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しばらく進むと、行き止まりにたどり着いた。
ここまで分かれ道は一つもなかった。
あの花のモンスター――命名火炎桔梗――が追ってきていると考えると、火炎桔梗との激突は必至。
だから何か策を講じないと――――いけないんだが、その前にまずコレを開けてから考えることにしよう。
「なにか現状を打開できるものが入ってるといいけど」
僕は目の前にドンと鎮座まします木製の箱に手を伸ばした。
「武器でも入ってるといいんだけど」
この状況を打開できるようなアイテムが入っていることを祈りながら、僕は宝箱の中身を確認する。
藁の敷かれた木箱の中には、折りたたまれた布が入っていた。
「お、やった!新しい防具だ!」
防御力が上がれば、モンスターを相手にする時も心強い。
防火性が高いことも証明されているので、これから火炎桔梗を相手取るのに肌の露出が少なくなるのは助かる。と思っていたのだが……。
「これで防御面は万全……」
手に取り広げてみると、それはスカートだった。
「なんだ、女性用かぁ」
期待してしまっただけに落胆も大きかった。
確かにここへ来るのは男性だけだとは限らない。
女性用の服だって用意していないと不公平だろう。
そうなると、今後もこう言ったハズレの装備が出てくるのかな。
「ん?」
しかし、広げたスカートによく見慣れたものを見つけてしまった。
見つけて、しまったのだ。
スカートの裾部分に、丁寧な縫込みの青い刺繍が縁取るように縫い込まれていた。
「これ……このインナーの刺繍と、同じ…………………………えっ」
これは…………これは、ダメだ。
僕は必死に無心になろうと努力した。
しかし、思考は後からあとから溢れ出てくる。
インナーだけじゃない。一階層で見つけた白い鎧にも同じ模様があった!それ以外にも、昔手に入れた花の髪飾りにだって!ここで見つけた防具全てに!!………………同じ模様がある。
「これ……全部同じ装備、なの?」
なら、今僕が着ているのは?
インナーの刺繍は妙に凝っていてデザイン性が高くて、まるで――
「じょ、女性用の、下着?」
ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
口に出した途端、抑えようもなく羞恥心が溢れてきた。
僕はとっさに腕で体を覆い隠すように蹲った。
どうして気づかなかったんだ!思い返せば気づけるポイントは幾つもあったじゃないか。
髪飾りは明らかに女性用だったし、鎧には胸部に妙な空間があった。服だって平均以下の僕の身長にぴったりの大きさだった。
防御力が上がるだとか不思議な力に気を取られていて、大事なところが抜けてしまっていたんだ!
体をぎゅっと小さくしたことで、胸の鼓動がうるさいくらいに高鳴っているのがわかる。
腕に、足に、頭に、動悸を全身で感じる。
「だ、大丈夫!大丈夫だ!最近は男物のスパッツだってあるんだ。外国では男性がスカートをはく文化もあるっていうじゃないか!何も恥ずかしがる必要なんてない。僕はただ服を見つけただけ。布を纏っているだけだ。何にもおかしくない。何にも!何にも!!なんにも!!!!」
スカート、スパッツなど、声に出せば出すほど顔が熱くなった。
僕はどうしようもない気持ちを抱えて、しばらく洞窟内を転がりまわった。
「…………はぁ……なにやってんだろ」
ひとしきり見悶えた後、僕は自分の状況を客観的に見つめていた。
薄暗い洞窟の隅で薄着の男が一人、蹲っているのだ。
極め付きは、着ている服が女性用の肌着という事実。
今の僕は、傍から見ればただの変態だ。
なんて惨めなんだろう。
…………どうして、こんなことになっちゃったんだ。
「あぁ」
このまま消えてしまいたい。
今日何度目かもわからないため息をつく。
でも、ずっとここに座っているわけにはいかなかった。
火炎桔梗はきっと追ってきている。
行き止まりで火炎を吹かれる前に移動しなくてはいけない。けど――
「……うごきたくない」
僕はまた、ため息をついた。
……
移動の前に、コレ……どうしようか。
…………
………………
…………少しでも防御力が上がるなら、装備しておいたほうがいい、よね。
恥ずかしいよりも、死なないほうが大事だ。絶対に。
悪夢か何かだと思えば。うん。
誰かに見られているわけでもないんだし。大丈夫。
そう、見られているわけでは…………
見られて…………
…………
「お姉さん……見て、ないですよね」
【……………………】
【ピロリ】
【装備が一定の「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
根を動かしながらゆっくりと移動してくる火炎桔梗が、前方に見えた。
三メートルはあろうかという巨体の花は、僕を見つけると直ぐに炎を吐き出す準備を始めた。動きの遅い火炎桔梗は、そうしなければ獲物を捕らえることはできないと考えたのだろう。
ギイイイイィィィィィィ
炎を吐き出す前の、独特の音が聞こえる。
それを聞いて、僕は走り出した。
炎を吐き出す敵に、僕はどう立ち向かっていけばいいだろう。
燃料が尽きるまで逃げ続ける?
上手くかわして攻撃する?
それとも、弱点が見つかるまで遠巻きに観察?
――いいや。答えなんて最初からわかってたんだ。
火炎桔梗の出す音が止み、一瞬の静寂が訪れる。
それからすぐ、花の中央にある穴から炎が噴き出された。
噴き出した業火に僕の体は一瞬にして包まれる。
辺り一面炎の海。
火炎桔梗の容赦のない攻撃は、視界すべてを赤く染めた。
そんな炎の中心から、僕は一気に飛び出した。
そのことに驚いた様子の火炎桔梗は、噴射させていた炎を止めてしまった。
空中に飛び出した僕は、腕を顔の前で交差させていた。
露出している肩や顔は傷だらけの煤まみれだが、腕や足・胴には黒い防具がつけられ、煤一つない柔らかな光沢を見せている。
そんな視界の端で、スカートの裾がひらりと揺れていた。
そのことへの羞恥を隠すように、僕は着地と同時に拳を強く握りしめた。
思い出せ。
僕はどうやってここへ来た。
なぜ水晶を倒すことができた。
どうやって、この敵を越える!
「そんなの決まってる」
僕は握りしめた拳を大きく振りかぶり――
「真正面から!打ち倒すだけだ!!」
火炎桔梗へ思い切り叩きつけた。




