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転生紀行:2242年  作者: 中本めぐみ
Season:1
8/16

007:地下のソープランド

 地下の繁華街の奥にそびえ立つその建物は、まるで日本の天守閣のような外観をしていた。

 傍目からではただの城のようだが、よく見るとその入り口には「日用品30%オフ」などといったノボリが掲げられていて、大勢の人が行き交っている。


 どうやらあそこがシーナの言っていた、ショッピング・モールのようだ。

 

 俺たちはさっそく中に入ると、一階のスーパーに入った。

 そしてシーナが買い物を済ませているあいだに、俺はさりげなくイオンから小銭を受けとり、最上階にあるという噂のソープランドへ向かったのだった。


 

 $ $ $

 


「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」


 受付のボーイがニッコリと微笑んでいる。

 風俗自体が初体験だった俺は、ガチガチに緊張しながらうなずいた。


「あ……はい。初めてです」


 ボーイは慣れた様子で、優しげに微笑みながら説明をはじめる。


「ご存じかと思いますが、当店はお客様のご要望にお応えして特殊なサービスを提供することがあるため、家族連れの方のご利用はご遠慮いただいております」


「あっ、はい。大丈夫です」


「本日の温泉料金は2,000ドージコインでございます。なお、ご希望のお客様には、別途1,500コインでスタッフによる背中流しのオプションサービスもご用意しておりますが、いかがでしょうか」


「あ、じゃあそれで……」


 よくわからなかったが、俺はひとまずイオンから渡されていた貨幣を受付のボーイに手渡した。

 おそらく背中を流すという口実で、性的なサービスを行っているのだろう。


「ちょうどですね。それではごゆっくりお楽しみください」


 俺はボーイからロッカーのカギを受けとり、脱衣所に入った。

 どうせおっさんばかりだろうと思いきや、どうやらここは混浴のようで、老若男女問わずさまざまな人でにぎわっていた。

 いったい俺にはどんな嬢がついてくれるんだろうとドキドキしながら服を脱ぐと、背後からトントンと肩を叩かれた。


「準備はよろしいですか?」


 そこにいたのは、さっき俺の受付をしてくれたボーイだった。

 彼は十代前後の少年にしか見えず、受付でアルバイトでもしているのかと思ったが、どうもそういうわけではないらしい。


「おいおい。まさか俺の相手ってのは……」


「えぇ、そうです。ご不満でしたら別のボーイを指名することもできますが、いかがしましょうか?」


 少年は俺を見あげながら、丁寧にたずねた。

 俺は性欲と理性の間で葛藤しながら、自問自答する。

 

(どうりでただの受付にしては、美少年すぎるわけだ。中性的な顔立ちだし、チンコさえ見なければイけるか……? しかしいくら美少年とはいえ、男は男だしな……)


「お体も冷えてしまいますし、ひとまず中へ入りましょうか。チェンジは後からでも承りますので」


 少年は俺の葛藤を見抜いたように言った。

 俺は迷いながらも、ひとまず温泉に入ることにした。


「こちらへどうぞ」


 少年に言われるがまま、俺は洗い場の椅子についた。

 周囲の客はそれぞれが美少年を引きつれていたが、サッカー少年のようなイケメンタイプから、傍目からでは少女にしか見えない男の娘までいるようで、美少年の楽園といったところだ。


(ただし問題なのは、俺にそっちの気がないってことなんだよな……)


 いくら見目麗しいとはいえ、男が相手となると、俺のチンコも「こんなときどんな顔していいかわからないの」という反応をしていた。

 こんなことなら事前に店の情報を調べておくんだったなと反省していると、少年が俺の背中を洗いはじめた。


「ガッシリした背中ですね。何かスポーツとかやってらしたんですか?」


「いや、べつに……」


 あまり性的な興奮はしなかったが、少年の手つきはちょうどいい加減だったので、マッサージだと思えば悪い気はしない。


「オジさんは当店のご利用が初めてなんですよね。なにかキッカケがあってこちらにいらっしゃったんですか?」


「最近この街に引っ越してきたんだが、女二人と同棲中なんだ。といっても恋人同士ってわけじゃないから、家だと性欲を発散させる場所がなくてな」


「なるほど、それは大変ですね。この辺りはボッタクリのお店も多いですから、気をつけたほうがいいですよ」


「そうするよ。ところで、俺からもひとつ質問いいかな?」


「なんなりとお申しつけくださいませ」


「このエリアは地下街のようだが、地上には何があるんだ?」


「ここはかつて、ロサンゼルスのリトル・トーキョーと呼ばれた町です。いまは地盤が陥没して地下街になってしまいましたが、その周囲は無事だったので、地上に行けば前と変わらずロサンゼルスがありますよ」


 俺は少年の言葉に驚いた。

 まさか異世界に来てロサンゼルスという単語を耳にするとは思わなかったが、これは思わぬ収穫だ。


(やはりこの世界はパラレル・ワールドのようなものなのか。しかもここがアメリカだったとは。それにしては、なぜか言語が通じているようだが……)


