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殴りつけた拳は火炎桔梗の茎部分へと命中する。
火炎桔梗はその強い衝撃にグラリと体を仰け反らせるが、地面に這っている根が思いのほか力強く体を支えていたため倒れることはなかった。しかし、
「やっぱり」
僕は自分の考えが合っていたことに口角を上げる。
火炎桔梗に突撃する前、最低限どこを攻撃するかだけは考えていた。
花の中央の穴か、ちぎりやすそうな花弁か、体を支えている茎か、根か。
最初は花びらを千切ってしまおうかと考えたのだが、僕はあえて茎を攻撃することに決めた。
最初にこの階へ上がって来た時、火炎桔梗が倒れているところを目撃していたのだが、思い出してみると倒れている火炎桔梗はすべて茎の部分が折られていたのだ。
水晶の攻撃は属性攻撃のようなもの以外は突撃がメインだった。そしてそれを証明するように、僕の攻撃した部分からは緑色の液体が流れ出ていた。
思った通り、火炎桔梗は巨体のわりに茎が脆いのだ。
ギイイイイィィィ
火炎桔梗は怒ったように音を出すと、頭上の花部分を思い切り叩きつけてきた。
「うわっ!あぶな」
咄嗟に横へ飛んで逃げた。
こんな攻撃もしてくるのかと驚いたが、振り返ると火炎桔梗は茎から緑色の液体を吹き出しながら体を起こせずにいた。
「……ひどい自爆攻撃だな」
一瞬唖然としてしまったが、僕はここぞとばかりに茎を掴んで折り曲げた。
思い切り力を入れると、バキッと枝の折れるような音がして茎が折れた。
火炎桔梗は茎が折れたことで少しの間もがいていたが、力なく項垂れるとそのまま動かなくなった。
決定的に折れてしまった茎からはタールのような黒々とした液体があふれ出てくる。これが口から噴射していた可燃性の液体なのだろう。
「以外に呆気なかったな」
もっと危険なモンスターだと思っていたのだが、戦ってみれば以外にすんなりと倒せてしまった。
一見派手な炎だって【熱耐性 中】と【苦痛耐性 中】があるおかげで短時間なら熱くても耐えることができる。怖いのは炎での窒息だけだろう。
ちらりと火炎桔梗を見るが、白い靄が出てくる気配はない。
火炎桔梗にも核はあるのかもしれないが、今それを探している時間はない。
僕は、レベルアップは諦めて小走りでこの場を去ることにした。
「…………はぁ」
落ち着かない。
動くたびにプリーツのひだがひらひらと揺れるのだ。
走る勢いでスカートの内側に空気が通るたび、心もとない気持ちが沸いて少し内股になってしまう。
どうして僕は、こんな格好をしてしまったのだろうか。
「恥ずかしい……」
戦っている最中は気持ちが高揚して気にならなかったのに、落ち着いてくると気になってしかたがない。
当座の危機は去ったわけだし、もう脱いでもいいんじゃないだろうか。
…………でも、やっぱりダンジョンから出るまでは危険だから……もう少し着ていなくちゃ……
「はぁ」
また、ため息が出る。
僕は気持ちを切り替えようと、ほおをペチッと叩いた。
火炎桔梗を倒す算段は付いたわけだが、この階層にはもう一種類モンスターがいることを忘れてはいけない。
大量にいる草のモンスターだ。
あの時見た草のモンスターは、形が一種類だけじゃなさそうだったのだ。
擬態しているモンスターをどう見つければいいのだろうか。
「むぅ……取り合えず、捕まえてみるかな」
僕は地面に生えている草を片端から引き抜いてみることにした。
二十本ほど引き抜いて、なかなか見つからないなぁなんて考えていると、突然引き抜いた草が暴れだした。
キキキキキキ
「わ、なんだ!?」
驚いて手を放しそうになってしまったが、よく見ると手の中で暴れているのは草のモンスターだ。
「ようやく見つけた、って痛っ」
チクリとした痛みが走る。草のモンスターに噛まれてしまったのだ。
幸い掌の半ばまではアームガードで覆われているので無事だったが、指先を思い切り噛まれてしまっている。
血は出てないところを見ると、大した力はなさそうだ。
そのことに少しホッとすると、僕はじっくりと草のモンスターを観察することにした。
草のモンスターは細い茎に無数の口がついている。
犬歯のような尖った歯が口の周りにぐるりと生えていて、僕の指をガジガジと噛んでいる。
全長は二十センチほど。葉は茎に対してバラバラで、一節に葉が一枚生えている。
葉を触ってみると少しざらつきがあった。
「草に擬態した虫のような生き物かと思ってたけど、ちゃんと植物なんだな」
葉を少しちぎって匂いも嗅いでみたが、確かに植物独特の香りがした。
移動はやはり根っこの部分だろうか。
ひげ根のような細い根が細かく動いていて、ちょっと気持ち悪い。
噛まれているところがすこし痛くなってきたので引き剝がそうとしたのだが、草のモンスターは吸盤のように指にくっ付いて離れない。
むりやり引っ張れば、手の皮まで剝がれてしまいそうだ。
「これ、噛まれると厄介だな」
火炎桔梗が現れた時は、火に逃げまどっていた姿を見たので火が弱点ではありそうなのだが、現状自分で火をつけることは難しい。
とりあえず葉をすべて千切ってみたが、茎だけの状態でも嚙む力を緩めてはくれなかった。
「むぅ」
茎のてっぺんにある生えかけの葉も千切ろうとしたところ、今度は茎も一緒に縦に裂け始めた。
「お、これは」
そのまま縦に裂いていけば、この植物もたまらず逃げ出そうとするはず。
そう考えていたのだが、予想に反して茎を半ばまで裂いても嚙むことをやめなかった。執念深いというかなんというか。
「野生の生き物って、こういうところが怖いよね」
噛むのを止めないので、僕は仕方なく最後まで茎を裂いてしまった。
体が真っ二つに割れてしまったモンスターはようやく諦めたようにかむ力を緩めた。
裂いた茎の中心を見ると細い管があり、血が付着していた。管は口部分とつながっているようだ。
嚙まれていた手を見ると、少し血が滲んでいる。あれだけかまれていれば血もでるか。
「お、核も見つけた」
殆ど根に近い部分に小さな緑色の石を見つけた。
指先でつまみ上げると、すぐに割れて黄緑色の靄が出てきた。
「うーん、いつまでも靄っていうのもなぁ」
ファンタジックな場所だし、ここはいっそ魔力とでも呼んでしまおうかな。
そうなると、モンスターの核は魔石と呼んだほうがいいな。
「やっぱり植物だから緑色の魔力なのだろうか。属性的な?」
下の階でも水晶の色に応じて魔力の色が変わっていた。
確証はないが、そう考えておくことにしよう。




