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爛れた皮膚を水で清潔にした後、僕はもう一度赤いスライムと対峙してみることにした。
赤いスライムは今まで戦ってきた中で七階層の水晶と肩を並べるほどに、いや、それ以上に強かった。中・近距離では最強と言えるかもしれない。特に中距離の広範囲攻撃が厄介だ。
そのため、対策として、見つけ次第一之剣を放ってみようと思う。
これで倒せれば御の字だね。
少し進むと、赤いスライムを見つけた。
「うわっ、二匹もいる……」
大丈夫かなと思うも、この距離では相手の攻撃も届かないだろうと、技を繰り出してみることにした。
技の構えを取りながら、剣を握る手に力を入れると、剣身が光りだす。
だいぶ遠いが、当たってくれ。
〈シノグロッサム〉
三日月状の光が放たれる。
赤いスライムの弾丸のような攻撃にも劣らない速さで飛んでいく攻撃は――――残念ながら、あっさり躱されてしまった。
こちらに攻撃してくるスライムだったが、こちらはやはり距離があるようで球は僕まで届かず地面に落ちた。
スライムたちは僕に攻撃が届くところまで近づこうと体液を噴射させて近づいてくる。
「あれ、これって……」
――――――――
僕の近くまで来たスライムたちはどちらも酷く小さくなっていた。
「はぁ……こんなことだろうと思ったよ」
通りで強いわけだ。
分かってしまえば、一階のスライムと何ら変わらないじゃないか。
「あの死闘は一体……」
なんだか体の力が抜けてしまった。
スライムは、石ころを投げるだけでこちらに気づくため、対処は本当に楽だった。
けれど、離れた位置にいることが前提のため、スライムを探すのに集中して時間を使い、対峙した時にも体が小さくなるまで距離を保っていなければいけない。
そのため二階層の探索は恐ろしく時間がかかった。
それでも、僕は辛抱強く進み続けた。飲み込んだ玉の効果がいつまで続くか分からないという焦りもあったが、この階を上がればすぐ外へ出られるという思いが僕の足を前へと進ませた。
休憩も入れず、宝箱も無視して進んだ。
進み続けた。
そしてついに――
「やっと見つけた」
一階層へ続く階段を見つけることができた。
階段を見つけたとき、思いの外気持ちは冷静だった。
もっと嬉しいかと思ったけど、なんというか、ほっとしたような気分だった。ようやく帰れるんだって、そんな気持ちだった。
ゆっくりと階段を上り一階へ上がる。
上がった先には、いつものダンジョンの風景。
この道は、よく知っている。
僕は歩き出す。見慣れた青い球体を剣の一振りで倒しながら、ゆっくりと。
そしてたどり着く。
上への階段に。
狭い階段を手をつきながら登り、僕は鉄の扉を押し上げる。
見慣れた景色が目に入り、僕は感慨とした溜息をついた。
「帰ってこられたんだ」
ごちゃごちゃとした倉庫部屋をみて、こんなにうれしくなるなんて思わなかった。
部屋の中は日の光が入っていて明るい。
「朝なのかな――――って日付は!」
僕は急いでスマホを探し、日付を確認する。
「あぁ、なんだ。日曜日か」
スマホの画面には、日曜日の午前11時と書かれていた。
ホッとすると、僕は近くのソファに凭れるように座り込んだ。
「なんだか眠くなってきたな……」
いろいろあったからなぁ。
無事に帰ってこれてよかった……。
学校も休まなくてよかったし…………明日までの宿題は、なにか、あったかな…………
僕はソファに座ったまま、いつの間にか眠り込んでしまった。
ピンポーン
「あれ、開いてる」
「まったく、不用心だなぁ。樹くんいる~?予定がなくなって時間できちゃったから、この前言ってた…………おや、これは」
§
起きたのは朝方になってからだった。
ちょっと寝すぎたな。二十時間は寝ていたんじゃないだろうか。
体を起こすと、毛布がはらりと床に落ちた。
「あれ、毛布なんて掛けたっけ」
う~ん、きっと寝ぼけてたんだな。
脱ごうと思っていたスカートもそのままにしちゃってたし。
スカートを脱いだ後、ふと気になってしげしげと眺めてみる。
「皺には……なってないね」
皺らしきものは一つも見当たらない。目を凝らせば縫い目も細かく、しっかりした生地であることがわかる。
さすがダンジョン産、物が違うね。…………もう着ないけど。
僕はもうダンジョンに潜るのはやめることにする。
こんな目に合うのはもう懲り懲りだし、今までダンジョンに潜っていて陸な目にあった試しがない。潜ったところで知的欲求がみたされるだけで、僕の身になることなんてあまりない。
何より、大人になる前に死にたくはないから。
学校までまだ時間があるので、僕はシャワーを浴びてから、ダンジョンへ行く前に作ってすっかり冷めてしまっていたカルトッチョを温めなおして食べた。
外に出ると、いつもと変わらず、いい天気だった。




