永久筆頭魔術師
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてChatGPTを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
・ 世界観・キャラクター・ストーリーの基盤は完全オリジナル(整理や補助を行ってもらうことはあります)
・ プロットは自身で立案(ストーリー展開、キャラの行動、テーマ性などを自分で組み立てています)
・ 重要なセリフ・行動・心情変化はすべて文章で指示(キャラクターの一貫性を重視)
・ プロットをもとに叩き台の原稿を出力 → 30%以上の加筆修正(表現のブラッシュアップ・個性の強化)
・ 執筆の過程で違和感のチェック・校正を補助的に利用(つなぎの違和感や文章の整理)
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「ChatGPTをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
――バチッ!
大気が裂け、雷が弾けた。
赤と蒼の閃光が絡み合い、地を這うように奔る。
フレイアの放った雷火の奔流が、一直線に若さまへと襲いかかる。
「燃え上がれ――雷炎乱舞」
詠唱の余韻すら必要とせず、雷火の柱が走る。
その一撃は、フレイアがこれまでの血闘で培ってきた "勝ち筋" そのものだった。
火の熱量で防御を無理矢理こじ開け、その隙に雷撃を叩き込む。
"これで仕留めてきた"。
これまでの戦いでは――だが。
「……禁術か?」
若さまが軽く息を吐いた。次の瞬間――水が弾けた。
ゴォォッ!!!
奔流が逆巻く。
まるで青い龍が顕現したかのように、水の魔力がフレイアの雷火の流れを捉え、逆流するように絡みついた。
「な――っ!」
フレイアの魔術が、呑まれた。
それまで炎を燃え盛らせ、雷を纏っていた奔流が、まるで力を吸い取られたかのように霧散する。
そして、消える。
フレイアの目が驚愕に見開かれる。
「……は? "雷火"が……消えた?」
それは、あり得ない。雷火の奔流は、単なる二属性の融合ではない。
お互いの魔力を燃料とし、増幅しながら持続する、"暴力的な繁殖魔法"。
消えるはずがない。
「……ちょっと待てよ? 禁術は、発動したら消えないはずだろ?」
フレイアの指が震えた。これは血闘同盟の禁術"魔力焦土"の応用だ。
本来なら、発動した時点で相手の魔力場に喰らいつき、抑え込む効果を持つ。
それが、いとも簡単に "霧散"した。
(何かのカラクリか? それとも――)
フレイアの心に疑念が生まれる。
「……チッ」
疑念を振り払うため、フレイアは舌打ちし、瞬時に次の手を打つ。
「なら、これならどうだ? ……魔力沸騰!」
瞬間、フレイアの魔力が爆発的に増大する。
これも、血闘同盟の禁術の一つ。
自身の魔力を短時間の間、何倍にも引き上げ、一撃必殺の出力を生み出す魔術。
その代償として、術者の体力を激しく削る。
だが――勝負を決めるには、これが最適。
フレイアは、炎と雷を"過剰強化"し、相手に叩きつける。
「"過剰魔力増幅"! ――耐えられるかよ!」
圧倒的な熱量を纏った火球が、雷の渦を引き連れながら一気に降り注ぐ。
一発ではない。十発、二十発、それ以上。
全てが高密度のエネルギーとなり、若さまを焼き尽くさんと襲い掛かった。
――そして、その一瞬の間に、フレイアは見た。
目の前の男が、淡々と、手をかざすのを。
「水天鏡」
青白い波紋が、宙に揺れた。
――刹那。
フレイアが放った全魔力が、"吸い込まれる"ように水面へと溶け込んだ。
「なッ……!?」
驚愕に満ちたフレイアの表情をよそに、若さまは指を軽く弾く。
「……返すぞ」
――バシュンッ!!
雷火の奔流が、フレイアの元へ逆流する。
まるで、自身の攻撃が "そのまま"跳ね返されたように。
フレイアは咄嗟に身を翻す。
奔流に抗うように回避する――だが、一歩遅れた。
「ぐッ……!!」
――ドンッ!!!
