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6話 うちの弟が怪しすぎるのだが…【sideイールド】

 ここはカルフェ王立魔法学園の校舎内にある、応接室に当たる一室。

 その応接室を間借りして俺が今対面しているのは、他でもない我が弟セルことエキセルソだった。


「それでセル、俺が何故ここに呼び出したか分かるか?」


 俺は重々しく問いかけた。


「やはり僕の婚約者が美しすぎるからでしょうか……それでイールド兄上は僕に嫉妬して、ついにその仲を切り裂こうと」

「全然違う!! あくまでシラを切るつもりなのだな……?」

「いえ、本当に心当たりがないので困っているだけですよ?」


 セルはわざとらしい仕草で、左右に首を振ると大きなため息をつく。そのうえで更にはこんなことをのたまった。


「僕はこれから愛しのラテーナと過ごす予定だったのに、なんて迷惑なことか……」


 ぐっ、ため息をつきたいのはコチラだと言うのに!!


「あのな、そのお前が今ラテーナ嬢と過ごそうとしていた時間は、本来なら学園の入学式があったはずの時間なの理解しているのか?」

「はい、確かにそうですね。非常に残念なことに中止になりましたが、これにはラテーナも悲しんでおりました。僕はそれを慰めようとお茶とお菓子を用意して……」

「後半部分はどうでもいい。重要なのは入学式が中止になったこと、その一点のみだ」

「ほぅ? それならそうと言ってくださいよ兄上、回りくどいではありませんか」

「…………」


 自分も直球に聞けるものなら、そうしたいのだが!?

 ああ、まずい。セルのペースに乗せられるな……落ち着け自分。


「先刻、学園の校門前に野生の魔獣が出たことは、当然お前も知っているだろう?」

「はい、もちろん。入学式が中止になった原因ですからね」

「それに関連して、お前が数日前に 《過去に起きた学園の事件及び事故の記録》と更には今回出没した 《魔獣の生態及び生息地》について調べてたことがあったらしいな……これは単なる偶然か?」

「おや、兄上はよくそのようなことをご存じで」

「お前が先日中庭で会ったときに、あまりに不穏なことを口にしていたからな……念の為に調べておいたんだ。で、実際はどうなんだ?」


 問い詰める意味も込めて、やや睨み付けるように聞く。すると我が弟エキセルソは笑顔でこう答えた。


「はい、もちろん偶然の出来事ですよ」


 う、嘘くさい!! いや、ここまで嘘くさい笑顔が存在するものなのか……。


「オマケにお前は今日、わざわざ正門では無く裏門へ回ったそうではないか。あまりにタイミングが良すぎるのでは無いのか……なぜ、わざわざそんなことをした?」


 そう、弟の行動は流石に不自然すぎるのだ。

 最早これから起きることを、初めから知っていたようにしか思えないほどに……。


 セルのやつもここまで言えば、さすがに何かしらの反応を示すだろうと思うのだが……何となく嫌な予感がするのは、何故だろうか。


「そんなの決まっているではありませんか。全てはラテーナの身の安全のためです」

「…………それは、自分が仕組んだことだと認める発言と取ってもよいのか?

「いえ、違います。兄上は何を仰っているのですか?」

「お前こそ、今の発言を堂々と胸を張って言えたのか理解出来んぞ」

「堂々と言える内容だから堂々と言ったまでです」


 うん、頭が痛くなってきたな……。


「では、ラテーナのためというのはなんだ?」

「もちろん、我が愛しの美しき婚約者ラテーナを、むやみに人の目に晒さないためという理由も一つありますが……」


 よし、ここではまだ突っ込まない……突っ込まないぞ……。


「兄上が先程仰った 《過去に起きた学園の事件及び事故の記録》の話があったではありませんか?」

「ああ……」

「そこから過去に学園へ、野生の魔獣が迷い込んだ事例があったと知りました。そこで、また万が一にもそんなことが起こる可能性を憂慮いたしまして、少しでもラテーナの身を守りやすい、人の少ない裏門から学校に入る方法を取ったというわけです」

「まさか、お前はそんな言い訳が通ると思っているのか?」

「はい、僕はいつも言っているではありませんか。ラテーナを守るためならどんな手段でも使うと……それならば学園に入学するに際して、出来る限りの危険要素を先に調べ上げ、ラテーナを守ろうとするのは僕にとって当然のおこないです」

「…………」


 詭弁だ……どう考えても無茶苦茶を言っている……。そのはずなのに、普段のセルの行動を鑑みると筋が通ってしまって一切否定できない……!!

 確かに俺自身、コイツならばやりかねないとある種納得出来てしまう!!

 ここまで露骨に怪しいのに……くっっ!!


「兄上、これで僕の行動の理由にご納得頂けたでしょうか?」


 念を押すかのように、セルは俺にそう聞いてくる。

 俺の今の考えを分かった上でそうしているのだろう……まったく、なんとも性格が悪い。

 少し考えたのち、俺はセルに対してこう問いかけた。


「……全てはラテーナ嬢のためなんだな?」

「もちろん、僕の全ては彼女のためにありますので」


 即答か……まぁ、そもそもセルはラテーナ嬢絡みの案件以外では、極めて理性的で無茶なんてしないからな。当然、答えはそうなるだろうが……。

 相変わらず不自然なまでの笑顔のままのセルに、俺は自分の顔を手で押さえて、ため息交じりに言った。


「セル、お前のラテーナ嬢を大切に思う気持ちはよく分かっているつもりだ。……だが度の過ぎた行いは容認できないし、いざという時お前を庇えなくなる。くれぐれも無謀なマネはしてくれるなよ?」


 もう既に手遅れなのではないかと、思わないでもないが……まぁ、言わないよりはマシだろう。


「もちろん、大切なラテーナのためにも絶対に無謀なことなんてしませんとも…………そう、事を起こすときは完璧でなくては」

「……」


 最後の一言が不穏極まりないのだが!? その完璧の意味……あまり考えたくはないな。


「はぁ……では、俺はそろそろ別の公務があるのでここを出る」

「はい、いってらっしゃいませ。僕とラテーナの過ごす時間に割って入ってまで、学園の事件について話を聞きにきた、兄上の真面目さは決して忘れません」

「その部分、まだ根に持ってたんだな……」

「根に持っていたなんて、そんな、話の最中ずっとラテーナに会いたいと思っていただけですよ?」

「分かった分かった、俺が悪かった!! これからの学園生活、思う存分婚約者とイチャついてくれ」

「ええ、もちろん……そして兄上は、もうなるべく会いに来ないでくれると助かります」

「ああ、俺もなるべく来る必要がないことを祈ってるよ……」


 何かと疲れる弟との会話をようやく終わらせて、学園から出ようと通路を歩いていたところで、ふとあることを思い出した。


「そう言えば、セルにあの件について伝え忘れてたな……」


 内容が内容だけに、本当なら先程顔を合わせたときに伝えようと思っていたのだが……うっかりしていた。

 まぁ、学園内は外と切り離されていて他より安全なはずだから、また来る機会がある時にでも伝えれば良いだろう。


 いや、でも、セル自身の存在のせいで一気に安全性について、不安が出てきたのだが……たぶん、きっと大丈夫なはず。だと思いたい。

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