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二章 未知との葛藤 2-1

「蒲生、見てこれ、テカ厨のクラウン当たった!」

 教室に入ると、いつものように江畑くんが話しかけてきた。

 朝から元気だな、と若干呆れながら江畑くんのスマホを覗くと、画面には金色に光るカードが映し出されていた。

 エセモンカードゲームのスマホ版だ。

「え!いいなぁ、僕普通のやつも持ってないのに」

「いやこれ、めっちゃうれしくてさ、朝からランクマッチでドヤァってしまくってたんだ。蒲生、バトルしようぜ!」

「え、いいけど、もう時間ないよ」

 はやくはやく、と急かす江畑くんだが、そこに背後から声がかかる。

「ふっ、甘いな」

「そ、その声は!イト!」

 エリートトレーナーのイトが話しかけてきた。

「僕はクラウン七枚、イマーシブは全種類持ってる」

「な、なにぃ!」

「見たまえ、この整然とならぶモンスターたちを」

 イトの画面を見ると、煌びやかなカードがたくさん並んでいた。

「すご!ほんとに全部揃ってるんだ」

 イトはニヒルな笑みを浮かべながら、知れっとイマーシブのカードを長押しした。

(イマーシブのカードは長押しすると動き出すぞ!)

「ふはははー!すごいぞ!かっこいいぞ!」

 なんか海〇社長みたいなこと言い出したな。


「くそ、こうなったらデュエルで決着をつけるしかないぜ!」

「ふん、いいだろう。格の違いというものを見せてやる」

 二人はバチバチと火花を散らしている。

「蒲生、デュエル開始の宣言をしてくれ!」

 イトは大仰にポーズをとった。

「えっ、そんなのいらなくない」

「いるだろ!無きゃバトルに身が入らないぜ!」

 江畑くんがなぜか擁護してくる。

「そうさ蒲生、これは決闘者同士の真剣勝負なんだ」

 イト江畑くんもキャラになりきっているようでノリノリである。

「「さあ早く!」」

 まぁいいけど。

 

 僕はカバンからサングラスを取り出した。


 二人はスマホ片手ににらみ合う。

「いくぜイト!」

「来い凪!」

 今ここに、二人の決闘者の熾烈な戦いが幕を開ける!



「デュエル開始ィィィィィィ!」

 


 キーンコーンカーンコーン

 

「はい、朝礼を始めるので席に付いてください」

「「「はーい」」」

 僕らは仲良く席に戻った。

 

「あれ、モリミツ来てないな」

 授業開始前、江畑くんはモリミツの机を眺めて不思議そうにしていた。







 放課後になっても、モリミツは学校に姿を見せなかった。

 向井先生に話を聞くと、病欠だと教えてくれた。

 僕は少しだけ仮病を疑ったが、江畑くんとイトは疑うことすらしていないようだった。

「モリミツも災難だったなぁ。あんな面白い出来事そうそうないのに」

「ね。あんな絶妙なタイミングで転ぶなんて思わないよ」

「あれは、悲しい出来事だった」

 

 今日のハイライトは江畑くんが昼休みに転んだ出来事だった。

 お調子者の江畑くんは昼休みに見つけたいい感じの木の棒を僕らに見せようと校内を走っていた。

 江畑くんが僕らを見つけた時、丁度段差につまずいて前のめりに転んでしまったのだ。

 そしてこれまた丁度、角から理科の小田山先生(59歳男性)が現れたのだ。

 転びかけの江畑くんに気づかず、背を向ける先生(59歳男性)。

 そして手に持っている棒が(59歳男性)のお尻に吸い込まれていったのだった。

「アアァァァァ!!」

『せ、せんせぇー!』


 


「先生には悪いことをしたよ」

「ズボンが破れていたところを見るに、あれはギリギリだったね。もう少し先生に近かったら今頃病院行きだったよ」

「さすがにそれはないんじゃない?」

 僕が軽く否定すると、イトは目を細めた。

「蒲生。お尻は、怖いよ」

「あっ……」

 物悲し気に話すイトを見て、僕らはイトにも悲しい過去があることを知った。


「よし、じゃあこの話を手土産に、見舞いに行ってやるか」

「それを手土産にするのはどうかと思うけど、心配だし顔を見に行くのもいいかもね」

「俺らに連絡もなく休むことなんてなかったからな」

 二人はモリミツのお見舞いに行くことで話を進めているようだった。

「蒲生はどうする?」

 聞くと、モリミツの家は学校から少し離れた場所にあるらしく、バスを乗り通ぐ必要があるんだそう。

「俺らは通学路のすこし先だから気軽に行けるんだけど」

「う~ん。僕はやめておこうかな。暗くなるまでに帰らないといけないから。ほら、僕の家、山の中だし」

 本音を言えば一緒に行きたいんだけど、ばれたら父さんにひどく怒られそうなんだよな。

「あぁ、確かにそんなこと言ってたね」

「なら、また明日だな」

「うん。また明日」

 そう言って僕らは校門前で別れた。

 

 家帰ったら何しようかな、宿題をした後は…………そうだ!納屋に行ったときスキルの入った瓶の下に手紙があったんだった。

 すっかり忘れてた。

 あれ、結局読めなかったけど、じっくり読めば文字を判別できるんじゃないだろうか。昔の文字だって結局は日本語なんだし。

 もうダンジョンはこりごりだけど、自分の(スキル)のことは知っておくべきだろう。

 ダンジョンとおじいちゃんの関連も気になるところだし。

 僕は思い立ったが吉日と、速足で学校を後にした。

 

 帰り際、スーツを着た男性が学校の近くをうろついているのが目に付いた。



 