雷火が地面を穿つ衝撃が、体に叩きつけられ、フレイアは吹き飛ばされた。
地面を転がり、土煙が舞う。
"魔力焦土"も、"魔力沸騰"も、通用しない。
有利属性である"雷火"ですら封じられる。
"水"だけで。"水"だけで。"水"だけで――
「……なんで、水だけで……?」
理解が追いつかない。
炎だけなら別だが、雷火は水に対して、基本的に有利な属性だ。
なのに、"この水"は、何でも打ち消すように振る舞う。
「……それに……おまえっ……詠唱はどうした!」
フレイアの高速詠唱は速いだけ。詠唱を圧縮するが、速いだけ。
「必要ない」
対して"若さま"の魔術には詠唱そのものがない。
「概念無視かよっ! ふざけるなっ! ならば、これはどうだっ!」
フレイアが空を指さし、高らかに宣言した。
これまでの高速詠唱とはちがって、長い詠唱を口ずさむ。
「絶対有利属性領域――展開っ!」
瞬間、空間が捻じれる。
炎と雷の輝きが渦を巻き、周囲の大気が赤と金の閃光に包まれていく。
若さまは感嘆に似た声を上げる。
「ほう」
体感温度が急上昇し、空気そのものが火花を散らす。
領域の中心にいるフレイアの姿が、より強く煌めいた。
「絶対有利属性領域……か」
若さまは小さく呟くと、ゆっくりと視線を上げた。
"絶対有利属性領域"――それは、一定の範囲を自身の有利な属性に染め上げ、その空間内で発動する魔術を爆発的に強化する血闘同盟の秘儀。
「使えるなら、なぜ最初から使わない?」
「お前の言う通りだっ! 最初からこうすれば良かったよ!」
フレイアが腕を振り上げると、領域全体に雷が奔る。
視界の全てが彼女の支配下にあり、ここでは水魔法など、まともに機能しない。
「悪いが、お前の"水"は、もう通用しねぇぞ」
圧倒的な魔力が、空間を歪ませる。これが彼女の確信――"水"にとって、最も不利な戦場。
「さすがに、これは不利だな」
若さまは肩をすくめた。だが――その目には焦りがない。
まるで、この状況ですら"当然の展開"として受け止めているかのように。
「……その余裕……いつまでもつかな?」
フレイアが笑みを浮かべる。
絶対有利属性領域は発動後、発動者以外には決して上書きも、消去もできない。この領域にいる限り、彼女の炎と雷は絶対的な優位を持つ。
「どうせ、知ってるんだろ? "絶対有利属性領域"は絶対だってことを」
彼女は勝利を確信しながら、再び詠唱に入る――だが。
「……ああ、知ってるさ」
若さまの指が、すっと空間をなぞる。まるで、"何か"を操作するように。
「上書きもできない。消すこともできない……だったらこうすればいい」
「――は?」
フレイアが目を見開く。
――ザァァァァァッ!!
空間が、波打った。
先ほどまで燃え盛っていた火炎の渦が、まるで最初から"存在していなかった"かのように静まり返る。
「そんな、バカな――!?」
驚愕に満ちたフレイアの声。
その足元を見れば、大地が青く染まり、静かな波紋を描いていた。
「なんだ? なにが起きた? なにをした!」
「さぁ……な?」
「なっ!」
若さまが軽く指を鳴らし言った。
「大丈夫か? この属性で?」
水属性有利の絶対有利属性領域。
「くっ!」
フレイアの声が漏れた後、"絶対有利属性領域"は霧散した。
フレイアは目を見開き、思わず息を呑む。自身で展開する"絶対有利属性領域"で自身が不利になる。
そんなことゆるされるはずがない――彼女は自ら展開した領域を、自ら閉じた。
「……っ!」
彼女の身体が、一瞬震えた。何が起きたのかはわからない。
しかし、若さまが"何か"をしたことだけは察していた。
「お前、何者だよ……」
フレイアの声が震えた。
若さまは、ただ微笑んでいた。
「……フレイア。さっき、最後の忠告といったが……あれは嘘だ」
怪訝にする彼女の前で、若さまは静かに語った。
「そろそろ良いだろう? 退いてくれたら嬉しい」
まるで教師が生徒を諭すような声音。あまりにも――余裕 。
「……チッ」
フレイアは歯を食いしばり、拳を握る。
雷火の魔術は無効化された。禁術も通じない。
なら――
(剣で仕留める!!)
次の瞬間、彼女は迷いなく剣を抜いた。
「雷閃――斬り裂けッ!!!」
――バシュッ!!!
