1-28
草のモンスターは、噛みついて血を吸っている処から、吸血草と命名した。
ん?トラジは韓国語でグラスリーチは英語でバラバラじゃん。統一しろって?いいの!その場の雰囲気が大事なんだから!
きっと正式な名称は誰かが勝手に決めてしまっているんだろうから、真剣に考えたってしょうがないよ。
ということで、吸血草は裂けば倒せることが分かったので、大量に集まらないよう定期的に引っ付かせて倒すことにした。
長時間噛まれていなければ血も出ないのでこのやり方で今後も行くことにする。
火炎桔梗は見つけ次第、花・即・折の精神で突撃しては茎を折りに行った。
火炎桔梗ももしかしたら茎の根元に魔石があるのかもしれないが、時間も掛けられないし鋭利な刃物でもない限り取り出すことは難しいだろう。
火炎桔梗にはそれなりの頻度で出くわしていて洞窟内で大量に火を使われていたのだが、酸素が初めから薄いと感じた場所はどこにもなかった。
もしかしたら、洞窟内の植物は光合成をしているのかもしれない。太陽光に代わるエネルギーを魔力のようなもので補って。
探索中、宝箱をまた二つ発見した。
一つは見知らぬ硬貨が革袋に入っているもの。もう一つは三十センチ程の暗褐色のよくわからないものだった。
硬貨は表に木のように見える抽象的な模様があり、裏には見たことのない文字が書かれていた。
もう一つのものは何かの自然物のようで、触ってみると乾燥していて固く、軽かった。
気にはなったが革袋はずしりと重く、乾物は大きい。体力の落ちている今持っていくのはリスクが高いだろう。そのため硬貨を一枚だけスカートについていたポケットに入れた。
中の硬貨を箱にぶちまけて、革袋は水筒代わりにした。
空腹が限界に達し始めたころ、ようやく上へ続く階段を見つけた。
これは、とてもうれしかった。
進んでいる実感を持てたというのもあるが、体が思うように動かせなくなって焦っていたのだ。
「これ、ハンガーノックって、いうやつ……かな…………」
僕はまたスロープ状の階段を数段上ったところで倒れるように眠った。
目覚めたころには、体力は少し回復していた。
体の調子を確かめるように腕を回してみる。
「……少しは動けそうかな」
寝る前に考えていたハンガーノックとは、極度の低血糖状態により体が自分の意志とは無関係に運動を停止してしまう状態のことだ。軽度であれば頭がぼーっとする程度だが、重症化すれば意識を失い、最悪死んでしまうこともあるのだという。
体に蓄えられていたグリコーゲンを一度に使い切ってしまうと起こる症状で、睡眠などの休憩を入れることで分解に時間のかかる脂肪などがエネルギー源として供給され症状は治まる。この時供給されるエネルギーはケトン体と言われる物質でブトウ糖の代わりとして身体機能を維持してくれる。なので、人間は水分があるだけでしばらくは生きていくことができるのだ。
しかし補給もなく急激な運動を続ければ、またすぐにエネルギーを使い切ってしまうだろう。
筋肉もエネルギーとして使われていってしまうし、空腹感も激しくなっていきそうだ。
ここからはなるべく戦闘は避けて、地上に戻ることを最優先に考えよう。
かたい床で寝て体は痛いが、前みたいにモンスターの襲撃がなかっただけマシだろう。
僕は空腹を紛らわすために水を飲み、革袋に水を充分に蓄えてから階段を上った。
階段を上ると、植物は少しづつ少なくなっていった。
けれど上の階にたどり着いても無くなることはなく、植物は相変わらず壁に張り付いていた。
植生も変わったようで、空間全体が緑色になるほどの密度ではなく、馴染みのある青い光がダンジョン内に満ちていた。
「下の階より、少しは歩きやすいかな」
地面は固い土で覆われべちゃべちゃとした水気はない。
歩きやすい反面、ここでは水分補給ができないというデメリットもあった。
「ここは道をしっかり覚えていないとな」
幸いここは地面が土になっているので地面に道しるべを書くことができる。
「最初はこっちに行こう」
僕は分かれ道に矢印を書いて進んでいった。
ここでも植物系のモンスターが出るのだろうか。
だとしたらやっぱりほかの植物に隠れているに違いない。
注意して進まないとな。
早く地上に戻らないといけない焦りで、もどかしい思いを抱きながら慎重に歩いていたのだが、そんな僕を馬鹿にするかのように、そのモンスターは堂々と現れた。
道の中央に、僕の腰ほどの背丈のカラフルな花が咲いていたのだ。
「見るからに怪しい……絶対アレだな」
細長い袋状の花が縦一列に連なって咲いていて、それが一つの株から五本生えていた。
花は、赤から紫まで虹のようなグラデーションをしている。
さて、どうしようか。
戦闘は避けようとは思ったが、道の中央にあれば倒さず進むことはできない。
別の道を行ってもいいが、岩陰に生えていたり見落としたりなどして突発的な戦闘になってしまう可能性を考えれば、余裕のある今のうちに戦ってみたほうがいいだろう。
何より、一度倒している相手だ。
何時ものように、愚直に突撃していこう。
「悪く思わないでね。これは僕と君との生存競争なんだから」




