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 日も傾きかけているので急いで見に行こう。と、ぼくは小走りで家の裏手に回り目当ての小道を探す。

 小道は木々の影に隠れて見えづらくなっていたが、目を凝らさずとも少し探せば見つけられた。

 道を覗くと奥まで続いているように見えるが、夕日に照らされた草木が暗い影を落とし奥まで見通すことができない。

 長く伸びた影はまるで小道を隠しているように見えて少しだけ二の足を踏んでしまう。それでも好奇心が勝りぼくは奥へと足を進めた。

 道は少し歩いたあとすぐ右に曲がりそれからはずっと直線だった。まだ山林の隙間から日の光が差しているので見えずらいということもなく、勾配の少ない道は歩きやすくさえあった。

 夕方の少し冷たい風がさわさわと木々を揺らす。汗ばんだ肌を風が冷やし上着の裾がはたはたとなびく。

 木々に囲まれたここは都会の喧騒も届かなく落ち着いているように感じられる。だけど、音がしないというわけでもなく木々や動物の鳴き声などがこだまし、ぼくの道行きを楽しませてくれている。虫たちも夜を待ちきれずに鳴き始めているようだ。

 ぼくは最初に感じた不安感などすっかり忘れて意気揚々と奥へ進んでいった。

 

 五分ほど歩いただろうか、道なりに進んでいると開けた場所にでた。

 そこは小さな空間だった。納屋のような小さな建物がぽつんと1つあるだけで他には何もなく、道らしきものも続いてはいないようだった。

「ここで終わりか」

 回りを見渡しても建物以外は何もないので、自然それに目がいってしまう。

 納屋は土壁のようだが随分昔に建てられたようで所々表面が剝れている。穴こそ開いてはいないものの木の骨組みが露出している所もあった。正面に木窓が1つあり、木製の扉には錆びた南京錠が付けられている。

 指先でそっと触れてみると、土壁はほろりと崩れ落ちていく。

「これもおじいちゃんが作ったのかな、」

 おじいちゃんは何をするにも物は自分で用意していた。何かを作るということが好きで、家庭菜園から家具の手作り、家電製品の修理。釣りの餌作りには力を入れていたなぁ。リフォームに失敗して一月ほど壁のない生活を送っていたこともあったそうだし。

 そんなことを考えながら納屋の裏に回ろうとして――――出した足を引っ込めた。

 

「あ、危なかった」

 目の前の地面が大きく陥没していたのだ。

 もう少し気づくのが遅れていたら落ちていただろう。

 少しひやりとしけど、すぐにその穴が何なのか気になりのぞいてみた。

 パッと見ただけでも直径で5メートルはありそうだ。底はあまり深くなさそうだが暗くてはっきりとはわからない。穴は納屋から1メートルほどの場所に空いているがよく落盤に巻き込まれなかったものだな。

 穴の奥をしげしげと眺めていると暗闇の中がほのかに光っているように見えた。

 落盤するということは地面の下に空洞があったということだ。洞窟かとも考えるが、穴の底が光っているのなら人工的なものに違いない。坑道かあるいは……。

 

 ぼくは新しい発見に夢中で穴の近くに寄りすぎてしまった。

 穴の縁は地面が薄く、崩れる危険性が高いことなど頭の隅にもありはしなかった。

 「あっ」

 という間に、ぼくは穴の中に落ちていった。


 

 穴の底に落ちている間のことなんてほとんど覚えていない。唖然としている間に足が地につき、そのままつぶれるようにお尻をついて地面に転がった。

 すぐに体を起こすが、しばらくは動くこともできずバクバクと心臓の音を聞きながら落ちてきた穴を見上げていた。

 しばらくして、打ち付けたお尻が痛み出し、思考が現実に引き戻されてきた。

「どうしよう!落ちちゃった!」

 無事だったことへの安堵感など頭にはなく、帰れないかもしれないという不安でいっぱいになっていた。

「どうしよう!」

 どうしよう。どうしようどうしよう。そう口に出せば出すほど焦りが大きくなっていくような気がした。

 いてもたってもいられず瓦礫の周りをうろうろと歩き回ってしまう。

 

 どうしようどうしようどうしようどうし……

 

 視線を下げると、薄暗い穴の中はほのかに青白く光を放っていた。

 明かりを灯すものがあるわけではなく、壁や床にはしる小さな亀裂から光が漏れているのだ。不規則な亀裂は壁全体に細かく走り、この洞窟のような空間全体を神秘的に照らしていた。

「きれい……」

 青白い光に気づかなかったのは暗闇に目が慣れていなかったのと、天井からの明るい光を凝視していたからだろうか。

 光によって露わとなった空間は、横長で左右に長く伸びていた。

 穴のすぐ近くには、小さくくぼんだ場所がありそこに天使の像が置かれていた。小さな子供の姿でラッパを吹いている。

 

 不思議な光景を眺めていると、いつの間にか自分が落ち着いていることに気が付いた。

 ずいぶん動揺しちゃったな。

 そこからは、落ち着いて状況を把握することができた。

 見上げた穴は、3メートルほどの高さにあり大人の背丈があってようやく届くか届かないかという距離だ。同年代の中でも小柄な身長のぼくでは尚更届かないだろう。

 穴のまわりは瓦礫も少なく、足場になりそうなものもない。森の奥では助けも呼べない。

 しばらく待てば父さんたちが心配して探してくれるだろうけど、待ってたら夜になっちゃうな。暗闇でここを見付けられるだろうか?

 このままここで探しに来てくれるのを待つかそれとも……

 横穴は見える限りでは一本道になっている。

 探してくれるにしてもまだ時間はある。出口がないかすこし奥を見に行ってもいいかもしれない。

 炭鉱などでは空気が通っていないとガス溜まりがおきていて危険だという話も聞くが、こんな不思議な空間が炭鉱だとは思えない。でも、だから大丈夫と楽観的になることはできないので、あまり奥へは行かないようにしよう。

 そう決めて、ぼくは洞窟の奥へと歩き出した。

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