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転生紀行:2242年  作者: 中本めぐみ
Season:1
15/17

014:虎よ、虎よ!

 ショッピング・モールの喧騒は激しさを増していた。

 入り口付近に向けて発砲したことで、外に出るべきか中に隠れるべきかわからなくなった群衆が、揉みくちゃになっている。


「落ち着いてください! みんなおちついてー!」


 そんな半狂乱の客を落ち着かせるため、エスカレーターを使って白装束の少年たちがぞろぞろと降りてきた。

 どうやら屋上の爆破は目くらましにすぎず、敵は一階に潜んでいると気づいたようだ。


(まぁ、かくいう俺も陽動作戦の一部なんだけどな……チャンスはいまだぞロジィ、しくじってくれるなよ)


 俺はロジィの無事を祈りながら、ライフルをリロードした。

 そしてエスカレーターを駆け下りている五、六人の少年たちに向かってフルオートで発砲する。


(一列になっているから恰好の的だが、いかんせん距離が遠いな……)


 俺はマガジンが空になるまで発砲したが、仕留められたのは半数程度だった。

 生き残った少年たちが俺の位置を特定し、拡声器で仲間に情報を伝えようとする。


「一階にある洋服屋の中だ! くりかえす、敵は一階にある洋服屋の――」


 俺はもう一度顔を出して、拡声器を持っている少年の腹を撃ちぬいた。

 しかし彼の決死の行動により、とうとう俺の位置がバレてしまった。


(場所を変えたいところだが、外に出るとどうなるかわからんな)


(敵はあと十人前後です、急ぐ必要はないでしょう)


 とはいえ、こうなると顔を出すわけにもいかず、洋服屋に立てこもるしか選択肢がなかった。

 見通しも悪く、あまりいい立地ではないが贅沢は言えないだろう。


(こうなれば彼らは全戦力をこちらに投入してくるでしょう、貴方の狙いどおりですよ)


(俺が死ななければの話だけどな)


 そのとき、カランコロンと何かが転がる音がした。

 俺は反射的に身構えたが、回避まではできなかった。

 閃光と共にキィィィンと鋭い音が耳をつんざき、俺の視界は真っ白になる。

 

(フラッシュバンか……これはマズいな)


 アイリスがしきりに何かを訴えているようだが、頭の中で残響が響いて、その声は聞こえなかった。

 しかし、アイリスが焦っているということは、敵が接近しているのだろうと思い、俺は覚悟を決めて立ちあがった。


(ヘルメットのおかげで直撃は免れたはずだが、それでもこれだけダメージを喰らうのか……)


 視界がぐわんぐわんと揺れるなか、俺は気合でリロードを済ませて、銃口を出入口に向けた、


(――いまです、敵が来ます)


 アイリスの声と同時に、俺はトリガーを引いた。

 少年たちはこの機会を逃すまいとして突入してきたが、店の入口を越えた直後に、体がハチの巣になり続々と倒れていった。

 俺は敵を視認する前に決め打ちで撃ったので、少年たちも回避する時間がなかったようだ。


(よく瞬時に体勢を立て直しましたね。貴方にしては上出来です)


 俺は苦笑しながら、片膝をついて倒れた。

 こちらも満身創痍だが、敵の戦力も残り少ないだろう。


(いま突入してこないところを見ると、彼らはもう全滅したのかもしれませんね)


 アイリスの言うとおり、増援が来る気配はなかった。

 逃げ惑っていた群衆も外に出たようで、ショッピング・モールの中は不気味なほど静まりかえっている。


(最初の爆発に巻きこまれた数が思いのほか多かったのか……? もう顔を出しても大丈夫そうだな)


 俺は壁を背後にチラチラと外の様子をうかがったが、見える範囲で動いている人間はいなかった。

 洋服屋の外に顔を出しても、撃たれる気配はない。



(あとはロジィを待つだけ、か)


 俺は何度も周囲を確認しながら店の外にでると、近くにあったベンチに腰かけた。

 すると間髪入れずにドスンという音がして、俺の目の前に裸の少年が片膝をついて着地した。


「お久しぶりですね、オジさん」


 そこにいたのは、白装束のリーダーらしき美少年だった。

 爆破に巻きこまれたらしく衣服は焼け焦げており、焼けただれた手の皮膚からは、メタリックな外骨格が剥きだしになっている。


(アイツ、いま屋上から飛び降りてきたよな? 何メートルの高さがあると思ってるんだ)


(貴方が戦って勝てる相手ではありません。逃げてください!)


