表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/46

2-3

 江畑くんとイトとは、あれから気まずい雰囲気のままで、気づけば土曜日になった。

 結局謝ることも訳を聞くこともできず、日が経つ毎に鬱々とした暗い気持ちだけが募っていった。

 


 ピピピッ ピピピッ


 アラームが鳴ってる。

 だけど、今日は起きる気になれない。

 

 ピピピッ ピピピッ

 ……うるさい。

 僕はスマホの電源を切って、布団を頭までかぶった。

 


 ――目を閉じてじっとしていると、鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 チュンチュン、チュピチュピ。楽し気な声。

 町から離れた山の中は喧噪もなく、自然の音が辺りに満ちている。

 人気のない静かなこの場所では、葉擦れの小さな音まで耳元に響いてくるように感じられる。

 動物が落ち葉を踏む音。

 小鳥の囀り。

 野風で木々がさわさわと揺らめく音。

 がさがさと袋を開ける音。

 カチャカチャと食器の当たる音…………はぁ、また誰か来てるな。

 


 仕方なく体を起こすと、僕はパジャマのまま寝室を出た。

 きっと父さんか母さんだな。

 まったく、なにもこんな朝早くに来なくてもいいのに。

 

 憂鬱な目覚めにため息を吐きつつ、階段を下りる。

 リビングは吹き抜けになっているのだが、食卓テーブルのほうは位置が悪く二階から覗くことはできない。

 そのため、一階へ下りなければ誰が来ているのかわからなかった。


 憂鬱な気持ちで下まで降りた時、目の前にいる人物を目のあたりにして、僕は驚きのあまりギョッとしてしまった。

 

 食卓に座っていたのは、妹のあこやだった。


「な、なんでいるの」

「……いちゃダメなの」

 あこやは僕の朝食用のシリアルを勝手に食べながら、不機嫌そうに話す。

 シリアルには、昨日無くなりかけていた牛乳がたっぷりかけられていた。

 あれじゃ僕の朝食分はないな…………じゃなくて!

「駄目じゃないけど、どうやって入ったのさ。鍵掛かってたはずだけど」

 僕がそう言うと、あこやはポケットからジャラリと音を立てて鍵を取り出した。

「スペアキー」

「スペアキー!?」

「人数分ある」

「なんで人数分あるの!」

「しらない。お母さんが勝手に作ってた」

「あぁ……」

 母さんならやりかねない。

 僕は、母さんが今までしてきた数々の所業を思い起こし、深いため息を吐いた。


 けど、鍵を持っていたとしても、普通は一人暮らしをしている兄の家に勝手に入って来たりはしないだろう。

 母さん同様、あこや()にもプライバシーという概念はないらしい。


「それで、何しに来たの?……まさか心配して会いにき――――わかったからそんな睨まないで」

 会いに、と言いかけた途端、ものすごい形相で睨まれてしまった。

「かづきちゃんに会いに来ただけだから」

 ぶっきらぼうにそれだけ言うと、あこやは食事に戻ってしまった。

 

 ボリッボリッといい音を響かせながらシリアルを食べるあこや。

 その姿を、僕は何くれとなく見つめた。

 

 小学生の頃と比べて髪が伸びたあこやは、セミロングの髪に緩くパーマをかけていた。

 線が細く、華奢な体格は変わらずだが、見ない間にまた身長が伸びたように感じる。

 反抗期らしく、あこやは見るたび眉にしわが寄っている。目つきの鋭さにも磨きがかかっているようだ。

 

 こうして以前との違いを考えていると、ひと月合わないだけで大人になってしまったような気がして、少しだけ寂しさを感じた。

 そんな気持ちを隠すように、僕はあこやの向かいに腰かけた。

「こんな早い時間にどうやって来たのさ」

「うざ、食事中にしつこく話しかけてくんな」

 うへぇ、こわ~。



 朝早く、といったが、時間を確認するともう昼近くになっていた。

 思いの他、ふて寝していたようだった。

 それから少しすると、かづきちゃんが遊びに来た。

 終始むすっとしていたあこやだったが、かづきちゃんが来ると途端に態度をコロリと変え、楽しそうに会話を始めた。

 そのあまりの豹変振りに、僕は驚きを通り越して呆れてしまった。

 愛想よく振る舞ったり、照れたように笑う姿を見ていると、いっそ眩暈(めまい)がしてくるようだった。

 かづきちゃんは一緒に買い物にと僕を誘ってくれたが、外出する気にならなかった僕は、あこやに睨まれたのもあって誘いを断った。

「買い出しは来週でも大丈夫だから、ゆっくり楽しんできてよ」

 そういって、僕は二人を送り出した。


 二人が出かけて行く時、玄関前で見送る僕を、あこやは物憂げな表情で見つめていた。

 何か言いたげに、不機嫌そうに。

 ……言いたいことがあるなら言えばいいのに。あこやは昔からそういうところがある。

 直接言えばいいことを何故だか回りくどく伝えようとして来るし、僕が意味をくみ取れないでいると、どうしてわかってくれないんだと逆切れする。

 いったい僕にどうしろっていうんだよ。

 

 僕はため息を吐くと、誰もいなくなった部屋でソファに寝転がった。

 

 

 

「…………」

 あこやが来たことで浮き足立っていた気持ちも、一人になるとまた元のように沈み込んでいった。

 何もする気が起きない。

 だから今日は何もせず、一日ぼーっとすることにした。

 ぼんやりスマホを眺めたり、映画を流してみたり。そんな風に一日が過ぎていった。

 

 ダンジョンに入らない休日の午後は、思ったよりも退屈だった。


 

 日曜日も、僕はベッドの上でゴロゴロしていた。

 あこやは一日ぐらい泊まって行くのかと思っていたが、その日のうちに帰って行った。

 フットワークが軽いのか、僕と一緒の空間にいるのが嫌だったのか…………ここは深堀しないでおこう。悲しくなるだけだから。


 宿題をする気にもなれず、外出する気にもなれれなかったので、僕は久しぶりにシュイッチでビックミンを始めた。

 

 今作で五作目となるビックミン。

 僕は1から全作プレイしていて、今作も発売と同時に買っていた。

 プレイするのを楽しみにしていたのだけど、新生活やダンジョンのことで忙しく、いつの間にか買ったことさえ忘れてしまっていた。

「忙しくても、充実してたのかなぁ」

 

 おれはビックになるんだ!

 プロローグでお馴染みの、主人公のビック民宣言の画面が出たところで、インターホンが鳴った。

「…………だれだろ」

 重い腰をあげ、とぼとぼとインターホンのモニターを見に行く。

 母さん、仕送り送ったとか言ってたっけ。

 そんなことを考えながらモニターの前に立った僕は、玄関前にいる人物を見て、ひどく驚いてしまった。

 

 モニターの先にいたのは、江畑くんだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