青白い雷が弾けた。
フレイアの剣が、光の残像を引く。一点を貫くように狙いを定め、猛然と突き進む。
迷いはない。
魔術が通じないなら、剣で仕留める。
それが、血闘同盟の魔法剣士として、数多の魔術師を屠ってきた彼女の戦い方だった。
だが――。
「……」
若さまは微動だにせず、それを見ていた。
スッ――。
剣が、虚を斬った。
「……ッ!? どこに……」
フレイアの目が、一瞬で惑う。
消えた? いや、違う――"避けられた"。
若さまは、たった半歩、僅かに重心をずらしただけで、その斬撃を紙一重で回避した。
それも、まるで"最初からそこにいなかった"かのような自然な動作。
フレイアの戦闘経験が、即座に警鐘を鳴らす。
(この動き――体術ですら"そう"なのか!?)
普通、回避には"大きな動作"が伴う。剣の軌道を読んだ上で、最適な位置へ身体を移す。
それは、訓練を積んだ戦士なら当たり前にできることだ。
だが、この"回避"は違った。
まるで、刃がそこに届かないことを知っていたかのように、最小限の動きで"外した"だけ。
「……ッ、この……!」
フレイアは即座に二撃目を放つ。
――が、その瞬間。
「"遅い"な」
若さまの言葉が、静かに響いた。
――カツッ。
「は?」
フレイアの剣が振り下ろされる直前、彼の手には"一振り"のペンがあった。
――チィンッ!!!
音が鳴った。
ペンの先端が、刃の"側面"に触れただけで、斬撃が逸れる。
「なっ……!?」
フレイアの体がわずかに流される。重心を狂わされた一瞬。若さまの足が、静かに動いた。
「痛いぞ」
――ズンッ!!
次の瞬間、フレイアの腹部に"手刀"が突き込まれる。
鋭い衝撃。一瞬、息が詰まり、フレイアの身体が数歩後退した。
「ッ……!!」
それでも、彼女はすぐに体勢を立て直し、間合いを取る。
「なんだっ! なんなんだソレはっ!」
「……ディス・イズ・ア・ペン」
若さまは一切のおふざけなしに言った。
「ペン"一本"で、剣を捌いた……だと?」
剣の軌道を"正確に読み切り"、最小の力で受け流す。
ペンにはわずかな魔力の凝縮が行われている。
だが――ただ、"それだけ"だ。
(……ありえない……!!)
フレイアは、再び刃を構えた。雷火の魔力を込め、剣速をさらに上げる。
「ふざけんなよ……!!」
――ギィンッ!!
文字通り、電光石火の斬撃が放たれる。
若さまは、それを迎え撃つように、ペンを指で軽く回し――。
ギィン! キィン! ギャリンっ!
「――ッ!?」
ペンだけで、全ての攻撃を弾きかえす。
「……ありえねぇ……」
フレイアは、信じられないものを見るような目をした。
「剣速を上げても……これではな」
若さまが、肩をすくめる。
「……"雷"を纏った剣は、動きが単調になるんだ。知らなかったのか?」
「……何?」
「雷の魔力は、"強制的に軌道を補正する"性質がある。結果として、"剣筋が読まれやすくなる"」
「そんな馬鹿な……!」
「加えて、"火"を組み合わせると――さらに、軌道が安定する」
フレイアの剣は、"雷火の魔力"によって強化されていた。だが、それは"安定した出力"を得るための技術。
つまり、"軌道のブレがない"。
「だから、簡単に止められる」
若さまは、淡々と語る。
「そんな話があるもんかよっ!」
フレイアは、まるで理解が追いつかないというように剣を握り直した。
「……ふざけるなっ! ふざけるなよっ!」
若さまは、ペンを回し続けながら微笑んだ。
「そう落ち込むな」
その言葉に――フレイアの背筋が凍る。
(――"こいつ"は……!!)
フレイアは、思わず後退した。
剣が、通じない。魔術も、通じない。"ペン一本"で、すべてを捌かれた。
――まるで、"戦いの次元が違う"。
("こんな化け物"が……血闘同盟にいたってのかよ……!?)
そう思った瞬間。
――バシュッ!!
突然、フレイアの手元が弾けるように光った。
「!?」
見れば、彼女の手甲に刻まれていた 魔術刻印が発光している。
(しまった……不意打ち用に仕込んでたやつが……!)
魔術刻印――これは、"事前に刻んでおいた魔術を発動できる"技術。
無詠唱で攻撃ができるため、奇襲に向いている。
(かまわん! 都合がいい!)