 §〈凪〉



 

 

 夕暮れ時、くたびれた商店街の片隅に俺とイトは来ていた。

 目の前には、総菜屋餅田の看板を掲げる商店がある。

 揚げ物がメインの品ぞろえだが、ほかにも弁当やおにぎり、サラダなんかも並べられていて、放課後のこの時間には目の毒だ。

 入り口には、客を呼び込んでいる女性がいた。

「おばさん、久しぶりです」

 俺は呼び込みをしていたモリミツの母さんに挨拶がてら話しかけた。

「モリミツのお見舞いに来ました」

 イトは来る途中で買った地元のお菓子メーカーの菓子折りを持っていた。

 そんなの別にいらねっていうだろうに、律儀な奴だよ。

 

 話しかけられたモリミツの母さんは、俺らをみて顔をほころばせる。

「わっ久しぶりねぇ。二人ともまた大きくなったんじゃない?」

「そんなに変わってませんよ」

 俺らは、モリミツの母さんと少しの間軽く談笑した。

 そうしていると、店の奥から小学生ほどの背丈の男子が顔をのぞかせた。

「あ、イトさん凪さんいらっしゃい」

「あ、翔太くん。久しぶりだね」

「お~元気にしてたか」

 モリミツの弟、翔太は店先まで杖を突いて出てきた。

「うん。元気だよ~」

「もうこの子ったら元気すぎて、こんな足でも外で走り回って遊んでるのよ」

 そういって、モリミツの母さんは翔太の足を心配そうに見つめた。

「おいマジかよ。やるじゃん」

「転ばないよう気を付けてね」

「だいじょ~ブイ!」

 翔太は笑ってピースサインを見せた。


「てゆうか今日は何しにきたの?遊びに来たの?」

 翔太の問いに、あ!そうだった、とオーバーなリアクションをとってから、俺は本題に切り出した。

「モリミツの具合どうですか、風邪って聞いたんですけど」

 そう聞くと、モリミツの母さんは眉を寄せた。

「あぁ、それがね、今困ってるのよ」

「困ってる?」

「あの子、今日はなぜか部屋から出たがらなくて」

「え、そんなに調子悪いんですか?」

「それが風邪じゃないのよ」

 モリミツの母さんの言葉を聞いて、俺らは驚いた。

「風邪じゃないって、どういうことっすか?」

「ん~それが、なんだかわからないんだけどね、昨日辺りからすごく取り乱してるみたいで、大声で叫んで学校には行かないって言うのよ。学校には心配かけないように病欠にしてもらったんだけど……あの子どうしちゃったのかしら」

「……なにかあったのかな」

 イトは不安そうな顔を見せる。

「……おばさん、上がらせてもらいますね」

「えぇ。あの子にびしっと言ってやってね」

 


 店の奥には二階へ上がる階段があって、店の二階は居住スペースになっている。

 俺は勝手知ったる他人の家、と迷うことなく階段を上がっていった。

 二階に上がってすぐの部屋がモリミツの部屋になっていて、奥の部屋は、今は物置になっている。

 

 付いてすぐ部屋をノックすると、部屋の中から物音が聞こえた。


「モリミツ、大丈夫か?」

「…………な、凪か」

 部屋の奥から聞こえてきた声は、ひどく憔悴したような声だった。

「連絡もなしに学校休むなんてどうしたんだよ?なんかあったのか?」

「……なんもないよ」

「なにもなくないでしょ。おばさん心配してたよ」

 イトが心配そうに話す。だがモリミツは別のことに気を取られているようだった。

「が、蒲生は、……いるのか?」

「え、今日は来てないよ。誘ったんだけど遅くなりそうだからって……」

 イトがそう話すと、モリミツはそうか、と一言呟いた。

 

 その後、少しの間沈黙が続いた。

 

 俺は息を吐いた。

「中入るぞ」

 断りを入れて、俺は部屋のノブに手をかける。

 しかし、ノブは固い音を立てて途中で止まった。

「立て籠もってやがる。――お前の自室は今、完全に包囲されている!人質を解放して速やかに投降しなさい」

 俺は軽口で場を和ませようとしてみた。けど、モリミツの反応は鈍かった。

「帰ってくれ。今日はそんな気分じゃないんだ」

 モリミツの反応に、俺らは神妙な顔で視線を合わせた。

「どうしたんだよ。いつのもお前らしくないぞ」

「そうだよ、いつもみたいに人質役と犯人の一人二役を――」

「いいから帰れって!」

 

 モリミツが怒鳴り声をあげた。


 そのことに、俺は心底驚いてしまった。

 今まで、モリミツが感情的に叫ぶところなんて見たことがなかった。

 溌剌として、大きな声はよく出すし、よくケンカしたりもしたが、こんな怒鳴り声をあげるなんてことなかった。ましてそれが自分たちへ向けられるなんて夢にも思わなくて――――しばらく言葉が出なかった。

 


 

「……せめて、何かあったか話してよ」

 長い沈黙の後、イトはそう話しかけた。

「みんな心配してるよ。僕も凪も、蒲生だって――」

 イトが蒲生の名前を出した時、部屋からベッドの軋む音が聞こえた。

 

「……なぁ話せよ。変な話だったとしても、笑わないでちゃんと聞くからさ」

 そう声をかけると、また少しの間があった。


 しばらく待っていると、モリミツはゆっくりと何があったか話し始めた。

 

「……お、俺……見ちまったんだ」

 

 酷く震えた声で、モリミツは振り絞るように話す。

 

「あ、あいつが、蒲生が……ひ、人を」

 


 殺しているところを。

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