アイリス
「あー聞こえますかー。」
「ますかー。」
古い映像に小さな男の子と女の子が写っている。
「こちらは地球。星野ヒロです。」
「愛です。」
「宇宙人さん。見えてますか?・・・」
「おーいヒロ一緒に帰ろうぜ。帰りに映画でも見に行かねぇ?」
学校の終了を告げるチャイムが鳴ると同時にクラスメイトの男子達が話しかけてくる。
「悪い。今日は速く帰らなくちゃいけないんだ。」
「今日はってか、今日もだろ。」
「じゃあな。」
僕は机の中の教科書やノートを素早くしまうと足早にその場をあとにした。
「あいつ変わったよな。なんか取っ付きにくくなったってゆうか。」
「まぁしょうがねぇだろ。あんな事があったんだから。」
いつもと同じ通学路を1人歩く。
(僕はいい大学を出て医者になるんだ。始まりの遅かった僕は誰よりも努力しなきゃいけないんだ。遊んでる暇なんかないんだ。)
そんな事を考えながら足早にな帰路についた。
「ただいまー」
帰宅するとすぐに
「おかえりなさーい」
母さんだ。ちょっとしたことでもすぐ笑い、いつも元気で明るい母親。
「手を~あらって~うがいして~はい!」
いつものように変な歌を歌う母さんをスルーし自分の部屋がある2階へ上がっていく。
明日は土曜日。夜中まで勉強ができる。
ごはんを食べて。お風呂に入り。また勉強。
最近はこの繰り返しだ。
僕の部屋は、勉強机とベット。本棚には勉強の参考書。窓の側には昔父に買ってもらった望遠鏡があるだけの殺風景な部屋だ。
「ふぅ」
勉強の区切りがついて一息つき伸びをすると心地よい風が通りすぎた。時刻はもう夜中の一時をすぎていた。
「そういえば。」
なにかを思い出したかのように窓辺に近づく。
「今日は流星群が見える日だった。」
勉強の息抜きをかねて望遠鏡を覗いた。
望遠鏡を覗くのは3年ぶりだった。
あの日以来望遠鏡は覗かなくなっていた。
「すげぇ、」
一面の星空と流れ星。思わず声がでた。
すると一際輝く流れ星が。
その星はどんどん大きくなっていく。
望遠鏡から顔を離すと流れ星が落ちてくるではないか。
星はまぶしい光とけたたましい音をたてて裏山へ落ちたのだった。
僕は思わず部屋を飛び出し星が落ちた方へむかう。
「なに地震?ヒロ大丈夫?」
心配する母さんをスルーして僕は家を飛び出した。
「この辺のはず」
星が落ちた付近は大きくくぼみ、砂煙があがっている。
所々が焼け焦げていてまさに隕石という感じだった。
「きっと今を逃したら規制されて隕石に近付けなくなるはずだ。」
なんだろう
なくしたはずの夢。諦めたはずの夢。子供のころに夢見てた。あの頃のキラキラした世界。
僕は夢中で隕石へと走った。
隕石の近くまできた。
隕石だと思ったものは隕石でもはなく、ましてや流れ星でもなく明らかに金属で、見たことのない模様や七色の光をはなっていた。
「宇宙船だ。」
直感がそうつげていた。
ガシュー。
大きな音とともに隕石もとい宇宙船が開く。
(宇宙人がのっている。
宇宙人ってどんなのだろう。殺されるのか。
そもそも対話は一般人に許されていない。今なら逃げられる。どうする。)
恐怖はあったが好奇心には勝てなかった。
恐る恐る中を覗きこむと。
「そんな。ばかな。」
そこには見たこともない服をきた女の子がいた。
なにもかもが初めて見るものなのにその顔には見覚えがあった。
それは紛れもなく僕の妹だった。
「愛なわけがない。愛は死んだ。でも紛れもなく愛だ。僕が見間違えるわけがない。」
混乱して頭をかかえていると宇宙人が怪我をしていることに気がついた。
「わからないことだらけだけどこのままにしておけない。家につれてかえろう。」
僕は抜けた腰に力をいれると妹の姿をした宇宙人を抱えて家にもどった。
家には明かりがついていた。
「どこ行ってたの?大きな地震もあったし母さん心配したじゃ、」
「母さんただいま。」
あいさつもそこそこに家にはいるもちろん宇宙人も、
「愛?なん、で」
母さんは驚いていた。
当たり前だ。2年前に死んだ自分の娘が息子に抱えられて帰って来たのだ。
「怪我してるんだ。母さん救急箱を。手当てしながら話すよ。」
宇宙人の怪我は思ったよりも大したこともなくパニックになった母さんを落ち着かせながら話すことも容易だった。
