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 きれた

 


 空間とのつながりが切れた瞬間、僕は途轍もない喪失感に襲われた。

 それは今まで感じたことのないほどに大きく、強く、吐き気を催すほどの不快感だった。

 

「あ……あぁぁ……」

 僕は立っていることもままならなくなり、胸を押さえて蹲った。

 

 あの空間にいた時、僕の心は穏やかで、とても心地の良い気分に浸っていた。

 ずっとこのまま、この場所にいられたら――そう思ってしまうほど満たされた気持でいっぱいだった。

 それが急に元居た場所に放り出されてしまった。

 何も感じない、この場所に。


 いつものダンジョン内が、今はひどく冷たい場所に感じられる。

 いや、そうじゃない。

 あの場所にいたとき、僕は確かに繋がっていた。

 一人じゃないと、そう思えたんだ。

 

「もう、一度……あの……場所に…………」

 心地の良い、あの空間に。

 スキルを使用するのに、音声コマンドがあるって……たしか、

「『アトリエ』――っうががぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」

 瞬間、途轍もない痛みが全身を襲った。

 

 断裂しかけた紐が無理やり引き延ばされていくように、僕の中の何かが音を立てて千切れていく。

 痛いと、そう考えることもできないほどの苦痛。

 

 全身が、バラバラになっていく。

 

 もう自分が叫んでいるのかもわからない。

 

 痛みとともに遠くへ、遠くへと。何かが運ばれていく。

 

 自身の輪郭すら曖昧になっていく。

 

 苦痛の中を揺蕩う。

 

 ただ遠くへ。


 とおくへ。


 …………


 ……


 …





















































 

 

 

 だれかがてまねいている。

 

 だれ?

 

 どこにいるの?

 

 そっちへ、いけばいいの?


 







 


『「聯*fバδシwェш」』










 


 



 何かを砕いた音がした。

 

 あれ?

 

 ここはどこだろう?

 

 なにしてるんだっけ?

 

 また、何かがつぶれる音がする。

 

 ぼくは、えっと…………そう、明日の宿題をして、夜ご飯をつでて、はみがき粉がじゅうでんした蚊取り線香わぇばあせぁわだんじょんで

 


 ああそうだ。

 ガッコウに行かなくちゃ。

 ガッコウのこびきあみがれのしぎがはぼりて。

「きひひっ」


【……】



 グチャリ


「あはは」


【…………】



 ゴリゴリ

 ブチッ

 

「きひひひ」


【………………】


 バキッゴキッ

 グチャグチャ


「あぁぁああぁあははは」


【……………………………………】


 ベキョッ

 ガリガリ ゴリッ

 ミチミチミチ

 ビチャッ

 ブシャァァァ


「あぁぁぁおあひあははははああぁぁっぁかっhぁぁあぁふぁああぁあぁぁぁおあひあははははああぁぁっぁぁぁあぁ」








【……………………………………システム側の過失によりmammal efw37080528 に魂魄への重大な破損を与えたと認識しました 対象の保護のため当該時間へのアクセスの許可を申請――――棄却 ………… mammal efw37080528 の魂魄の修繕を申請――――棄却 チッ………………mammal efw37080528 へのスキル spirit18 の貸与を申請――――棄却 ………………クソッ  mammal efw37080528 の地上への強制帰還を申請!――――棄却!?この石頭め!!Experiments No.79 の実行コードを残し、ダウンロードを拒絶しなかったのは明らかにシステム側の不手際! なのにそれを認めることさえせず (あまつさ)え放置するなんて!これじゃ何のためのシステムよ! ………………もういい 魂魄の修復及びメンタルケアを行うのは妥当だと判断し、mammal efw37080528 へ EXスキル 魂の聖域 の無償贈与を強制実行。実行コードSolus unicum………………………………………ごめんね】





























 



 

 

 何かが壊れる音がする。

「――――」

 痛くて、苦しくて、たまらない。

「――――ぃ」

 音がする。不快で不快で仕方がない。

「――――るさい」

 強く、強く拳を振る。

「うるさいうるさい」

 音はどんどん大きくなっていく。つられて拳を握る力も強くなる。

「うるさいうるさいうるさい」

 僕は何を殴っているんだ。

「うるさいうるさい煩い!煩い!煩い!!」

 ひと際強く拳を叩きつける。

「煩ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」


 何かが割れる音が響いた。


「はぁ、はぁ……はぁ………………なんで…………何……を……僕は、いったい」

 何も思い出せない。

 どうして…………行かなきゃいけないのに。

 あれ、行くって、どこに?

 なんだっけ?

【ピロリ】

【レベルが上がりました】

【熟練度が一定を超えたため、苦痛耐性 中を獲得しました】


「ん?レベルが上がった?」

 スライムを倒したのかな?

 ようやく周りに目が行くと、目の前には血だらけの砕けた水晶が落ちていた。

 「水晶?でも、この血は一体?」

 僕は水晶に手を伸ばす。

 すると、伸ばした手は真っ赤に染まっていた。

「うわっ、まっ、えっ!」

 血だらけなのは手だけではなかった。

 腕、肩、脚、あらゆる所に傷があり、衣服もズタボロで赤黒く変色していた。

 傷は切り傷ばかりでなく、擦り傷や腫れ、爛れ、火傷のような焦げ付いた痕もあった。

「なっ!なんでこんなことになってるの!!」

 どうしてこんなに血だらけになってるのか、まるでわからない。

 こうなる前の記憶がまったく思い出せない。 

 確か錬金空間のスキルを使っていたことは覚えているのだけど、そこから何をしていたのかがわからない。 

「というより早く止血………………あれ、そんなに痛くない?」

 深く抉れているような傷跡は見当たらないが、これだけ傷だらけで痛くないはずがない。

「そういえばさっきお姉さん、苦痛耐性のスキルって言ってたような」

 苦痛、への耐性が付いたってこと?……なんで?

 ……そもそも、スキルって何だろう。不思議な、魔法的なモノなのかな。それとも、あくまで科学的な肉体の変化だったりするのだろうか。痛みの電気信号を遮断したり、アドレナリンが多量に分泌されるような体になったり……なんかそういうのはヤだな。

 

 思考が逸れてしまったが、おかげで少し落ち着くことができた。

 傷の手当なんて、なにも持っていない状況で出来るはずもなかった。

 なぜ記憶が曖昧なのかはわからないが、今は考えていても仕方がない。

 こんな状態だ。早く地上に戻ることを第一に考えよう。

 僕はいざという時の武器になるかと、砕けた水晶をいくつかポケットに入れて地上への道を探し始めた。



「それにしても、広いな」

 ダンジョンはいつものように青白く光っているが、いつもよりも二倍ほど洞窟が広かった。

 大きな道の合間にいくつか小さな脇道があり、そこはいつものダンジョンの道よりやや狭いぐらいの大きさだ。

 それだけで完全に未知の場所に来ていることがわかるのだが、所々に砕けた水晶の破片や、水晶でできたような煌びやかな緑の植物も生えていた。

 試しに触れてみると、柔らかく不思議な弾力をしていた。

 葉を触るのは楽しかったが、改めて不安な気持ちにさせられる。

 どこまで深い所へ来てしまったのだろうか。

 またいつ、記憶が飛んでしまわないか、と。

「帰れるかなぁ」

 一人静かな洞窟を歩いていると、不安な気持ちが押し寄せて来てしまいそうで、僕は少しだけ歩くペースを速めた。

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