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水晶の倒し方が分かってから、僕はいたずらに逃げることはなくなり、一匹でいる水晶は積極的に倒して回ることにした。
確認できただけで水晶は、赤、青、黄、緑、茶の五色だった。それぞれ火、水、電気、空気、土での攻撃をしてくる。
青水晶は水をウォータージェットのように噴射させてきて、土は硬質の土塊を弾丸のように射出してきた。空気はまるで竜巻のような風の流れを作り、周囲の小石を巻き上げ皮膚を切り裂いていく。どれも逃げずらく厄介だった。
けれど僕が一番厄介だと想像していた黄水晶は、意味不明な攻撃をしてきて、僕を混乱させた。
空中に作り出した電気の球を導体に向かって亜高速で打ち出してくる。そんな技を繰り出してくるのかと戦々恐々としていたのだが、あろうことか球を丸々目に見える速度で打ち出してきたのだ。
とても避けやすく、ダンジョンの壁は電気を通さなかった。何をやっているのだと、敵であるこっちが呆れてしまった。
倒した水晶は、その水晶と同様の色をした靄を出すことがわかり、靄が出て行った水晶はどれも透明になった。
不思議に思ったのは、ポケットに入れていた水晶の破片が、黄色く発色したままになっていることだ。
あれだけ色が抜けいていないのはなぜだろう。
水晶内に靄が滞留しているのだろうかとよく眺めてみると、やはり内部で流体状に揺らめいているのが見えた。
しばらく見ていたが、答えは出なかった。
それから体感で数時間ほど移動して、ようやく上への階段を見つけた。
階段を見つけたことにホッとすると急に疲れが押し寄せてきて、僕は少し休憩しようと思い階段に腰を下ろした。
階段にはモンスターはいないのだろうか。
そう考えながら僕は少しだけ目を瞑った。
…………
「――――んが!?」
外界からの強い刺激で意識が覚醒した僕は、訳も分からないまま後頭部を打ち付けた。
「うがっ!!な、なにが!?」
痛みに悶えながらも態勢を整え、周囲を確認すると階段の下に緑と黄の水晶がいた。
「なっ、わっ、あっ」
敵襲だ!
思考が纏まらない!とっ、とにかく逃げないと!
僕は全力で階段を駆け上がりなが、後ろから迫ってくる水晶から目を離すまいと首を後ろに向けた。
水晶は、黄色の個体が帯電状態でいるが、緑は何も纏っていなかった。
おそらく最初の攻撃が緑水晶の風の攻撃だったのだ。
吹き飛ばされただけで済んでよかった。
と、そんなことを考えている内に、水晶二体が加速して突っ込んできた。
まだそれほど速度が出ていないが、直斜のこの階段では追いつかれるのもすぐだ。それまでに何とか上の階に上がりたい。
僕の今の身体能力ならきっと――。
上階のフロアが見えてきたとき、僕は思わず速度を落としてしまった。
見えた階段の先には植物がびっしりと生い茂っているのだ。
「あっ、しまっ!」
追いつかれる!
追いつかれるならと壁際に激突する勢いで移動する方向を変えた。
緑の水晶が僕の目の前を通り過ぎていくのが見えた。と、そう思ったと同時に、僕の肩に強い衝撃が走った。
それから痺れるような苦しさに全身を襲われ、僕は階段に打ち付けられるように倒れ込んだ。
「うぅ、…………しび……れ、」
うまくしゃべれない。
それどころか、ビリビリとした痛みで体を動かすこともできない。
このままじゃヤバイ!
僕はどうにか体を動かそうと藻掻く。しかし思い通りに動くことができず、焦りだけが募る。
ギィィィィイイイイイ
僕が必死に死中に活を求めていると、上層から何か大きな音が鳴り響いた。
「な……んだ」
状況を把握するため、何とか首だけでも上に向けると黄水晶が目の前に浮いていた。
そのことに驚いて、息が止まりそうになる。
だが、黄水晶は待てども攻撃してくる様子はなかった。
電気を纏っていない。この痺れは黄水晶の電気が原因なのだろう。
その間にも音は断続的に聞こえてくる。
しばらく上層を見つめているらしき行動をとっていた黄水晶は、何を思ったか電気を体に纏い直し上階へと飛んで行ってしまった。
「助かった、のか?…………いや」
上階での音が大きくなった。
上へ登っていった水晶は、なにかと戦っているのだ。
まだ油断はできないな。
とりあえず今は痺れを解くために少しでも体を動かすことにしよう。
幸い、痺れも思ったより早く抜けてくれているようだ。
【ピロリ】
【熟練度が一定を超えたため、電撃耐性 小を獲得しました】
やった!耐性がついた!
ありがとうお姉さん。
一気に痛みが和らいだので、体を起こす事ができた。
体の中心に疼くような痺れがまだ残っているが、動くことには殆ど支障がない。
けれど、今この場を動くのは危険かもしれない。
音が止むまで、暫く警戒していよう。
戦闘音らしき音は少しして聞こえなくなった。
その後もしばらく警戒していたが、水晶が戻ってくることもなく時間だけが過ぎていった。
このまま黙っていても埒が明かないと思い、僕は警戒しながら慎重に階段を上って行くことにした。
階段が終わるに従って伸びてくる植物は、上層にたどり着くころには足元を覆いつくすほどに広がっていた。
そしてたどり着いた上層は、やはり植物で埋め尽くされていた。
しかし、ところどころに焼け焦げた跡があった。
周囲を観察すると、砕けた水晶の破片が落ちていて、近くに幾つもの巨大な植物が茎から折れた状態でピクピク動いているのを見つけた。
「なんかうごいてるぅ」
ちょっと気持ち悪いな、と思いながらも、水晶はこいつと戦っていたのだと納得する。
植物型のモンスター。
見た目は桔梗のような紫色の花だが、いったいどんな攻撃手段を持っているのか。
数がいたとはいえ水晶二対を相手に相打ちするのだ、それなりに強敵と思っておいたほうがいいだろう。
それにしても、モンスター同士が戦うなんて思わなかった。
今のところ階層ごとに違うモンスターが出てきていたので、その階層ごとの特色、みたいにゲーム的な考えを勝手に持ってしまっていた。けど、もしかしたら――
「モンスターにも住み分けがあるのかもしれない」