「とにかく宇宙船が落ちてきて中から愛がでてきたんだよ。
僕にもそれしかわからないんだ」
母さんは納得いかないという顔をしていた。
ふと我にかえると今の状況を父さんに電話していた。
どうせ留守電だろうに。
それにしても夜中まで勉強もして今はこれだ。
さすがに眠くなってきて僕も母さんも眠っている宇宙人を見ながら浅い眠りについたのだった。
朝日が部屋に差し込む
「う、う~ん」
懐かしい声に目が覚めた。
「お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんだー。」
謎の宇宙人は僕を兄と呼び飛び付いてきた。
「まてまて」
僕は慌てる。
「待ってくれ、君はいったい?お兄ちゃんってなんなんだよ。」
疑問が次から次えとわいてくる。
「なにって?愛だよ?」
「あ、そーかーいきなり飛び付いたからびっくりしたんだね?」
「そーじゃない!」
「愛は、」
僕は唾を飲み込む。
「愛は死んだんだ。」
「僕がの中3の時に病気で、お前が愛なわけがない。」
僕は興奮して大きな声がでた。
ガチャ
ドアが開く。母さんだ。
「あなたはいったい?本当に愛なの?」
「そうだよ。私は愛だよ。お母さん。」
わ
「愛!!」
母さんは宇宙人を抱き締めてわんわんと泣いた。
母さんは愛が死んでからいつも笑顔でなんだか空回りしてる感じがしててそれが僕は嫌いだった。
でも娘をなくして悲しくない親なんかいない。
僕や父さんを元気つけるためにわざと明るくふるまっていたんだ。
「まってよ母さん。愛なわけないじゃないか。愛は死んだんだよ。」
「でもこの顔にこの声。母さんにはわかるわ。
きっと神様が奇跡をおこしてくれたのよ。」
「そーそー変なお兄ちゃん。んー!そろそろ苦しいよお母さん。」
「愛ちゃんごめんね。」
母はバッと宇宙人から離れると。
「お腹すいたね。愛の好きなホットケーキつくってあげる。」
「ほんと?やったー。ホットケーキ大好きー。」
そういって二人は部屋をでて階段を降りていった。
残された僕はぼーっと立ち尽くすだけだった。
しばらくして1階に降りていく。
「やっと降りてきた。
お兄ちゃんってば二度眠?」
宇宙人は当たり前のように愛の席に座りホットケーキを食べていた。
僕も自分の席に座る。
(こいつはいったいなんなんだ。宇宙人なのは間違いない。目的はなんだ?侵略か?考えてもらちがあかない)。
「お前、本当になんなんだよ?」
「なにって星野愛だよ。星野ヒロの妹でお父さんとお母さんの娘だよ。」
「そんなわけないだろ。愛は死んだんだよ。昨日おかしな宇宙船にのって裏山に落ちてきたお前が愛なわけがないだろ!」
母さんが猫なで声で割ってはいる。
「愛ちゃんおかわりは?」
「食べる~。」
「いい加減にしろよ。母さんもどうかしてる!操られてるのかよ。」
僕は机を叩きそのままの勢いで外に飛び出した。
「変なお兄ちゃん」
外にでるとやっぱり裏山には規制線が貼られテレビ局や野次馬、警察なんかでごった返していた。
「やっぱりすごいことだったんだ。父さんもきてるのかな?」
「父さん!?そうだ父さんに聞けばなにかわかるかも」
父さんは宇宙開発研究所といつ施設で所長をしている。
宇宙で使える技術や医学などの研究をしている場所だ。
急いで電話を掛けるがやはりつながらない。
父さんは愛が死んでから人が変わったように仕事人間になってしまい、家に帰ってこない日もおおくなった。
電話にでないというのはもはや当たり前になっていた。
「くそ。すいません。」
人混みをかきわけながら規制線の前までいくが関係者以外立ち入り禁止の一点張りで話を取り合ってもくれなかった。
「しかたない。本社にいくか。」
父さんの職場へは電車で一駅のところだ。
子供の頃によく愛と二人で行ったものだ。
「すいません。星野宗一郎を呼んでいただけませんか?僕息子で緊急なんですけど電話にもでなくて。」
「少々お待ち下さい。」
受付嬢が電話でなにやら聞いている。
「すいません。星野なのですがただいま外出しておりまして。何時に戻るかもわからないそうです。」
(父さんなにやってるんだよ。)
「そうですか。じゃあ伝言をお願いしてもいいですか?