本来、彼女が得意とする属性は"雷火"。
(――不意打ち用に"氷"を刻んでおいた……!)
対雷・対火を想定されやすい彼女の魔術の中で、"氷"という属性は意表を突く。そして、何より刻印による魔術は――高速発動が最大の強み。
詠唱なし。術式の展開なし。ただ刻印に魔力を流せば、自動的に魔術が発動する。
魔術刻印より四つの氷刃が放たれる。
「これなら防げねぇだろ!!」
一瞬の隙をつき、フレイアは勝利を確信する――が。
「……魔術刻印か」
――シュッ。
若さまが、右手を軽く振るった。
すると、ペン先から光のインクが飛び散るように、空中にいくつかの魔術文字が描かれる。
小さく、短く、簡潔に。
「なっ……!?」
フレイアの瞳が驚愕に見開かれた。
空中に描かれた僅かな魔術文字が、広がっていく。
術式そのものが、自己を拡張するために、術式を記述していく。
やがてそれは魔方陣と呼べるものまでに広がった。
「おい……嘘だろ……?」
魔術刻印の強みは"事前に刻んでおく"こと。
だが、目の前のこれは――術式そのものが術式を刻みながら展開していく。
「ちょ、待てよ……こんなの聞いたことねぇ……!!」
魔方陣と魔術刻印のその先、自己記述型魔方陣――。
「――閉じるぞ」
若さまが、指先を軽く払う。
バシュッ!!
自己記述型魔方陣が完全に展開されると同時に、"氷の魔術"を飲み込み閉じた。
消されたのではない。"閉じられた"のだ。
「……嘘だろ……?」
フレイアは呆然としながら、握った拳を僅かに震わせる。
(魔方陣が勝手に育つ……?)
同時に肩も震えている。
(こんなの、私の魔術刻印が"時代遅れ"みてぇじゃねぇか……!!)
焦りが、心の奥底に染み渡る。
――しかし、それを認めるわけにはいかない。
「……ッ!!」
フレイアは即座に後退し、次の攻撃の準備に入る。彼女にはまだ、奥の手があった。
だが――。
「来るか」
若さまの呟きが響いた瞬間。
ドォン――!!!
遠方の木立の影から、魔力の奔流が放たれる。
その奔流は"血闘陣"によって阻まれた。
「やれやれ、さすがにか……」
若さまがわずかに肩をすくめる。
「乱暴なノックだな。入りたければ、入ればいい」
若さまがそう言うと、血闘陣が静かに霧散する。
もはや、戦いのルールなど意味をなさないとでも言うように。
フレイアの仲間が、戦場に介入する。
――カツン、カッ、カツ。
硬質な靴音が三つ辺りに響いた。
フレイアの仲間たち――血闘同盟の分派に属する実力者たち。
「……クソが」
フレイアは忌々しげに舌打ちする。
「なんのつもりだ? "血闘"を汚すな」
フレイアの仲間たちは順番に、しかし、淡々と口にする。
「汚す? "子供"と"大人"の遊びのように見えたが?」
「フレイア、貴様が長の座にいるのは仮の話だ」
「本家の打倒は我々の悲願、"血闘"? ……くだらん」
彼らの態度には、一切の敬意というものが見られない。
若さまが口を開く。
「……本来の"掟"であれば、この時点で終わりなんだがな……」
若さまが展開していた血闘陣は既に消えている……が。
本来は無理に干渉すれば"血闘"の掟にしたがい排除される、その際に無事であることは保証されていない。
「くだらんと言っている」
闘いは終わりの筈だった。だが、そんなルールを守る者たちでもない。
――ブン。
三人それぞれが、魔力を解放し、空中に魔方陣を記述する。
最初のひとりが地面を蹴り、魔力を解放する。
「来い――"魔王の落胤"!」
異形の巨獣が地面を割り、大気を震わせながら姿を現した。
四本の腕、赤黒く脈動する肌、牙を剥き出しにした魔物。
「フッ、我も行くぞ」
次の男が掲げた杖の先に、淡い光が灯る。
「顕現せよ――"無貌の観測者"!」
空間が裂け、光と影が絡み合うようにして、人の形をした魔法生命体が現れる。
その目は虚ろで、だが、確かな敵意を持って若さまを見据えていた。
「戦場に華を添えよう」
次の女が腰の剣を軽く抜き、魔力を込める。
「舞え――"人造の戦乙女"!」
空間が弾けるように揺れ、一体の戦士が生み出される。
それは精巧な人形のような存在だったが、宿る魔力は本物の剣士と遜色ない。
三体の使い魔が、主の命を待つかのように佇む。
「……さすがにこれで終わりだな」
三人の魔術師、三体の召喚獣がそれぞれ不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ、どうする?」
その問いに若さまは、目を細めながら静かに答えた。
「召喚獣を使役する、魔術師の基本中の基本だったな」
彼はフレイアに視線を戻す。
「そのお嬢さんに引っ張られて、そんなことも忘れちまっていた」
彼はさらに続ける。
「……では、俺もそれにならおう……」
彼は思案するように顎に手を当てた。
「とはいえだ……"いま"は水属性しかまともに使えないんでな……だが、水属性の魔術には、こんなものもある」
彼は、ゆっくりと指を噛み、一滴の血を地面に落とす。
――ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
大地が震え、空間が捻じられ、重力そのものが歪む。
黒い霧が噴き出し、あらゆる光を吸い込むかのように広がっていく。
その中から――何かが"出てきた"。
「形なき王、"ケイオース"よ――」
詠唱する若さまの声は、どこまでも静かだった。
発せられる言葉は空間に溶け込んでいく。
「――古き盟約により力を貸せ」
――ズォォォォォン!!!
