1-6
地下へと降りた僕は、木刀をベルトに挟めると鞄から紙とペンを取り出した。
今回から地図を描いてみようと思うのだ。
僕は、取り出した紙をバインダーに挟め、それから方位磁石を出した。
方位磁石を持ってきたのは何も測量をして正確な地図を作ろうと思ったわけではない。
自分がどの方向を向いているのか分からないと見当違いの方向に地図を書いてしまうかもしれないからだ。
ここは曲がりくねった道も多いから、まっすぐ歩いているつもりでも緩やかに曲がっているなんてこともあると思う。だからこまめに方角は知っておきたい。
方位磁石から垂れるストラップをバインダーに括り付けると、水平にもって北を探してくるくる回る。
「北はこっちかな、んー…………あれ、……んん?」
方位磁石の針は不安定に揺れるばかりで方向が定まらない。何故だ?
「あ、針が回ってないだけか……」
ポンコツ方位磁石を持ってきてしまっただけかと一瞬考えたが、鞄に入れる前に使えることはちゃんと確認している。
「地下にいるからか?でも……」
地球というのは1つの大きな磁石になっている。たとえ地下にいたからといって磁力が遮られるようなことにはならないはず。
特殊な磁場が発生している場所だとしても、針がくるくる回ったりすることはあっても全く動かないことはないはずだ。
それとも、僕が知らないだけでそんな場所もあるのだろうか。
……う~んダンジョン、不思議な場所だ。
方位磁石は使えないようなので感覚頼りで書いて行くしかない。
思わぬところで時間を食ってしまったが、とりあえずは足を動かすことにした。
歩きながら地図に階段の場所と左に伸びる道を書いていく。
以前の道を確認したい気持ちがあったので、今日は左の壁に沿って行くことにした。
ちなみに階段を降りて右の道は探索し終えてもう行くこともないだろうからと地図にはバツ印を書いておいた。
道なりに出てきたスライムを倒しながら30分ほど歩いていくと下へと続く階段を発見した。
「こんなに近い位置にあったんだな」
スライムを早く倒せるようになったというのもあるだろうが、以前はそれだけ余裕がなかったんだろう。
このまま降りて下を探索してもいいのだが、せっかくなのでここのフロアを制覇してからにしようと思う。
僕は階段を素通りし、奥へと足を進めた。
地図の作製は概ね順調。
道の長さなどは歩数と感覚で適当に書いているけれど、道同士が繋がっているような横道は無いのでとても書きやすい。
特徴的な岩などがあれば目印にしやすいよう地図に記入しているので、これで迷うこともないだろう。
帰りも早くなるし、地図はやっぱり偉大だ。
ただ、地図を書くことに集中しているとスライムに気付くのが遅れ、何度かくっつかれてしまった。気を付けないと。
そんなこんなで少しだけ慎重に歩みを続けていると以前に見つけた天使の像の所までたどり着いた。
天使の像を見つけたとき、僕は思わず天井を仰ぎ見た。
「……ここから落ちてきたんだよな」
天井を見ても穴など開いてはいない。
けれど、確かに僕はここから落ちてきたんだ。
しばし物思いに耽った後、ふと天使の像が気になった。
「前は気にならなかったけど、どうしてここにだけ石像があるんだろう」
まじまじと観察すると、ラッパを吹いた天使の像は周りの洞窟とは材質が違うようで青い亀裂も入っていなかった。像のある所だけ窪んでいるのだが、掘り出したわけではないようだ。
天使は両手でラッパを持って一生懸命頬を膨らませている。
触ってみると思ったよりも滑らかで粗の立った部分もない。
さわさわさわ
う~ん、某インディーさんならここらで何かを見つけるところなのだけど。
さわさわ
石像を押したり捻ったりしてみるがうんともすんともしない。
あわよくばボタンでもと思ったのだが、そういったギミックはないらしい。
ん?
ギミックはなかったが、台座の下に文字が書かれているのに気が付いた。
寂しき道を行くものに たおやかな春の調べを
「何かの格言?」
天使ということはユダヤ・キリスト系の信仰だろうか?
だとしてもどうしてこんなところに?道端のお地蔵さんのような立ち位置なのかな?
それよりも、石像が置かれているということは、やはりこのダンジョンは人が作ったものなのかな。
それとも誰かが置いていった?
いずれにしても、僕以外の誰かがここに来たことがあるという証拠になるんじゃないだろうか。
そうなるとあそこ以外の出口があるのかもしれない。
それともあの階段を使って以前に人が出入りしていたのか。
む~。
「おじいちゃんは此処のこと、知ってたのかな?」
疑問があとからあとから出てくるが、それに対する答えが今のところ何一つとしてわかっていない。
ゲームならストーリーを進めたり、ダンジョンを攻略たりしていけば疑問が解消されていくのだが……このまま探索を進めれば、答えにたどり着けるのだろうか。
「む~」
悩まし気に、顎に手を当ててみても、結局やることは変わらないのだという結論に至る。
「とりあえず、進もうかな」