愛が帰って来た。とよろしくお願します。」
すこし苛立った口調でつげ僕はその場をあとにした。
「なんだよ、やっぱり現場にいたんじゃないか。すこしくらい家族の心配しろよな。」
家に帰るとと宇宙人は普通に母さんとお茶をしていた。
「あ、お兄ちゃんおかえり。」
「兄ちゃんじゃない。」
相変わらず馴れ馴れしい宇宙人に僕は少しあきれつつ言った。
「ヒロ、愛にちょっと冷たすぎるんじゃない?」
「だから愛じゃないっていってるだろ!!」
そういい放つと僕は自分の部屋へと逃げた。
部屋に入ると押し入れから段ボールを引っ張り出して中をあける。
アルバムだ。
(あいつが愛なわけがない。)
昔のアルバムには元気に笑う妹の姿。
夏の川遊び。父さんの職場へ行った時の写真。二人で望遠鏡をのぞきあった時の写真。
涙で周囲が滲んできたその時。
コンコン。ドアのノックの後直ぐにドアが開いた。
「お兄ちゃん?なにかあったの?」
「なにかって、」
僕はあわてて涙で滲んだ目をこっそりと拭った。
「あーその写真。なつかしい。」
「お兄ちゃんがこの小さいお花を愛にくれたんだよね。」
宇宙人は僕の見ていたアルバムを覗き込むとそう言った。
写真は小さい頃に裏山にピクニックに行ったときの写真だった。
野原に咲いたアヤメの花が愛に似合うと思ってプレゼントした時の写真だった。
「なんだでお前がこの時のこと知ってるんだよ。」
「なんでって言われても、お兄ちゃんこのあと川に落ちて次の日風邪ひいちゃったんだよね。」
(なんなんだ?やっぱり、こいつは愛なのか?
愛しか知らないことをなんでこいつが。)
ピンポーン
僕はビクッと体を震わせた。
インターホンがなったのだ。
(こんな時間にいったい誰だ。)
僕は部屋に宇宙人を一人残し玄関へと向かった。
僕が階段から降りる途中で
「はーい。」
と母さんがドアを開けた。
そこには全身を白い防護服を着た人がが五人ほどいた。
「こんばんは我々は宇宙科学研究所の者です。星野さん、昨夜の隕石のことで家宅捜索許可書がでています。上がらせていただきます。」
「ちょっと急になんなんですか。
勝手にあがらないでください。警察よびますよ。」
母さんの制止もきかず男達が土足で家にあがってくる。
「母さん」
母さんの所へ行こうとする僕の前に偉そうな奴が登場してこう言った。
「星野ヒロさん。昨日から未確認生命体を保護していますね。
すぐにこちらにひきわたしてもらう。」
部屋に居たはずの宇宙人がいつの間にか僕の後ろに居た。
「対象を発見。つれていけ!」
宇宙人が僕のシャツの裾をつかむ。
「いや!ママ、お兄ちゃん助けて」
母さんは宇宙人がつれていかれるのをなんとか阻止しようともがいていた。
でも大勢の男には全く歯が立たなかった。
僕は宇宙人が連れていかれるのを黙って見ていただけだった。
研究所の人が無理やりに宇宙人を連れていったため玄関や階段は泥だらけだった。
母さんは力なくうずくまり涙を流した。
「あの子は愛よ。私にはわかる。母親だもの。」
「お兄ちゃんたすけて。」
あいつの言葉が頭を駆け巡る。
妹じゃないはずなのに、妹の声で。
「俺、いってくるよ。」
兄貴だから。
とっさにそう思った。
(何でだろうなにか思い出した気がする)
(あいつが連れていかれたのはやっぱりあそこしかない。)
僕はまたしても父の仕事場である宇宙開発研究所へと走りだした。
研究所に着いたのはもう日も暮れ夜だった。
警備員だけではなく見慣れない警官たちも沢山いて物々しい雰囲気だった。
僕は少し躊躇したが正面から行くことにした。
門まで行くと警備の男達に囲まれてしまった。
「星野ヒロと申します。星野宗一郎の息子です。通してください。」
