍しいニュースだね。地盤沈下かな」

「どうなんだろう」

「ライブ映像みたいだけど、倭町って言ったらこの町の近くだね」

「え、そうなの!どれくらい?」

 近くという言葉に僕が強く反応すると、かづきちゃんは若干引き気味に答えてくれる。

「あー、車で30分ぐらいの場所だけど」

「へぇ」

 それぐらいの場所なら、自転車でいけるかもな。

 

「随分食いつくね。なにかあるの?」

「え、いや、何にも」

「ふぅん。そう……」

 僕がとっさに否定すると、かづきちゃんはジトっとした視線を向けてきた。

 

「樹くん、私になにか隠し事してるでしょ」

 ドキッ

 急に疑いの視線を向けられて、心臓が跳ねた。

「な、なんののこと?」

「あ~はぐらかしてる~。昔はそんなことしなかったのに」

「む、昔っていつの話さ。僕はもう高校生なんだから、秘密の一つや二つあっても不思議じゃないでしょ」

「はぁ、そんなこと言うようになっちゃって……純粋な樹くんはどこにいっちゃったの?」

 大げさに溜息をつきながらも、彼女の口角は上がっていた。

 そうだ、かづきちゃんは昔からこんな性格だった。

 しっかりしているように見えるけど、その実いたずら好きで人を困らせるのが好きなのだ。

 そのせいで、幼い頃から何度ひどい目にあったことか――。

 久しぶりに会ったかづきちゃんは大人な雰囲気ですっかり騙されてしまっていた。


 でも、僕ももう高校生だ。今までのように、簡単に翻弄されると思ったら大間違いだ。

 素っ気無い態度で軽くいなしてやる。

 僕は毅然とした態度を取ろうと、視線を逸らし眉を寄せた。

「そういうの、もういいから」

「あら、大人な態度」

 けど、次に発した彼女の言葉に、僕の焦りは加速していく。

 

「でもわたし、見ちゃったの。君のひみつ」

「へ!?」

 見られた?

 ……な、何を!

 一体なにを知られたんだ!このかづきちゃん(あくま)に!

 やっぱりダンジョンのこと!

 出入りしてるところを見られた?

 それとも学校のこと?

 居眠りの常習犯であることが親経由でバレた?

 それならまだいいけど…………まさか!昔の黒歴史ノートを!?

 ――――ああ!わからない!どれだ、どれを知られたんだ!!

 

 僕があわあわしていると、かづきちゃんはそれを見て笑う。

「その様子だと、いくつかありそうだね」

「そ、そんなことないって!」

「あやしいなぁ」

 このままだと、 知られてないことまで芋蔓式に知られてしまう。

 話がそっちへ向かう前に、まず何を知られたのか確認しないと。

「……秘密って、僕の何を知ったのさ」

 身構える僕をみて、かづきちゃんはニコリと笑った。

「ふふん。知りたいかい?」

「……急に言い渋らないでよ」

「ふふっ、はいはい。――それでは発表します」

 

 そう言うと、かづきちゃんは何故か手を後ろに持っていく。

「樹くんの秘密は~、じゃじゃ~ん!これで~す!」

 効果音と共にかづきちゃんは手を前に持ってくる。


「は」


 かづきちゃんが後ろから取り出したものを見て、僕は一瞬思考が止まった。

 

 かづきちゃんが持っていたのは――――――スカートだった。

 

「――な!……なななななぁ!!!」

 完全に予想外のものが出てきて、僕は動揺した。

「なんで!それ!どうし、そん、――なんで見つかったの!」

 いや、動揺を通り越して頭が混乱し始めた。

 あれは見つからないよう厳重に衣装ケースの奥に隠しておいたのに!

 

「トイレに行ってる間に見つけたの。隠し場所が棚の奥だなんて、わかりやすすぎだよ」

 う、迂闊だった!

 トイレと称して家探しする時間を与えてしまってたのか!

 くそ!ここにきて、平和ボケしてしまっていたんだ。

 どんなことがあっても彼女を一人にさせるべきじゃなかったというのに。

 

「これは、だれのものかな?」

「それは…………と、友達の……友達が、そう!忘れてった奴で」

「違うでしょ」

 かづきちゃんは優しい声で否定する。

「そ、そうじゃないんだ!これは、別になにかあるわけじゃなくて、ただそ――」

 

「本当はだれのもの?」

 

 問い詰めるようでもなく、かづきちゃんは優しく僕に問いかける。

「ぁ……」

 それだけで、僕は言い訳をすることができなくなってしまった。

 

 まっすぐに僕を見つめるかづきちゃん。

 昔からあの目には弱かった。

 僕が何かを隠したり、言い訳をしている時にはいつもああやって僕を見つめるんだ。

 それだけで、悪いことをしているような気になって、嘘が付けなくなってしまう。

 あの目から逃げられた(ためし)は未だない。


 ……僕にはもう、白状するしか道はなかった。



「…………………………………………ぼ……………………僕の、です」


 

 言った。

 言ってしまった。

 僕は、顔が燃えるように熱くなっていくのを自覚した。

 恥ずかしさと緊張で、体から汗が噴き出してくる。

 もう、かづきちゃんの顔をまともに見ることもできなかった。

 

 こんなことを知って、かづきちゃんは何を思っただろうか。

 軽蔑したかな。

 恥ずかしいやつだって。

 それとも、気持ち悪いって思ったかな。 

 

 恥ずかしくて、怖くて。僕は俯いてぎゅっと目を閉じているしかできなかった。

 どんなことを言われても大丈夫なように。自分の身を守るために。

 

 ……だけど、聞こえてきた言葉は、僕の想像していたのとは全く違った、優しい声だった。

 

「よく言えました」

 

 その声に驚いて、俯いたままチラッと様子を伺うと、かづきちゃんは満面の笑みを浮かべていた。 

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