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「えぇと、四十九段目の階段の右側の壁、ここかな。それからなんだったっけ?」

【四十九段目中央 床下二十九センチを中心に五立方センチメートルの空間があり 空間内部にフロアの入り口を開閉させるボタンがあります】

「お姉さんって、一気に言うよね」

【…………】


 いつものごとく見慣れた階段を上り、四十九段目。そこで僕は隠し部屋の入り口を探していた。

「えっと、床下二十九センチ……ってどれくらいだろう」

 しゃがんでくぼみを探してみる。

 オレンジ色の松明の明かりを頼りに、矯めつ眇めつ、微に入り細を穿ち。

「見当たらないな……」

 階段の壁はダンジョンの亀裂壁同様ゴツゴツしていて、松明の明りだけでは薄暗くて陰になるところが多い。

「すっごくわかりづらい場所にあるのかな…………って言っても中央の床下二十九センチだしなぁ」

 これは少し、時間がかかるかもしれないな。

 

「もしかして、段数を間違えちゃったかな」

【五階層からカウントして現在四十九段目です】

「でもなぁ…………実は上り始める前の、床が石畳に変わっているところからカウントしての四十きゅ【今いる場所であってます】あ、はい」


【触察にて探すことをお勧めします】

「触ってってこと?」

 明暗の差がはっきりしているから、確かに触ったほうが確実なのかもしれない。

 そう思い、僕は壁にそっと手を触れてみた。

 ごつごつしている割に、岩壁は滑らかで案外触り心地がいい。

 するすると壁に手を這わせていると、手の感覚がそれらしき窪みを見つけた。

「あ、みつけ――――えっ!」

 窪みに視線を向けると、僕の手が壁に埋まっていた。

「なっ……なにこれ!」

 恐る恐る手を引っ込めてみると、何事もなかったように指先には指が付いていた。

 不思議に思い、もう一度指先を壁に近づけてみた。

「壁があるのに、無い」

 指が壁に埋没しているところは光を通さないのか全く見えなかった。

「なんだろう……ホログラム的なものかな」

 壁があるように映像を映し出しているような、そんな仕組みなのかもしれない。


 指が消えていくのが面白くて、僕は指を壁の境界のところで行ったり来たりさせる。

「不思議だなぁ」

【内部のボタンを押します】

「あ、そうだったね」

 お姉さんに言われて、今の状況を思い出す。

 そういえば、こんなことしている場合じゃなかったな。

 

 奥まで手を入れると不自然に隆起した場所があった。

 それがスイッチかなと思い、強めに押してみる。

 ガコッ

 そんな音と共にスイッチらしき突起が奥へと押し込まれる。

 それからすぐ、目の前で軋んだ扉を無理やり開けたような音がした。


 

「どこか開いたのかな」

 しかし、周りを見回してみても、それらしき場所は見当たらない。

「む……次はどうすればいいの?」

 どうすればいいのかわからないので、素直にお姉さんに聞いてみる。

【フロア内部へ進行してください】

「えっ、……どこに扉があるの?」

【進行方向にある壁面に扉があります】

 壁面?

 目の前の左右に伸びる壁を見てみるが、扉らしきものは見当たらない。

「何もないけど…………あ」

 そうかと思い、僕は壁に触れてみる。

 すると、()()()()()()()()()()()()

「なるほど、入り口も見えないようになってるんだ」

 うっかりスイッチを押してしまっても、部屋に気づけないようになってるんだ。

 まさに隠し部屋。

 これを自力で見つけるのは難しいだろうな。

 

 それはいいのだけど、そういう作りになっているとかって、もう少し教えてくれてもいいのに。

 中途半端に説明的なのは、なんでなんだろう。

「まぁいいんだけど……」

 案内してもらっている側なのにぐちぐちと失礼なことを考えながら、僕は見えない扉をゆっくりとくぐっていった。


 触れない壁に顔が通過した途端、ぱっと視界が変わった。

 そこは、松明の明かりに照らされた小さな部屋だった。

 広さは教室の半分ほどだろうか。

 そんな楕円形の小さな部屋に、宝箱が三つ置かれていた。

「おぉ!見たことない宝箱がある!」

 左右の宝箱はいつもと同じ木箱なのだが、中央にある宝箱だけは革張りに金属の枠組みの物だった。

【フロア内中央のオブジェクト――――ボックス内に摂取可能な物質を認めます】

 

 食べ物がある。

 そう思うと、急にお腹が痛いほどの空腹を主張してきた。

 まるでお腹がすいていたことを、今思い出したかのようだった。

 早く何か口に入れたい。

 僕は急かされるように、革製の宝箱に吸い寄せられていった。

「おいしいものだといいな……」

 革製の宝箱にはカギは掛かっていないようだったので、僕は一息にそれを開け放った。


 しかし、僕の期待とは裏腹に、中には小さな長方形の箱しか入っていなかった。

「……これだけ?」

 箱の中身も確認してみると、中は仕切りで三つに分けられていて、それぞれに色の違う玉が入っていた。

「あの、お姉さん、これは…………」

【高エネルギーの経口摂取可能な物質です】

「いや、そうじゃなくて、もっと具体的に」

【オブジェクトNo.274です】

「……ちょっと具体的すぎます」

 なんというか、お姉さんって変に融通の利かないところがあるよね。

「食べて、変なことにならない?」

【…………】

 答えてくれない。

「も、もしかして……わからないの?」

【ちっ】

「えぇ……」

 舌打ちされちゃった。

 

 

【………………かつて、死者蘇生の法を探し求めた錬金術師キアミが精霊王から盗み出した秘宝を使って作り出したとされるクィンタ・エッセンチア それを模倣・再現したものです】

「ん?なんて?」

【クィンタ・エッセンチアは すべての物質の根源となる精髄(エッセンス)であるという考えのもと作り出されたものであり その効果はあらゆる物質に作用するはずでした しかし その生成はうまくいかず 根源力を覆う外殻を突破することはできませんでした】

「……なにを、なにを言ってるんですか」

【そのため 出来上がったのは根源力が大気中で安定化した物質 レルゼンを結晶化したものとなりました】

「ついていけません。後で説明文を自宅に郵送してください」

【精霊王の秘宝を使ったためか、本来作り出されることのない同位体となる二つの力も――――】

「わ、わかりましたから、要点だけ!要点だけまとめてください!」

【食べると力がつきます】

「落差が激しすぎる!」

【ぷぷっ】

 なんだ?お姉さん、もしかしてわざとやってる。


【噛まず 一飲みで摂取することをお勧めします】

「うん……もうここまで来たら、選択肢はないよね……」

 しょうがない。お姉さんが危険なものではないと言うのなら、腹を括ろう。

 …………あれ、言ってないっけ?

 

「危険なものでは【ありません】」

 打てば響くような回答!どうもありがとうございます。

 

 って、いつから漫才みたいなやり取りになってしまったんだろう。


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