「ただ今緊急閉鎖を行っているため誰も立ち入る事はできません。
お引き取りください。」
僕が父の名を出しても緊急だと話しても警備員達は通してくれなかった。
「父さん、父さんいるんだろ?」
「なんなんだ君は。」
どうしても通してくれない警備の達にイライラした僕は力ずくで門を越えようとしたが勉強ばっかりして文系の僕はすぐに警備員に取り押さえられた。
「はなせ、僕は父さんに話があるんだ。」
僕がもがいていると門の上に備え付けてあるスピーカーから父さんの声が聞こえてきた。
「通していい。離してやれ」
「エレベーターで六階にあがってこい。」
僕はは警備員の手を振り払うと門を通してもらった。
言われるがままエレベーターに乗り。
六階につき扉が開く。
「父さん、」
「ヒロ久しぶりだな。」
扉が開くと父さんが立っていた。
「あいつは?どこ?」
久しぶりに父さんに会ったと言うのに僕は挨拶もせずに話をきりだした。
父さんはふぅとため息をついて。ついてこいといった。
病室のようなとこでヘットギアや点滴、心電図などいろいろな機械をつけられてあいつはいた。
その姿に呆気にとられる僕を尻目に父さんは語り始めた。
「お前には話していなかったことがある。
実は愛は死ぬ前にもう一度宇宙へメッセージを送くっていたんだ。」
「なんだってもう一度っていったいなにを送ったっていうんだ。」
「それを今からたしかめる。
愛はその内容を誰にも言わずに死んでしまった。
私はそれがいったいなんだったのか知りたい。知らなければならないのだ。」
「それにこいつがなんの関係があるんだよ」
「わからないのか?
この地球外生命体は愛の姿をしている。
しかも愛が死んだ時の姿のままだ。
愛の二度目のメッセージを受け取ったに違いない。」
「私は愛が死んだ後に愛の部屋にある日記で二度目のメッセージを宇宙へ送ったことを知った。
なぜこの地球外生命体は死んだ時の愛の姿をしているのか。
なぜ地球に来たのか。
そしてなぜ家の近くへ着陸したのか。
私は所長として。愛の父親としてなんとしてでもこの地球外生命体のことを調べねばならんのだ。」
いつにもなく熱のはいったことだ。
父さんのこんな姿は愛が死んでからは見ることもなかった。
その時、けたたましい音をたてて機械がなった。
「危険です。これ以上脳スキャンをすると被験体が死亡してしまいます。」
記憶を無理やりスキャンしたせいか心拍上昇し体が痙攣し始めていた。
「構わん。データさえとれればすこしぐらい無理をしてもいい。」
「やめろよ。自分の娘にこんなことして正気じゃない。」
「娘ではない!こいつは地球外生命体だ。人間ですらない!こいつのもつ記憶データが必要なんだ!」
「このわからずや!こんなことしても愛はよろこばない!」
ヒロは無理やりに宇宙人を装置から引きはなそうとする。
「やめろ。
そいつには愛の、娘の最後のメッセージが隠されているんだ。」
僕は父さんをつき飛ばす。
「思い出したんだ。昔約束したこと。宇宙へメッセージを飛ばしたとき守るって。」
父さん以外の研究者たちはその様を黙ってみていた。
「おい。おい。しっかりしろ。」
宇宙人がゆっくりと目を開く。
「お、兄ちゃん」
「逃げるぞ。おぶされ」
僕は宇宙人を背負うと走り出す。
「まて、止まれ。」
制止しようとする父さんに職員がいう。
「所長。記憶データが、勝手に再生されています。いますぐに見ないと。」
「なに?」
父さんは急いでモニターの前へ。
僕らはその隙をみて病室を飛び出した。
モニターに写ったのは病室のベットで横たわり痩せこけていたが娘の姿だった。
「もしもーし。きこえますか?