 俺が呆気に取られていると、少年はヒョウが獲物を捕らえるときのように跳躍し、一気に距離を詰めてきた。

 その勢いのまま放たれた回し蹴りが腹に直撃し、俺は後方に吹っ飛んで床を何度も転がった。


(これがヤムチャ視点ってやつか)


(言ってる場合ですか、そのままだと死にますよ)


 俺は急いで起きあがりライフルを取ろうとしたが、少年がそれよりも早くライフルを蹴とばした。

 俺はヘルメットを脱ぎ捨てて、両手を挙げて降伏する。


「……やっぱり話し合いで解決しないか?」


「これだけ殺しておいてよく言いますね」


 少年は頭上を見あげて、呆れたようにため息をついた。

 吹き抜けから見える最上階の部分は変わり果てた様子になっており、城の原形すらなくなっている。


「そんじょそこらにいるオジさんに、ここまでしてやられるとは思いませんでした。敵ながらあっぱれです」


「それはどうも」


「ボクの仲間も殺されて、お城もぐちゃちぐちゃにされて……本来なら怒るべきはずなのに、ここまで来ると笑えてきますね」


「色々とすまなかったな」


「で、この落とし前はどうするつもりですか? まさかボクが『お互い様ですから』と言って、オジさんに手をさしだすとでも?」


「残念ながらそれはなさそうだ。どちらかが死なない限り決着はつかないだろう」


「あいかわらず、ものわかりのいいオジさんですね。ふつうにお客さんとしてソープに遊びに来てくれれば、仲良くなれたかもしれないのに……」


 少年は名残惜しそうに言うと、片手で俺の首を絞めあげた。

 やはり少年は体を機械化しているらしく、子どもとは思えない力強さで自分の身長の倍はある俺を、容易に持ちあげている。


「せっかくですから訊いてあげましょう。何か言い残すことはありますか?」


「……背後に気をつけたほうがいいぞ」


「残念ですが、ボクは子ども騙しにひっかかるほどマヌケではありません。それではさようなら」


 少年はそう言うと、俺の首の骨を折ろうとした。

 だがその瞬間、少年の背後に倒れていた白装束がのそりと起きあがり、ライフルを発砲した。


「がはっ……!?」


 少年は信じられないという顔で背後を見た。

 起きあがった白装束の頭には、さっき俺が脱ぎ捨てたヘルメットが乗っている。

 アイリスが白装束の死体を操っているのだ。


「もしやとは思ったが、死人の体もコントロールできるとはな。まるでゾンビみたいで気味が悪いな」


「やれやれ……命の恩人に向かって言う言葉がそれですか?」


 アイリスは中性的な声で喋りながら、倒れている裸の少年に銃を乱射する。

 少年が膝をついて倒れてもなおリロードして発砲していたので、俺はさすがにとめに入った。


「おい、もう十分だろ」


「サイボーグはこれくらいしないと起きあがってくるかもしれません。それに、日頃のストレス解消にもなりますし」


「……文句の一つも言ってやりたいところだが、今回ばかりはお前に助けられたな。礼を言うよ」


 俺が照れながら礼を言うと、アイリス(もとい、白装束の少年の死体)はよろよろとこちらに歩いてきた。


「感謝するのは家に帰ってからにしてください。というか死臭がくさくてかなわないので、とっとと回収してもらえませんか?」


「俺の頭もフケだらけだが、さすがに死人よりはマシか」


 そう言ってひょいとヘルメットを取ると、白装束の死体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 と、そこでショッピング・モールの奥にあった従業員用の出入り口から、ロジィがでてくるのが見えた。


