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明日から通常授業が始まるので、今日こそは早めに寝よう。そう考えてはいるものの、足はやっぱりダンジョンへ向かってしまう。
かといって地下二階に行く勇気は未だない。レベルアップをして剣術しょ?も身に着けたので何とかなるような気もするのだが、あの溶解液を完全に防げるかといえば否と言わざるを得ない。なにか良い対策を考えつくまで二階に降りるのはやめておきたかった。
なので今日はダンジョンと地表の時間のズレを検証しようと思う。
まず僕は家中の時計をかき集めた。集まったのは全部で六つ。壁掛け時計が二つにアナログの目覚まし時計が一つ、デジタルの置時計が一つ、腕時計が一つ、最後にスマホだ。
すべての時計を秒針までしっかりと合わせると、それをダンジョンに設置していった。ダンジョンの入り口付近に一つ置き、階段の中間付近にも一つ、最後まで降りたところに一つ置いた。腕時計は腕に付け、地上に置いておくのは置時計とスマホだ。スマホが地上なのはネットの有無で時間が変化してしまいそうだからだ。置時計は対照実験的な意味合いで居間のテーブルに置いた。
そして、時計を確認しに行く時間を十分、三十分、一時間として、それからは一時間ごとに確認することにした。
実験を始めてすぐ、わかりやすい変化が見られた。
入り口すぐの時計はダンジョンの外から覗き見ることができる位置に置いたのだが、実験開始からすぐにズレ始めているのが確認できた。
「やっぱり、ダンジョン内の時間が遅くなっているんだ」
手持ちの腕時計と見比べると、秒針の進むペースが若干遅れているようだった。
それから十分経過し、僕は腕時計を付け、メモを片手に時計を確認しに行った。
入り口の時計はそこまでのズレはないようだったが、階段の中間においてある時計とのズレは大きく、地下一階に置いていた時計ではなんと二時間近くものずれが起こっていた。
「めちゃくちゃズレてる!すご!」
それから急いで地上に戻ったが、腕時計と地上に置いたスマホの時間も結構ズレが生じていた。
ダンジョンに突入してから地上に戻ってくるまでは一分もかかっていなかったのに五分以上のズレがあった。
その正確な時間もメモに残すと、僕は腕時計の時間をスマホに合わせて、開始時刻から三十分が経過するのを待った。
その間、居間の置時計とスマホの時間とのズレも確認してみだが全くズレはなかった。
「これは、すごいな」
実験結果を確認して、僕は感嘆のため息を漏らした。
時計は下に降りるほど針が遅く進んでいるようで、六回の定点観測でその進み具合の差はほとんど誤差の範囲内に収まった。誤差は僕の移動にかかる時間の差だろうと思う。
時間のずれは大体入り口で1,5倍、中間地点で5倍、階段下で10倍もの差があったのだ。
地下への階段は数えてみると全部で二十段あり、等間隔であるように見える。つまり、単純に考えれば一段ごとに1.5倍時間が早く進んで行くようなのだ。
「これはとんでもないことだぞ……ん?」
でも下へ降りるごとに時間の進みが早くなるなら降りてるときに気付かないかな?
そう思った僕は、ダンジョンの階段に座り手足をバタつかせてみた。しかし動きの違いは感じられなかった。これはどういうことだ?
「人や物の内部では時間の流れがバラバラにならないようになっているのだろうか?」
そうかもしれない。でなければ時計なんかも機械内部の高低差で壊れてしまいそうなものだ。
「むむ~、時間の遅速が高低差によるものか、それともダンジョンの奥に行くに従ってもっと遅くなっていくのか……これも実験しないとな」
まだまだ検証しないといけないことは多そうだが、それは夕食を食べてからにしよう。
今回の実験の都合上、空き時間が多く出てしまたので、スマホをいじりながらのんびり夕食を作っていた。
鶏モモ肉を皮目から弱火で一時間近くじっくり焼いてソテーを作ってみた。肉の面を直接火にかけることなく肉の油が溶け出したオリーブオイルを回しがけることで柔らかく仕上げる。皮はカリカリ、肉はしっとりで、これは美味しい。
彩にミニトマトを添えて、簡単にオニオンスープも作った。
さて食べよう、とお皿によそう段階で、あっと失敗に気付く。
「お米炊くの忘れてた!」
夕食を取ったのはそれから一時間ほど後のことだった。
夕食後もダンジョン内部の時間の流れを調査した。
階段を降りてすぐ、先ほどの実験の時に置いた時間差10倍の場所に時計を一つ置き、それから少し離れた二箇所に時計を置いた。もう一つは赤いスライムに合わないように気を付けながら地下二階に置いてきた。その時に、二階に置いてきた荷物を回収しようと思ったのだが見つけられなかった。全て溶かされてしまったのかもしれない。
スマホは地上に置いて、腕時計は前回同様腕に巻いた。
先ほどまでと違い見回るのに時間がかかるのでどう調査したものか、と考えながら時計を設置していったのだが、設置して戻ってくると階段近くに置いていた時計と腕時計の時間はズレていなかった。
「ダンジョン内の時間は一定なのかな?」
一応多少のズレがあるかもしれないので一時間ほど待ってみたが、一秒未満のズレしか起こらなかった。そのズレだって時計の性能面での差だろうと思う。
「ダンジョン内での一日は十日相当、……これはいいな、すごくいい」
これでダンジョンと学校の両立が出来そうだ。
僕がほくほく、と擬音を出しながら時計を回収していると、時計の上にスライムが覆いかぶさっているのを見つけた。
「む、これは……」
スライムは時計の上でうごめいているようだったが、しばらく見ていても時計は一向に壊れる気配がなかった。