10年前にメッセージを送った星野愛です。覚えてる?
このメッセージなんだか届いてると思うんだよね。
実は私もうすぐ死ぬんです。
死ぬのは怖いけどそれよりも家族のことが心配なんだよね。
昔にもメッセージをおくったの覚えてる?
一緒に写っていたのがお兄ちゃん。
お兄ちゃんはね、優しいくて面白くて頭よくて運動もできてとっても格好いいんだよ。
妹じゃなきゃ彼女になれるのにって何度も思ってた。
いつも私の味方でいてくれて宇宙の事を話すお兄ちゃんの目はいつもキラキラ輝いていたなぁ。
でも私が病気になってからはなんだか難しい本を沢山読むようになったってお母さんが言ってたなぁ。
そうそうお母さんって言えばね。
昔クリスマスにクリームシチューを一緒に作ったんだけどお母さんってば砂糖をどばっていれちゃってスッゴい甘いシチューになったことがあってね。
お兄ちゃんとお父さんが美味しい美味しいって眉毛をピクピクさせながら食べてたんだよね。
あれ不味かったんだと思うなぁ。
でも二人とも優しいから不味くても美味しいって食べてくれたんだよね。
懐かしいなぁ。
最後にもしこのメッセージが届いてるなら地球に来て私の代わりに家族事を見守ってほしいの。
このメッセージといっしょに私の闘病生活で使っていた記憶デバイスをおくります。
特にお父さんとお兄ちゃんをよろしくね。
お父さんとお兄ちゃんは私がいないとだめなんだから。
じゃあ、ばいばい。」
「データは以上みたいです。
申し訳ございません突然の事でバックアップできませんでした。所長?」
父の目にはうっすらと涙が滲んでいた。
その頃二人はあと少しで出口という所まできていた。
「ねぇ、なんで?なんであんなに嫌ってたのになんで助けにきてくれたの?」
「アルバムを見てて思い出しんだ。」
過去の思い出がよみがえる。
昔の僕だ。
小さい僕と妹の愛が父さんにビデオを撮ってもらっていた。
「あーあー聞こえますかー。」
「ますかー。」
「こちらは地球。星野ヒロです。」
「愛です。」
「宇宙人さん。見えてますか?・・・」」
「僕は宇宙がとっても大好きです。」
「愛もー。愛は、愛はお兄ちゃん大好き。」
二人は仲良くくっついていて満面の笑顔だ。
「もしこのメッセージが届いてれば家にきてください。僕の弟にしてあげる。」
「ずるーい。お兄ちゃんだけー愛は妹がほしいの~。」
「心配するな。弟でも妹でも愛と一緒にお兄ちゃんが守ってあげるから。」
昔の想い出だ。宇宙へ飛ばして忘れていた思い出だ。
「お兄ちゃん?何を思い出したの?」
宇宙人が不思議そうに顔を覗き込んだ。
「だからお兄ちゃんじゃないって言ったろ。
それにお前も愛じゃない。
だけど、
お前も僕の大切な妹だ。
だから守る!