闇が凝縮され、一対であり百対でもありえる、"存在自体"がおぼろげな、"眼"が浮かび上がる。
「……"混沌の儀式"!」
次の瞬間、すべてが反転したかのように、"闇"が奔る。
「な、なんだ……これは……!?」
フレイアと、フレイアの仲間たちは、初めて"本能的な恐怖"を感じた。
彼らの召喚獣も――震えている。
純粋なるエネルギー。
形を持たぬ、"エネルギー"そのものが"意思"を持つ。
闇と混沌の王、その力の一片が"召喚"された。
「なんだ? 何を"召喚"んだ?」
フレイアの唇が震える。
「なに……さすがにこの人数。ちと魔力が足りなくてな」
若さまの笑顔が闇に沈む。
「"知人"にすこしばかり、用立ててもらったんだ……」
使役ではない、純粋なるエネルギーの"召喚"。
本来、魔術とはエネルギーを"対価"に行われるもの。魔力で魔力を生みだす。
フレイヤと三人の魔術師たちには、その発想が、その概念が理解できなかった。
混沌とした形容のしがたい闇の揺らぎが若さまを包んでいる。
三人の魔術師が、間髪入れずに襲いかかる。
召喚獣と共に詰め寄る者、遠距離から雷撃を放つ者、奇襲に回る者――。
「まとめてかかってくるか。まあ、当然だな」
若さまは静かに呟いた。
まず、一番近くに詰め寄る女魔術師が疾駆する。魔力を纏った斬撃が、迷いなく若さまの頸を狙う――が。
水が揺らいだ。
ドンッ!!!
女魔術師の体が、一瞬で吹き飛ばされる。水の奔流が彼女の足を捉え、流れるように弾き飛ばしたのだ。
「ぐっ……!」
続けて、雷撃が降り注ぐ。最も遠くにいた男が詠唱し、雷蛇が地を這うように襲いかかる。
だが、若さまは一歩も動かず、代わりに彼の足元から水の波紋が広がった。
「――水天障壁」
青白い壁が弧を描き、雷撃を呑み込むように分解する。
「チッ、何だその術は!」
男が叫ぶと、三人目が、後方で結界を展開する。
「なら、これならどうだ! 魔王の落胤よ、暴れ喰らえ!!」
巨獣が咆哮し、腕を振り下ろす。大地が揺れ、衝撃が走る。
が――若さまの姿は既にない。
「――なっ?」
巨獣の攻撃が空を斬る。
次の瞬間、結界内にいる男、その横に若さまが立っていた。侵入を拒むはずの結界が何の意味も成していない。
「邪魔するぞ」
その言葉と同時に、彼の掌が男の腹へと突き刺さる――。
ドグッ!
男の体が弾けるように吹き飛ぶ。
結界の壁に一度だけバウンドし、後方の木々を薙ぎ倒しながら転がった。
「……ッ!? 速すぎる……!」
残る二人が動揺する間に、若さまは一歩踏み込む。
「さて、残りはふたりだな?」
女が再び斬撃を放つ。だが、若さまの足元がふわりと揺れた。水が、滑るように流れる。まるで、地面そのものが水流へと変化したように――。
女の足が滑った。
「しまっ――」
その一瞬の隙に、若さまの膝が女の顎を捉える。
ガッ!
