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第6話 灼熱地獄決戦(後編)

「くそっ……!」


灼熱鬼が、膝をつきながらも歯を食いしばった。

全身を覆っていた炎が揺らぎ、肩で息をするその姿に、先ほどまでの圧倒的な余裕はなかった。


だが、まだ終わってはいない。

灼熱鬼の目が、陽葵を射貫いた。


「……まぐれは、二度も通じぬぞ、人間ッ!」


怒声が、灼熱地獄に響き渡る。


「さっきの隕石は一度目の祝福……だが次は――“業火の審判”だ……!」


灼熱鬼が両腕を天に掲げる。

その瞬間、空が割れた。


轟音。赤黒い空の裂け目から、前よりもさらに巨大な“メテオ”が、ゆっくりと落ちてくる――


「……来る……!」


陽葵の瞳に映るのは、まさに“地獄そのもの”だった。


地を焼き、魂を貫くほどの、絶対的な破壊。

これはもう、バリアだけでは止められない――そう本能が告げていた。


(このままじゃ、みんな……!)


陽葵は、握っていた奏多の手をギュッと強く握りしめた。

そして、彼の顔を見上げる。


「奏多お兄ちゃん、ありがとう」


「え……?」


「でも、もう大丈夫。私、行くから」


その言葉と同時に、陽葵は手を離し、走り出した。


「陽葵!?」


奏多が驚きの声をあげるが、陽葵は振り返らない。


「……私を、信じて!」


叫びとともに、陽葵の足は灼熱の大地を蹴った。

すでに焦げた地面も、熱風も、恐怖も――すべては彼女の前進を止められなかった。


朔は鬼の炎に押され、苦戦していた。

剣の切れ味も鈍り、体力も限界に近い。


そして、炎の刃が朔へと迫ったその瞬間――


「朔お兄ちゃん、手をっ!」


少女の叫びが、戦場を切り裂いた。


叫びに応じるように、朔は右手を差し出した――


次の瞬間――


陽葵の小さな手が、朔の右手を掴んだ。


魂と魂が、触れ合う。


一瞬、朔の動きが止まる。

陽葵の声が、まるで魂に触れるように響いた。


「――ッ!」


振り向いた朔に、陽葵が駆け寄る。

その小さな右手が、朔の手に触れた瞬間―

バチン、と火花のように、魂が激しく共鳴した。


(これは……)


朔の脳裏に、陽葵の記憶が一瞬で流れ込む。

この地獄に堕ちてからの、過酷な日々。

踏みつけられるような痛み、罵声、父の罪、背負った孤独――


耐えて、泣いて、それでも立ち上がった少女の心。


「……お前……」


朔が、かすれた声で呟いた。


その手は、小さくて、震えていて、それでも――


燃え盛る地獄の中でも、凛と輝く氷のような意志があった。


「お兄ちゃん……この地獄で、私……何度も何度も、泣いた。もう立ち上がれないって、思った。でも……」


陽葵は、ぎゅっと手を握る。


「でも、奏多お兄ちゃんがいて、そして……ずっと、朔お兄ちゃんの背中を見てた」


朔は、言葉もなく見つめ返す。


「だから……お願い。私の魂、剣に込めて」


その瞬間――


朔の魂剣が、変わり始める。


蒼白い氷の光が剣を包み、熱を打ち消す冷気が刃から溢れ出す。



氷の冷気が、朔の剣を包み込む――。


「……これは……!」


朔の剣が、変化していた。


蒼白い光を放ち、刃先から冷気が広がる。


魂剣・氷牙。


陽葵の魂が、朔の想像の剣に力を与えたのだ。


「陽葵、――後は任せろ」


朔の声に、陽葵は息を切らせながらも頷いた。


「……うん。任せたよ、朔お兄ちゃん」


その瞬間――


糸が切れたように、陽葵の体が朔の腕の中で崩れ落ちる。

全てを出し尽くしたのだ。


「陽葵っ!」


奏多が駆け寄る。


「……僕が、陽葵を守る。だから――朔さん!」


朔は振り返らない。


ただ――剣を、構えた。



ふっと朔が目を細める。



燃えるような闘志が、その瞳に宿った。


氷の剣を構える。


「――死ぬのはお前の方だ、鬼」


灼熱鬼が、再び拳を振り上げる。


「この炎が……負けるかぁああああああっ!!」


だが――


朔の一閃が、空を裂いた。


氷の軌跡が、地を這い、空気すら凍らせる。


その刃が、鬼の胸元を貫いた瞬間――


「うおおおおおおおおおおっ!!!」


灼熱鬼が絶叫を上げる。


その体内から、氷が爆ぜるように広がり、


炎を内側から凍らせ――


「ば、ばかな……こんな、人間の魂ごときが……!」


「魂に大きいも小さいもない。想いが強ければ――強い」


朔の一言とともに、


灼熱鬼は砕け、氷の欠片となって弾け飛んだ。


――静寂。


地獄に、初めての静けさが訪れた。


辺りの温度が、ゆっくりと落ちていく。



奏多が彼女に手を差し伸べ、陽葵はそれを握る。


「……陽葵、やったね」


「……うん……っ」


涙を堪えながら、陽葵は小さく頷いた。


朔も、二人のもとへと駆け寄る。


「陽葵、大丈夫か?」


「うん。……さすが朔お兄ちゃん」


少女の瞳には、もう迷いも恐れもなかった。


――確かな自分の力を手に入れた少女。


それが、この地獄で得た、答えだった。


朔は、遠くを見つめて呟いた。


「……これで、灼熱地獄は突破だ」


見上げれば、先には新たな門――氷冷地獄が待っている。


だが、今はそのことを忘れていい。


「……あたし、生きたいな」


ぽつりと呟いた陽葵に、奏多と朔は微笑んだ。


「だったら、生きよう。地獄の果てでも、どこまでも」


三人は肩を並べて、燃え尽きた地獄をあとにした。


「そして、また一歩。生きると決めたその魂で、前へと進んでいく。」


次の話は本編、地獄に落ちた僕らは生きる意味を知った。

第15話 凍える地獄と、欠けた三角形


「皆さんの一押しが、物語を続ける原動力になります。どうぞよろしくお願いします!」


「もし少しでも面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!」



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