 俺は眉間にしわを寄せながら、真剣に考察をしていた。

 すると突然背後の少年が床に仰向けになり、椅子の下から俺を見上げるような恰好になった。


「それではこちらもほぐしていきますね」


 そう言うと、少年はべぇっと長い舌を伸ばした。その先にあるのは、俺のケツの穴である。

 飛びあがるほど驚いた俺は、思わず少年に怒鳴ってしまう。


「おい、やめろ! そんなことを頼んだ覚えはないぞ!」


「もっ、申し訳ありません……!」


 大声をあげたことで、周囲の客が迷惑なクレーマーを見るような目でこちらを見ていた。

 いたたまれなくなった俺は、体を洗ったあと湯舟にも浸からず、急いで温泉の外に出た。



 $ $ $



「先ほどは申し訳ありませんでした。あれは基本サービスの一部なんですが、事前に確認をさせていただくべきでしたね」


 少年は脱衣所までついてきて、平身低頭でぺこぺこと頭を下げている。


(アナル舐めが基本サービスなのかよ……。そうか。この世界では生殖器が使えないから、尻穴を使った性行為が一般的なんだな)


 そう考えると、少年に非があったわけではないのだ。

 むしろ過剰に反応してしまったことが申し訳なくなり、俺は少年に多めのチップを払うことにした。


「こちらこそ、あんな大声を出してしまってすまなかったな。いまのところケツ穴を使う予定はないんだが、興味が湧いたらまた来るよ」


「またのご利用をお待ちしております」


 少年はニッコリと微笑むと、俺を店の外まで見送ってくれた。

 俺はイオンにこの一件をどう説明したらいいだろうかと考えながら、エレベーターで一階に降りた。



 $ $ $



「あれ、おつりが少ないようだけど、予定した額より多く使ったの?」


「あぁ。向こうのサービスがよすぎてな、つい奮発しちまったのさ」


 一階の食品売り場でイオンと合流した俺は、残っていた金をイオンに渡した。

 素直にヌけなかったと言えばいいものを、なぜか見栄を張ってしまうのが俺の悪いところである。


「ふーん……。そんなによかったのなら、ワタシも行ってこようかしら?」


「止めたほうがいいぞ、あそこは混浴だからな。お前みたいな美女がいったら恰好の餌になる」


 俺があわてて制止すると、イオンは満足そうな顔でフンと鼻を鳴らした。


「フフッ、おあいにくさま。ワタシはいくら性欲が溜まっているからって、ソープになんか行くつもりないわ。ちょっとからかってみただけよ」


「なんだ、それならいいんだが」


「ずいぶん安心したみたいだけど、もしかして、ワタシが風俗に行ってるとこを想像して、ヤキモチ妬いちゃったのかしら?」


「うるさいな。そんなんじゃないさ」


 とは言ってみたものの、イオンがさっきの温泉に入って美少年に尻穴を舐められる場面を想像すると、複雑な気分になるのは確かだった。

 俺たちが二人で話をしていると、食品売り場で買い物を終えたシーナが合流した。

 

「あっ、ハルト。どこ行ってたの?」


「ちょっと紳士の社交場に用があってな」


「シーナにはまだ早いんじゃないかしら」


 俺とイオンがしたり顔をしていると、シーナが怪訝な顔をした。


「……ハルト、わたしが買い物しているうちにソープに行ったわけじゃないよね? あそこはたしか、美少年しかいないお店のはずなんだけど」


「えっ?」


 イオンがそれは聞いてないという顔をしている。

 さっき中途半端な虚勢を張ってしまった手前、引くに引けなくなってしまった俺はなんとか辻褄を合わせることにした。


「あぁ、そうだ。しかし一口に美少年と言っても、色んなタイプがいたからな。俺についてくれた子は、めちゃくちゃかわいい男の娘だったんだ」


「でもハルト、ソープに行ってもあんまりエッチなことはできなかったんじゃない? だっておちんちんがおっきくなったら、ハルトの正体がバレちゃうじゃん」


「あっ……」


 俺とイオンは二人して顔を見合わせた。

 たまたま俺が男好きではなかったからよかったものの、あの場で俺のムスコが反応していたら、いまごろ大騒ぎになっていたかもしれないのだ。


「……シーナの言う通りだ。俺の初めての風俗体験は不発だった。高い金を払って、何の成果も得られなかったんだ」


 ガクッと膝から崩れ落ちて落胆していると、イオンが俺の肩を支えながら、慰めるように耳打ちをした。


「よかったら、この後二人でもう一度最上階に行かない?」


「何のために? 勃起できない風俗なんて、罰ゲームみたいなもんじゃないか」


「そうじゃなくて……最上階にあるのはソープランドだけじゃなくて、エッチな玩具が売ってるアダルト・ショップもあるらしいのよ。そこでオカズとか性処理グッズを買っておけば、いざというとき自分で性欲を処理できるようになるでしょう? お金はワタシが出してあげるから……」


 絶望していた俺は、少し元気になって顔をあげた。

 ソープになんか行かなくたって、俺にはこの右手があるのだ。


「結局のところ、頼れるのは自分しかないってわけだ」


「なんかカッコいいこと言ってるけど、オナニーの話だよね?」


「シーナ、よく覚えておきなさい。むかしの男の人はおちんちんで物事を考えていたのよ」


「むかしの人って大変だったんだね……」

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