脳が揺れる音が響く。女の意識が霞み、膝から崩れ落ちる。
「――これで残りひとり」
若さまが呟いた。最後に残ったフレイアの仲間は、後ずさる。
「く、くそ……!」
「どうする? まだやるか?」
若さまが静かに問いかける。
魔術師は、震える手で印を結ぼうとするが――若さまは、その所作を見逃さない。
シュッ――。
彼の指先が魔術師の手首を弾いた。
「なっ!?」
印が崩れ、魔力が暴発する。
直後、魔術師の体が後方に弾かれ、そのまま地面に倒れ込んだ。
「終わりだな」
若さまが静かに言う。三人は圧倒的な差で、完全に制圧された。
「……くそったれ」
フレイアは、剣を握り直す。仲間が敗北するのは、想定していた。だが、ここまで"完璧に"ねじ伏せられるとは思わなかった。
違う、そう"思わないように"していた。
(……こいつ、ホントに人間かよ……)
血闘同盟の筆頭魔術師を倒し続けた彼女ですら、次元の違いを感じていた。
だが、それでも――。
「ここで終わるわけにはいかねぇんだよ」
フレイアの体から、異質な魔力が溢れだす。
「"転生の記憶"……解放する」
瞬間――彼女の体が"ぶれた"。
「……!」
五つの残像が生まれたかのように、フレイアの姿が歪む。
「転生技能:神速の行動――!」
転生者としてのスキル――五秒間、五つの行動を同時に実行する、絶対の瞬間強化。
「「「「「いくぞ……!」」」」」
バチバチバチバチッ――!!
フレイアの体が"五つ"に分かれる。
それぞれの分身が、異なる動きを同時に取り、全方向から若さまを包囲する。
「コレは対応しきれねぇだろ!」
三つの剣閃、二つの詠唱、五つの軌道。
その全てがフェイントを交え、それぞれの意思を持って襲う。
常識的に考えれば、全てを防ぐのは不可能――
だが。
「……なるほど、お前も"転生の女神"の犠牲者か」
若さまは一歩も動かず、呆れながら、ただ指先を軽く掲げる。
「"自己記述式"の応用だ」
――カチッ。
その瞬間、空間にひとつの魔術文字が現れた。
フレイアが五つの方向から襲い掛かる直前、
ひとつの魔術文字は自己記述をはじめ、ひとつの魔方陣となり、さらに五つに分裂する。
さらに五つの魔方陣はそれぞれが意思を持ち、最適な行動に”自己を書き換える”
「は――?」
彼女の五つの視界が、同時に"異変"を認識する。
五秒間つづく五体同時攻撃を、魔方陣が精密に防御、迎撃する。
まるで、意思をもつかの如く、己の役目を書き換えて。
「なっ……!? そんな……!!」
通常、一人の魔術師が、同時に複数の魔法陣を制御することは不可能。
"同時制御"は、フレイアの"神速の行動"が持つ優位性だったはず――。
(魔法陣が、増殖して、勝手に動いてやがる……!?)
フレイアの背筋が凍る。
ズバァァン!!
最初の分身が反撃され、消滅する。
バシュッ!!
次の分身が、魔法陣の迎撃波に打ち消される。
「……クソがッ!!」
残る本体と三つの分身で、再度攻めるが――
カチカチカチッ!
残りの魔法陣が、"それぞれ担当する"攻撃を完全に封じる。
戦いを初めて何度目か、フレイアの心臓が、強く脈打つ。
(……これが"こいつ"の領域か……!)
彼女の転生技能ですら、完全に"凌駕されている"。
転生技能には転生技能でしか対応できないはず――。
だが、彼の行動が転生技能だったのか、フレイアには判断がつかない。
「おまえっ! おまえも転生者か!? 今のは転生技能か!? そうなんだろう?」
フレイアは悲痛の叫びをあげる。
そうであってくれ、そうでなければならない、その思いが込められている
「ただの魔術だ」
フレイアは絶句する。
「なぁ、フレイア」
若さまの声が静かに響いた。
「"次"はどうする?」
フレイアは、握る剣の柄を強く噛みしめる。
(……クソッ……まだだ……まだ、終わらねぇ……!)
