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半数ほど倒したところで、スライムの中に一際大きなスライムがいることに気が付いた。
通常の透明スライムの三倍ほど直径があり、核もそれ相応に大きい。いつもの一円玉サイズから、卓球ボールほどに大きくなってる。
だがそれだけ大きいなら重さもすごいだろう。
たしか球の体積は4/3πr³だったはず。rは半径だから、半径が三倍なら三の三乗で、二十七倍にもなる……はずなんだけどな……。
ぽよんぽよんとテントの上を動き回る大きなスライム。
「ん~、そういえばスライムってあまり水みたいな重さを感じないんだよなぁ」
テント内で水たまりのようになっている体液を掬い上げてみると、綿毛のような軽さだった。
「だからあんなに乗っかられててもテントが無事だったのか……ん?」
水たまりの中に割れていない核を発見した。薄紫色の光が石の中で渦巻いているので間違いないだろう。
手に取ってみるとすぐに割れてしまった。
「空気に触れると割れちゃうのかな?」
体液の中にあると石の状態は安定するのだろうか。
そうだとして、この核の浸った水たまりと動いているスライムとで何が違うのだろうか。
テント越しにスライムを眺める。
スライムは光に照らされて、その輪郭と核がテント越しでもよく見えた。
「あれ、大きくなってる?」
大きなスライムを見ると、先ほどよりも一回り大きくなっているように見える。
周りのスライムを吸収して大きくなるのだろうか。
僕は知的好奇心に駆られ、こんな状況であるにもかかわらず観察を始めた。
じっと見ていると、大きなスライムと普通サイズのスライムがくっつきだした。
互いに体をぶつけあうようにくっ付けていると、次第に境界面が曖昧になり始め、ある時を境にするりと大きなスライムの中にもう一方のスライムが入り込み、溶けるように消えていった。
「おお~、生命の神秘だ。……生命だよね?」
取り込まれたスライムの核は大きなスライムの核に引き寄せられるように中心に向かい、一つになった。
「そうか、核が不規則な形をしていたのは、こういうことだったんだ」
ひとしきり得心した後で、そろそろスライム討伐に戻ろう。
今は一匹ずつテントに入れて倒しているが、すべて倒しきる前にこの大きなスライムと対峙することになるだろう。
このスライムと戦うにはテントは狭く、どこかでテントから脱出しなければならない。
僕はスライムを一匹ずつ倒しながら脱出の機会を待った。
へばり付いているスライムの量が全体の二割を切ったころで、絶好の機会が訪れた。
でっかいスライムがテントの後ろに移動していて、出入り口の周囲にもスライムがいない状態ができた。
僕はここだ!と気合を入れて、一気に入口のジッパーを開け放ち外へ駆け出した。
「「「「「「「「ブシュッ!」」」」」」」」
「うわ!!」
テントを出たと同時に、テントにへばり付いていたスライムたちが一斉に襲い掛かってきた。
何匹ものスライムが体に纏わりつき体を登り始めるが、今は止まるわけにはいかない。
僕はすぐ近くにあるダンジョンの出口に向かって走った。
この量のスライムを一度に相手にするなんてできない。
倒せないなら逃げる以外に選択肢なんてない。
幾体ものスライムに纏わりつかれ動きづらい中を全力で走る。
あともう少し。
僕がそう思った矢先、バキャァと後方から音が聞こえた。
何の音かと後ろを振り向くと、壊れたテントと、眼前に迫る巨大な何かが目に映った。
その飛来物を前に、僕の体は思考をするよりも早く回避行動に移っていた。
ボッ、と風を切る音が聞こえる。それから漸く僕の体に思考が追いついてきた。
あれでっかいスライムじゃん!動き早くなりすぎ!!
心の中で叫びながら急いでスライムの飛んで行った方を確認する。
スライムは随分遠くまで飛んで行ってしまったようで、目算で五十メートルは後方の壁に当たって止まっていた。
やばいやばいやばい!あれがまた来たら次は絶対躱せない!
僕は体を這い上がるスライムのことなど忘れ、一心不乱に階段を駆け上がった。
金属扉をたたき上げ部屋に転び出ると、素早く扉を閉め強く抑える。
「はぁ、はぁ、危なかった」
動きが目で追えなくてびっくりした。なんだあのスライムは。
体積が増えるほど、強くなるのか?
核が動力源ならパワーが上がったとみるべきか。そして体は羽のように軽い液体。……なるほど。重さがほぼ変わらなければ、パワーが上がった分速度も出るのか。厄介だな。
落ち着くまでしばらく扉の上に座っていると、急に扉が水浸しになったことで我に返る。
「うわっ、なんだ!?あ、スライムか」
ようやくスライムが体に付いていたことを思い出したが、同時に疑問も生じる。
「なんで急に?……ダンジョンから出たから?……え、これ」
スライムが急に死んでしまった原因を考えていると、急に白い靄が発生しだした。
「これ、核から出てくるのと同じ奴だ」
スライムの核もすぐに割れ空気中に靄が漂いだすが、僕の体に入ることはなく、空気中に消散していった。
それを不思議に思い眺めていると、靄とともにスライムの体液が消えていっていることに気づいた。
「体液が気化しているのか……気化というより、すべて同じモノでできているのかな?」
すべての変化が終わると、残っていたのは核だった石のようなものだけだった。
「はぁ~、それにしても疲れた。ご飯食べたい、ごはん!」
僕は万一のため扉に重しを乗せてから冷蔵庫を漁り冷凍のチャーハンを温めて食べた。それからシャワーを浴びてベッドについたのだが、疲れていても全然眠くはなかった。
時刻は夜の十一時。向こうで何時間寝ていたのか分からないけど、このままだと確実に寝不足になってしまう。
「早く寝ないと、また先生にどやされちゃうな……」




