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「この道で最後だな」
完成した地図は、なるべく小さく書いていたので紙からはみ出ることはなかったが、それでも全体の三分の二ほどが埋まっていた。
下の階も同様の広さであるのなら、見通しも付きやすいだろう。
行き止まりの道を最後まで歩いてみると、また木箱が落ちているようだった。
「結構落ちてるもんだな、さて中身は何かな」
今度の宝箱も簡素な木箱だったが、近づいてみると今までよりも大きな木箱であることが分かる。
「一メートルぐらいはありそうだ」
わくわくしながら木箱を開けると、そこには西洋風の胴鎧が入っていた。
「すごい!鎧だ!」
鎧は鉄よりもやや白みがかった金属でできているようで、胸部を守る大きなプレートと腹部や喉を守る幾つかのプレートが組み合わさって出来ているように見える。
表面には鈍い光沢があり、細部に青い飾り模様が彫金されていた。
鎧は全体的に丸みを帯びていて、胸部を中心に流線型になっている。
僕は早速着けて見ようと持ち上げてみた。
「え、軽い……」
重厚感溢れる見た目からは想像できないほどの軽さに驚いてしまう。プラスチックか何かでできてるんじゃないかと訝るが、指の関節で叩いてみると金属を叩いたような鈍い音がする。
「アルミか、それともステンレス?」
金属を調べる機械なんてあるだろうか?と考えながら、僕はそれを服の上から被るように身に着けた。
すると、得も言われぬ感覚に全身が包まれた。
守られてる。そんな安心感があった。
「なんか、すごい……」
少し体を動かしてみるが、動きを制限されるようなところはほどんどなかった。
鎧の大きさは概ね丁度よかったが、胸部に少し隙間があるようだった。剣を逸らすため、流線型になっているのだろうからその分の隙間だろう。
なんだか楽しくなってきた僕は、しばらく飛び跳ねたり木刀を振り回したりしていた。
少し落ち着いてきた僕はスマホを出して時計を確認した。
ダンジョンに入ってから大体三時間ぐらい経っていたようだ。
「まだ夕食まで時間があるし、少し下の階を見てみようかな」
あそこは出口に近い場所なので、帰りの心配もないだろう。
なにより、この鎧の性能を確かめてみたかった。
僕は地図を頼りに階段のある場所まで歩いて行った。
階段前に到着すると、僕は鞄を下ろし休憩することにした。
水筒に汲んできた水を飲み、タオルを出して汗を拭く。
「それにしても、全然レベルアップしないなぁ」
昨日、今日だけでも百体近くは倒してると思うのだが、レベルが上がった気がしないのだ。
あの靄もすべて体に入って行ったけど、なんの変化も感じない。
胴鎧を付けていても力が強くなったような実感もない。
以前にレベルが上がった、というようなことを喋っていた女性らしき人の声もまだ聴けていないのだ。
あれは機械的な音声なのだろうか?それにしては違和感がある気もする。
システムメッセージを読み上げているかのような淡々とした声色は、まるでスーパーの店内放送を彷彿とさせる。
「お姉さん、今日は休みなのかな?」
僕は水筒の蓋に残っていた水をぐびりと飲み干した。
階段は緩やかな下り坂になっていた。足との接地面が緩やかに傾いていて、段ごとの幅も広くとられているのでスロープを歩いているような気分になる。
床は平坦ではなく、ゴツゴツとした岩を敷き詰めた石畳になっていて趣がある。ダンジョンの入り口のような圧迫感のある狭さもないので落ち着いて降りることができた。
等間隔に設置されている松明は階段を煌々と照らしていて、試しに手を近づけてみると暖かかった。
階段が終わると、また青白い光が洞窟内に充溢していた。
道幅も変わらず、予想通り一階と同じような造りになっている。
ただ、だからと言って油断はできない。
ダンジョン系のゲームでは深く潜るほどモンスターが強くなっていきお宝も豪華になっていく。
ここが本当にダンジョンかはわからないが、気を抜かず進んでいくべきだろう。
僕は新しい紙を鞄から出しバインダーに挟んだ。
歩き出すと、すぐに道が三つ又に分かれていた。
「これは、一階よりも複雑になってそうだな」
少し面倒だと思うが、やること自体は変わらないのでとりあえず順当に右側から攻めていくことにする。
少し歩くとスライムが現れた。ただ、一階のスライムとは姿が違うようだった。
一階のスライムよりも体積があるようで遠目から見ただけでもいつもより二倍はありそうだ。それに何より、体に赤みが差していた。
青みが見られないほど不透明な赤色で、地面を這うスピードも速い。体積が大きいためか飛んで移動することはないようだ。
さて、どうしたものか。
体積が減らないため、今まで通り小さくして倒すというセオリーが通じない。
取りつかれると厄介なので、じりじりと後退しながら攻略法を探す。
あいつがスライムならば、弱点はやはり体の中の核だ。
だが、体が不透明だから核の場所も分かりにくい。
飛び上がることがないのなら、近くに寄って木刀で叩いてみるか?
速足ほどの速度で後退しているので直ぐに階段の所まで戻ってしまいそうだ。
このままじゃジリ貧だ。
覚悟を決めろ。戦うぞ!
木刀を強く握りしめると、左の視野が仄かに明るくなった。