フレイアは、一瞬の間に決断する。
"最終手段"を使うしかない。
「――すべては等しく塵と同じ――」
その詠唱を聞いた瞬間、フレイアの仲間たちが苦しげに呻く。
「ま、待てフレイア! それは……!」
「馬鹿な……まさか"あの禁術"を使う気か!?」
"あの禁術"――それは、千年前に血闘同盟が封印したはずの魔術。
かつて筆頭魔術師たちが、「使用禁止」の烙印を押すだけではなく、その術式を抹消した"はず"の禁術。
意図的に"失伝"させたもの、悠久の時に消えた魔術。
「――魔力を喰らい、魔力を増幅し、戦場を制圧する――」
詠唱が続くなか、彼女の仲間たちが苦しげな呻きを上げる。
ゴゴゴゴゴ……!!!
黒い魔力がフレイアの周囲に広がる。
彼女の魔力が異常なまでに膨れ上がり、"仲間たち"の魔力を吸収していく。
「うああああああっ!」
「……悪いな、借りるぞ。"悲願"だものな……協力しろ」
フレイアの目が、冷酷な決意を帯びる。
バシュウウウウッ!!
三人の魔力が"喰われ"、彼女の魔力に融合していく。
「う、うわぁああああああ!!」
「クソッ……やめろ……!!」
バチバチバチッ――!!!
フレイアの両手に渦巻く闇に、雷と炎が混じり合い、脈動を始める。
「……"失伝禁術:魔力喰らい"だっ! さぁ、これならどうだよ?」
若さまの顔が歪む。
フレイアが叫ぶ。
「血闘同盟が封印した"千年前の魔術"だ……! 本家の筆頭どもはビビって使わなかったがな!」
若さまが初めて警戒らしい警戒の所作を見せた。
「歴代の血闘同盟員で、誰ひとりとして制御できなかった――そう言われてるが、私ならできる!」
フレイアの声が、微かに震えていた。
しかし――若さまは、この先の展開を予見するかのように、静かに告げた。
「……お前、"それ"が何かわかって"詠唱"っているのか?」
若さまの声は、冷たく響く。
フレイアは鼻で笑った。
「わかっている! 本家では失伝した禁術だろう? だが、われわれは知っているっ!」
若さまの眼差しは、どこまでも冷たかった。
「さぁどうする! どうするつもりだっ!」
フレイアは虚勢を張るが、若さまは静かに首を振る。
「……違うな」
――ズブゥゥゥゥゥッ!!
影が蠢いた。
「なっ……!?」
フレイアの目が見開かれる。
"失伝禁術:魔力喰らい"は周囲の魔力を喰らうもの。
その魔力をもって最大火力の雷火を放つ――はずだった。
だが、"コレ"は"何か"が違う。
「まさか……?」
黒い影が、不規則に揺らぎながら拡大する。
「ちょっと待て……これは……!!」
フレイアの仲間たちの顔が、一瞬にして蒼白になった。
「ま、待てフレイア!」
「ぐっ……く、苦しい……!」
「おい……これ、何かがおかしい……っ!?」
バチバチッ……!!
空間が歪み、黒い波が奔る。影が生き物のように蠢きながら、フレイアの仲間たちへと伸びていく。
「……っ!?」
叫ぶ間もなく、影が彼らの魔力を吸い上げる――それだけではない。
「ぎ、ぎゃあああああああ!!」
肉体ごと喰われた、消えた。
「……っ!? まさか……」
影が彼らの足元を這い、またたく間に彼らの身体を覆う。
「ぐ、うわああああ!!」
「た、助け――」
一瞬。
それだけで、彼らは影に呑まれ、消えた。
「そ、そんな! そんな筈は! そんなつもりはっ!」
フレイアの呼吸が乱れる。
ズズズズ……ッ!!
影が拡大する。大気が軋む。
それは、魔力を喰らうはずだった。
しかし――影は、それ以上のものを喰らい始めていた。
「え……?」
フレイアは息を呑んだ。
「な、なにこれ……っ!?」
影が彼女の腕を這い上がる。その瞬間、"腕の感覚"が消えた。
「あ……?」
右腕が、"無い"。
フレイアが気づいたときには、影に飲み込まれた腕は、もう消えていた。
「う、うそ……だろ……?」
影は、魔力を喰らうものではなかった。
影が空気を、空間そのものを侵食し、喰らっていく。
「……クソッ……なんだこれは! なにが起きているんだっ!」
――ズズズ……。
影がさらに広がる。次はフレイアそのものに襲いかかる。
「……ッ!!」
彼女は即座に魔力を四散させ、距離を取ろうとする。
――だが。
「それじゃあ間に合わん」
若さまの声が響いた。
――ズバァァァァァッ!!!