だからお前も愛の代わりになんてなるな。
たとえ記憶や顔が同じでもお前はお前で愛とは違う存在なんだから。」
「うん。」
背中をぎゅっと捕まれる感じがして心が暖かくなった気がした。
あとは正面の警備をとっぱするだけだ。
ここからが正念場だ。
僕は覚悟を決めて正面突破しようとしたその時。
ガーッ
館内放送から父さんの声が流れてきた。
「全職員につぐ。少年を通してやれ。責任は私がとる。
繰り返す。少年を通してやれ。」
「父さん?。」
マイクの前で話す父に研究員が話しかける。
「貴重な被験体なのによろしいのですか?」
「いい。今はこれでな。どうせ居場所はわかる
当分はこれで様子を見てみよう。」
僕はあまりにあっけなく通してもらい呆気にとられていた。
安心感と疲労感でどっと疲れがでた。
落ち着いて考えてみると我ながら大胆なことをした。
警備が万全なビルに一人で準備なく飛び込み人質を解放し無事に帰って来たのだ。
「お兄ちゃん?考え事?」
その声にハッと我にかえる。
「うん。やっぱり名前がないとなって。
お前元々の名前ってないのか?」
「うーん、元々の名前って言われても愛ってことしかわからないんだよね。」
「なんだよそれ。記憶喪失か。」
「そんなようなものかな。じゃあお兄ちゃんがつけてよ。愛って呼ぶの嫌なんでしょ。」
「まぁ、嫌ってわけじゃないんだけど。」
僕はすこし考えた。
背中でうきうきしながらまっている妹の姿をしたこいつにどんな名前をつけてあげられるだろうか。
「そうだ。アイリス。」
「アイリス?」
「そう。お前は愛じゃない。でも愛でもある。そして僕の妹だ。昔アヤメの花をプレゼントしたろ。それを押し花のしおりにして愛は宇宙に飛ばしたんだ。
憶えてないか?
でもお前は宇宙人だからアヤメじゃなくて英語名のアイリス。
よくない?」
「しおり、アイリス、うん。いい名前。気に入った。
外人さんみたいだし格好いいかも。」
そういって宇宙人、いやアイリスは笑った。
「ありがとうお兄ちゃん」
「だから兄ちゃんって呼ぶなよな。」
「じゃあヒロ。」
「呼び捨てかよ!」
「ありますがとう。ヒロ。」
二人は笑いながら家へ帰った。
おわり
エピローグ
終電を逃した僕らは暗くなった道をゆっくりと歩いていた。
すっかり元気になったアイリスは鼻歌まじりで僕の横を歩いている。
「ほんととんでもない目にあったなぁ」
「そう?私は楽しかったよ。」
「あんなことされたのに?」
「うーん、怖かったってのもあるけどヒロが助けにきてくれたから。」
そう言うとアイリスはニコッと笑った。
僕はその笑顔にちょっとだけドキッとしてしまいあわてて話題をそらした。
「ほら、もうすぐ家だ。あれ、こんな夜中なのに玄関に明かりがついてる。」
「ただいまー。母さんもうねてる?」
玄関をあけて少し大きめな声で話す。
奥から母さんが早足でかけてくる。
「ただいま母さん。
ぶじつれて帰ったよ。」
今日の出来事を誇らしげに報告する僕をスルーして母さんは後ろにいたアイリスに抱きついた。
「愛。
心配したんだから。
大丈夫?怪我してない。この指なん本?」
「お母さん苦しいよ。」
「俺にはなんにもなしかよ。」
「大丈夫。ヒロが助けにきてくれたから。」
「ヒロ?」
「うん。ヒロ。」
「あのね。ヒロがお前は俺の妹にしとくにはもったいない。一人の女として見ていきたい。だから名前もアイリスとなのれ。っていわれちゃったの。きゃー」
「まぁ愛ちゃんがいいなら。それに昔からお兄ちゃん大好きだったからよかったね。」
「そう。いきなりプロポーズされちゃった。」
「ばか全然そんなこといってないだろ。
それにこれからは愛って呼ぶなよ母さん」
「そんなこといわれてもねぇ。どっちみち藍ちゃんにはかわらないわよねぇ」
「ねぇー」
「ホントにこの母親は。」
僕は一緒に笑う二人を見てなんだかやっと自分の家に帰ってこられたんだと実感したのだった。