エピローグ ミルフィちゃんの苦労は終わらない!?【sideミルフィ】
【時はエキセルソとミルフィが別れた直後まで遡る】
エキセルソと別れた後、私は何故か馬車に乗せられた。特に説明もないまま走り出した馬車は、以前私が軟禁されていた例の立派な屋敷に辿り着く。
そうしていつか見た気がする応接室に通されると、馬車に乗ってから今に至るまでほぼ黙っていたジミーが重々しい口調でこう口にした。
「実は今まで君に隠していたことがあるんだ……」
「……」
「僕の本当の名はカルロス・ティ・エルブイア、本当はエルブイア帝国の皇太子なんだ」
「へぇー」
うん、知らないけど知ってた。というか、なんとなく大体察しがついていたわ。
「なんか君、反応が薄くない」
「いや、なんとなく身分を隠してそうな気がしてたから」
「でも皇太子は流石に驚かない?」
「節々で謎に偉そうだったし、妙に納得したわ」
相変わらず地味な茶髪と眼鏡姿のジミーは、やや考え込んだ後ポツリと呟いた。
「つまり、僕の高貴なオーラはこの程度の変装では防げなかったということか」
この男、自分への自信が凄いな……。
「しかしそれはそれとして、その変装の仕組みはどうなってるのかは気になるわね……やっぱり眼鏡に秘密が?」
「そういえば、君は前も僕の眼鏡を気にしてたよね? それならいいよ、今ここでこの眼鏡を取っても」
「え!? いいの」
「もちろんだよ、君は僕の婚約者だしね」
「それについてはまだ承諾してないからね?」
勝手な婚約者扱いについてはしっかりと突っ込みを入れつつ、私は緊張しつつそっと彼の眼鏡を取った。
…………あれ、なにも変わらない?
「残念~ そっちは外れで正解は左耳に付いけているピアスの方でした!!」
そう言いながらジミーが左耳のピアスに手をかけて外す。すると一瞬まばゆい光に包まれた後、銀髪に金眼の超絶イケメン姿のジミーもといカルロスになったのであった。
うっ光が収まってもまだ眩しい!!
「えー、もしかして眼鏡の方が魔法道具だと思っちゃった? いやいや、うっかり外れちゃった時とかマズいでしょ~」
そしてウザい!! 眼鏡の件をひたすら煽ってくるのがクソウザい!!
「っっ、それなら眼鏡を外す外さないの賭けの件はなんだったのよ?」
「君がやけに眼鏡を気にかけているようだから、からかおうと思って……つい」
「はぁ!? それなら賭け自体が無効じゃないの!!」
あそこまでもったいぶっておいて、眼鏡になんにもないなんて酷い詐欺じゃないの……!?
「いや……でも賭けは、君に眼鏡を外して良いといった僕の負けかな」
「え……本当?」
「うん、だから景品も君にあげるよ」
ま、まぁそれならワンチャン許してやってもいいかしら。
「ちなみに景品ってなんなの?」
「ふふ、なんとなんと……我がエルブイア帝国の皇太子妃の位だ!!」
「無効試合にしましょう」
「あ、この決定への異議申し立てと、景品の受け取り拒否は認めないから」
そんな言葉と共にジミーはイケメンフェイスでウィンクをした。
こ、コイツぅ……!!
「そもそも私みたいな身分の低い令嬢と、未来の皇帝たる皇太子の結婚はおかしくないかしら!? 私は男爵令嬢よ!!」
「お、ちょっとだけ鋭いかも」
「ちょっとって何よ!! どう考えても正論でしょ」
「普通ならね……でも君には先のクーデターでの活躍の実績と、この国の王家からの推薦も取り付けてあるから問題ないよ」
勝手に推薦するな!! くっっ、まんまゲーム上で使われていた名目を流用してきたわね……。
そう、このゲームの主人公の身分が低いのにも関わらず、王族や高位貴族の子息と結ばれることができる一番の理由。それは他でもない、クリアするには必ずクーデターを防ぐ必要があるからだ。そのお陰で、どのルートでも最後まで辿り着いた主人公は救国の英雄扱いなのだ。
本来はハッピーエンドへの布石になるそれが、今の私には、ただ邪魔な存在でしかない訳だけどね……。
「まぁ、それがなかったとしても適当に名目を用意するくらいしたけどね」
……なんか今、小声で凄い嫌な台詞が聞こえてきたんだけど。気のせいかしら……気のせいよね???