彼の手が影を捉えていた。
「っ……!?」
フレイアは目を見開いた。
「お前の知識は浅すぎる」
若さまは冷静に言い放つ。
「これが喰らうのは魔力なんかじゃない。もっと根本的なもの」
フレイアが目を見張った。
「"存在"を喰うんだ」
フレイアは混乱している。
「はっ……は……はっ! ははははは! 最高じゃぁないかっ! お前を喰らってやる!」
「……」
「ははははははっ!」
「魔術師が"魔術"に溺れるな」
若さまが諭すように言った。
「最後に喰われるのは術者自身だ」
フレイアの身体が、影に引きずり込まれそうになる。
「なんだ……なんで……うわぁあああ!」
「術を放棄しろ! フレイアっ!」
彼女は焦り、もがく。
「できないっ! できないんだっ!」
「そうか……」
「たすけて! たすけてくれっ! 死にたくない! "消え"たくない!」
「わかった……じっとしていろ」
「!?」
影が彼女の足元を絡め取り、身体を沈めようとする。
「……うわああああああああ!」
その時、若さまは、静かに息を吐いた。
「……まだだ」
フレイアの身体が、ずるりと影に沈みかける。
彼は、指をかざした。
「フレイア……お前は……まだ"ここ"にいろ」
――バシュウッ!!!
「……我ながら、複雑な術式にしたものだ」
フレイアの視界が揺らぐ。
影の奔流が、自分の身体を呑み込もうとする瞬間――
――ドンッ!!!
衝撃が走った。
だが、それは外からではなく、"内側"から。
「何をした……?」
フレイアは、自分の声が震えていることに気づいた。目の前の男が、ただそこに立っているだけ。
なのに、周囲の影が、まるで"彼を避ける"ように引いていく。
まるで、"この世界の理"が、彼にだけ違うルールを適用しているように――。
間もなく、音もなく、影が霧散した。
「な……っ!?」
フレイアは言葉を失う。
彼は、ただ指をかざしただけだ。それだけで、"禁術の暴走"が終わった。
否――違う。
"終わらせた"のだ。
"最初から存在しなかった"かのように、すべてを掻き消して。
「バカな……そんな……」
フレイアは、呆然と足元を見つめた。そこにはもう、"影"はない。
(……嘘だろ)
あれだけ世界を侵食していた影の奔流が、何一つ痕跡を残していない。
まるで、悪い夢だったかのように。
「……」
戦闘の緊張が解け、膝が震える。喉がカラカラに乾く。
「……こんなことが、あっていいわけねぇだろ……」
フレイアは、声にならない呻きを漏らす。今までの戦いが、何の意味もなかったような虚無感が押し寄せる。
そんな、彼女の前で、若さまは静かに言った。
「久しぶりなんでな……おもったより手こずった」
(なにがっ?)
フレイアは状況が呑み込めない。
しかし、すでに影はない。
その"事実"を受け入れようとする。
「ばかっ! 何故だっ! 何故そんなことができるっ!」
叫び声は震えていた。
「禁術っ! 禁術っ! 千年前の禁術だぞっ!」
若さまは、フレイアの瞳を真っ直ぐに見つめながら――淡々と答える。
「何故そんなことができるっ!」
「この術は俺が"創った"」
「はっ……?」
フレイアは耳を疑った。
この禁術は千年前に封印された。血闘同盟、最古の魔術。
一説には創始者が自ら生み出したとされる。
だとすれば――こいつは、
「血闘同盟の創始者……? おまえが……?」
自らの言葉が、自らの胸に"音を立てて"突き刺さる。
(……何をした?)
いや、違う。
"何をしてきた"?
目の前の男は、何を知り、何を創り、何を破壊してきた?
"負けた"。
違う。これは、負けたとか、そういう次元の話じゃない。
(……戦わせても、もらえなかった……)
戦いではない。"処理"だ。
頭をたれるフレイアを見て、若さまが言った。
「終わりだな」
戦闘の狂騒が終わった今、フレイアの耳には、自分の心臓の音だけが響いていた。
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