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 内壁はごつごつとして岩のような凹凸が多いが、内部の空間は不思議と一定の広さを保っているように見える。床もほとんど小石がなく、なだらかで歩きやすい。だからと言って人工的な坑道にも見えない。

 不思議な場所だな。

 なんだか楽しくなってきたが、さっきはそれで失敗してしまったので努めて冷静に行動するようにしよう。

 お尻をさすりさすり前に進む。

 

 落ちてきた場所が見えなくなってからも暫く歩くと、道がT字に分かれていた。

 どうしようかと少し迷ったが、ここまでは一本道だったし戻るときも迷うことはなさそうだ、とぼくは家により近そうな方向を選んで進むことにした。


 この光は何なんだろう。

 ここはいつからあるのかな。

 こんなところテレビでだって見たことない。

 みんなに言ったら信じてくれるかな。

 なるべく冷静に進もうとは思っていたが、抑えきれない探求心がふつふつと湧いてきていつの間にか進むペースが速くなっていた。


 どしどしと早いペースで歩いていると前方で何かがうごめいているのを発見した。

 急に見つけたのでびっくりしてしまった。なにせ、結構近くで動いていたのだ。

 でも、すぐに目が釘付けになってしまった。


 それは透明な水のような球体だった。

 

 人の頭ほどの大きさの球体が、床にくっついてうごうごしている。

 球体は少しばかりつぶれていて、その真ん中には小さいけれどきれいな石が浮いている。

 壁から漏れる青い光が透明な球体の中で反射し、球体が動くたびにゆらゆらとゆらめいていて神秘的な美しさを醸し出していた。


「きれい……」

 ぼくは、自分の置かれている状況も忘れて見入ってしまった。

 その球体に引き寄せられるように、いつの間にかぼくは球体の前まで移動していた。

 見れば見るほど球体は透き通るような透明で、優しげにゆれる彩光はぼくの目をとらえて離さない。

 そうしていると、球体はぼくの方にうごうごとにじり寄ってきた。

 「こっちにきた!」

 ぼくは、まるでペットや赤ちゃんに話しかけるかのように「こっちへおいで~」と手を伸ばす。

 この時、ぼくは完全に浮かれていた。

 

 球体はぼくの前で止まると、ふるふると体をふるわせる。そして急に高々とジャンプしたのだ。

 ぼくの顔めがけて。

「わぶっ!」

 とっさのことで避けることもできず、顔面に直撃。しりもちをついてしまい、先ほど痛めたお尻に二度目の衝撃が走った。

 だが、ぼくはそれどころではなかった。

 

 息ができない!!

 球体は顔に張り付くと、そのまま頭全体を覆ってしまった。

 驚いて手で球体を取ろうともがくが、手は球体に触れると水のような感触がするだけで掴むことができない。

 顔はまるで吸盤がへばり付いたような感触なのにどうしても掴めない。

 水のようなその体は口に入ることはなかったが息を吐くこともできない。

 ぼくはパニックに陥り床をごろごろ転がったり、手足をばたつかせたりと無茶苦茶に動き回った。

 

 苦しい


 いやだ


 死にたくない


 だれか助けて

 

 けれど、どれだけ動き回っても球体が離れることはなかった。

 時間が過ぎれば過ぎるほど、呼吸の苦しさが激しくなっていく。

 苦痛と恐怖が頭の中を支配していく。

 

 おとうさん


 おかあさん


 あこや


 かづきちゃん


 だれか……

 

 動くのも辛くなってきて、もうだめかもしれないと涙と鼻水に濡れていると、ふと手に何か硬いものが触れた。

 何かに縋りたい気持ちからか、その小さな石のようなものをぎゅっと掴む。

 すると手の中の何かは急に動きだし、手から抜け出そうするかのように暴れはじめた。

 

 そのとき、ぼくは自分が何をすればいいのかが分かった。

 理屈ではなく感覚が、それを引き抜けといっていたのだ。

 絶対に放すか!!

 ぼくは、掴んでいた右手を万力のように強く握り、左手をそえると最後の力を振り絞ってそれを引き抜いた。

 

 小さな石は拍子抜けするほど大した抵抗もなく球体から抜けた。

 するとたちまち球体は形を失い、バシャッとはじけて床を濡らした。

「ぷぁあはっ、はあっ、はあっ、はあっ、よかっ、たぁっ…………うぅっ、ひっく、うわあぁぁっ」

 物理的にも精神的にも解放された安堵感から、ぼくは大の字になって泣いてしまった。

 

 こんなところ、あこやには見せられないなと少し思いながらも、ただ生きていることを噛み締めるように泣いた。


 ずっとこうしていたいと、その時のぼくは思っていた。しかし、それを許してくれるほどこの場所は甘くなかった。

 手のひらからこぼれ落ちた小さな石は床に落ちるとパキリと音を立てて割れた。

「ヒッ!!」

 その音に過剰に反応したぼくは後ずさるように体を起こすと、床に転がっている小さな石から半透明の白い靄のようなものが出てきているのが見えた。

 その靄は、吸い込まれるようにぼくの体に当たり消えていった。

 咄嗟のことで、ぼくはただそれを眺めていることしか出来なかった。

 何だったのだろうとそんなことさえ考えられず、ただ唖然としていると次の瞬間、全身を強い不快感が襲った。

「うぁあぁぁっ!」

 全身をくまなく火で炙られるような苦痛が全身を駆け巡り耐えられず叫び声をあげてしまう。

 うずくまって必死に痛みを耐えるが、体の内側からくる経験したこともない苦痛に耐えることもできず胸を強く掻きむしり体が暴れるのを抑えられない。

 次第に苦しさは強い痛みに変わっていく。

「ぁっ……ぁ……」

 痛みで体が痙攣をおこし始める。

 声を出すこともできない苦しさに耐え切れず、ぼくはいつの間にか意識を手放していた。

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