「おーい、ロジィ! いまちょうど終わったとこだ」


 俺が手をふると、ロジィは姉貴の肩を支えながら二人三脚で歩いてきた。

 ロジィの姉貴は意識はあるものの、頬と目の周りがパンパンに腫れていて痛々しい青痣ができていた。


「オイオイ。まさか一人で白虎隊を壊滅させちまうとはな。この前出会ったオッサンと同一人物とは思えねーぜ」


「生きていて何よりだが、肝心のイオンはどこにいった?」


「あの姉ちゃんなら元気だよ。ちょうど出荷前だったから、ウイルスも除去されてるはずだぜ。オメーさんに会うとき裸だと恥ずかしいから、服を探してくるんだとさ」


 ロジィの姉貴が笑いながら答えた。

 そのあいだ、ロジィは何か言いたげな顔でもじもじしていた。


「アナタ!」


 つづいて、バァンと従業員用のドアが勢いよく開くと、白いチャイナドレスを着たイオンが現れた。

 イオンは小走りでこちらに向かってくると、そのまま俺に抱きついてきた。

 姉弟がニヤニヤしながらこちらをながめているので、恥ずかしくなった俺はイオンをなだめようとする。


「大げさだな、まだ離れてから一日も経ってないんだぜ」


「ワタシにとっては二百年の眠りよりも長く感じたわ。このまま二度と会えないかと思ったんだから……」


 イオンは少しのあいだ俺を見つめていたが、やがて少し遠慮がちに俺の頬にキスをした。

 するとそれを見ていたロジィが対抗心を燃やしたようで、


「おい、デカチン。あたしからも姉貴を助けてくれたお礼をさせてくれ」


 と言って背伸びをすると、初々しい顔で唇にキスをしてきた。

 ロジィの姉貴とイオンが、ポカンとした顔でその様子をながめている。


「オレがいないあいだに、いったい何があったんだ?」


「ワタシまだ、ファーストキスもしたことないのに……」


 二人とも言いたいことはあるようだが、助けられた立場ということもあり、この場はおさめてくれたようだ。


 ロジィとのキスを終えた俺は、ゴホンと咳払いして言う。


「とにかく、家に帰るまでが救出作戦だ。安心するのはまだ早いぞ」


「そうね。早く家に帰ってシーナの顔が見たいわ」


「それじゃ、オレたちはここでお別れか」


 ロジィは姉貴の言葉を聞くと、名残惜しそうに目を伏せた。

 姉貴はそんなロジィをからかうように言う。


「おまえがそうしたければ、愛しの彼氏と一緒にいたっていいんだぜ」


「バッ、そんなんじゃねぇよ! あたしらはあくまで今回限りの関係だ。そうだろ、デカチン?」


 ロジィは何かを期待するような目で俺を見た。

 しかしロジィを勘違いさせたままでいるのも違うような気がしたので、俺はスパッとこの関係を断ち切ることにした。


「あぁ、そうだ。俺たちの関係はこれで終わりだ」


 ロジィはぐっと涙をこらえるように目を伏せた。


「だが、きっとまたどこかで会えるだろう。そのときは、今回の借りを返してもらうからな」


「ようやく借金生活から解放されたってのに、今度は厄介な男に借りを作っちまったようだな、ロジィ」


「……あたしらが借りを返すまで死ぬんじゃねぇぞ」


 ロジィは目を伏せながらボソッとつぶやいた。

 俺とロジィの姉貴は目配せを交わすと、ロジィが泣きださないうちに、それぞれの家路につくことにした。


「……ごめんなさい。ワタシのせいで、アナタにここまでさせてしまって」


 イオンは跡形もなく吹き飛んだショッピング・モールの屋根を眺めながら言った。


「気に病む必要はないさ。お前は知らないだろうが、この時代の人間はもうすぐ復活するんだ」 


「え? それってどういう――」


 そのとき視界がグラっと揺れて、俺は地面に片膝をついて倒れた。

 どうやら少年に撃たれた肩の傷が完全に止血できておらず、一時的な貧血になってしまったらしい。


「アナタ、撃たれてるじゃない!? それならそうと言ってくれればよかったのに」


「男というのはつまらない意地を張りたがる生き物なんです」


 喋れなくなった俺のかわりに、スピーカー・モードでアイリスが返事をした。

 イオンはキョロキョロと首をふり声の出どころを探している。


(お前にそんな機能があったとはな)


(ついでに貴方の脳内物質を調整して、体の治癒力が上がるようにしておきました。いずれにせよ、イオンさんにはワタシから説明しておきますから、貴方は休んでいてください)


(至れり尽くせりだな。……まだ俺に隠してる機能があるのか?)


(さあ、どうでしょう)


 アイリスに軽くいなされてしまったと感じつつ、俺は深く息を吐いて目を閉じた。

 体に溜まった疲れがスッと抜けていくようで、なんだか久々にいい夢が見られそうな気がした。

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