「と、いうわけで、僕と婚約して皇太子妃になってよ。拒否する権利はないけども」
「それって、もはや聞く意味がなくない?」
拒否できない時点で、私に出来ることなんてないじゃん。まぁ当然拒否するけど。
「でも、なんでそんなに僕との婚約を嫌がるのかな。もしかして僕のことが嫌いなの?」
「別にそうではないけど」
「だよねー」
……妙に自信満々なのがムカつくわね、嘘でも嫌いと言えば良かったかしら。
「それならなんで?」
「学園をちゃんと卒業したいし、いきなり帝国に行くっていうのも嫌だから……って、待って、勝手に退学の話を進めた件をまだ謝ってもらってないんだけど!?」
「あ、確かに……じゃあ約束だし謝るよ」
すると彼は私の前まで来ると、跪いて私の手を取ったのであった。
「どうか……どうか、この私の愛ゆえの先走った行動をお許しください」
ひしと私の手を握りながら、真剣かつ切なげな表情でそう口にする物凄いイケメン。顔面の火力が凄いぞ、この表情とかどうみても演技だと分かるのに、段々と胸が苦しくなってきた。
「愛しています心の底から」
「うぅ……」
「つきましてはこのまま我が帝国にお越しになり、私の妻になってくださいましたら、これほどの幸福はございません。是非私と共に帝国に参りましょう」
「は、はぅ…………いや、頷かないからね!?」
「……ああ惜しい気がしたけどダメかぁ」
そう言いつつぺろりと舌を出すジミー。
危ない危ない、雰囲気とイケメン力で無理矢理押し切られるところだった。
「それなら学園の卒業資格だけは、どうにかなるようにこちらで手配しようか」
「え、そんなことできるの?」
「出来るよ、僕の権力を持ってすればね」
「け、権力って……」
「ただしその代わり、帝国にはなるべく早く来てもらうよ!」
「いや、なんでそうなるのよ?」
「……僕の気分かな」
だいぶ、どうしようもない回答が来たぁ!!
「そういうわけで卒業資格は手に入るから、来ようよ帝国に」
「で、でも」
「紅茶好きだよね、うちの紅茶は美味しいよ?」
「それは確かに認めるけども……!!」
「ついでに地位と権力と財産も約束するよ?」
「一気に不穏!!」
仮に私がそれを決め手に着いていったら、物凄い強欲な女になるでしょうが。
というか、そもそもの話——
「散々好きだとは言われてるけど、まともに私の好きな部分とか、聞いたことがないんですけど……」
この言葉は口にするつもりはなかったけど、気づいたらいつのまにか口から零れていたものだった。
「ふーん、なるほどね……」
彼は一瞬意外そうな顔をしたあと、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべながら笑った。
「それならたっぷりと教えてあげるよ」
「いや、別に無理をしなくても……」
「一番は性格かな、お人好しで真面目で努力家なところが好き」
「ぇ……」
「それと楽しそうなときにキラキラと輝くあの目に、笑顔、あと声に、眼の色、この髪も——」
こちらへ慈しむような優しい目を向けながら、彼は私の髪のひと房を手に取りそこへ口づけをした。
「そう、君の全てが愛おしくてたまらないんだ」
「っ」
「これでどうかな?」
一気に顔が熱くなって目も合わせていられなくなった私は、咄嗟に横を向くが、すかさずそこにこの男は回り込んでくる。
「やっぱりまだまだ聞きたい?」
「も、もう、分かったわよ!!」
「なら一緒に帝国に来てくれる?」
「い、行くわよ何処だって、だからもうちょっと離れて!!」
「あとから取り消しはダメだからね」
「はいはい、分かった分かったー!! だからその距離感をどうにかして!!」
◇
ああ、あの時に羞恥心から勢いで返事をしてしまったことで、無事に私の帝国行きが決まってしまった……。
あれから一週間が経過した。私はバタバタと旅立ちの準備をしながら過ごすこととなり、ロクに皆との別れもできないまま、出発の馬車に乗ることとなった。
なんで私はこんな風に、皇太子の婚約者 (仮)になってしまったのだろうか。一体どこで間違ったのだろうか。そんなことが頭の中でぐるぐると回って、度々溜息をつくこととなった。
でも約束は約束だし守らないとね。さよなら我が故郷カルフェ王国。
「急な出立になっちゃってゴメンね」
「ええ、本当にそうね」
もはや隠す必要がないからか、初めから銀髪金眼のキラキライケメン姿のジミー、じゃなくてカルロスが声を掛けてくる。
向こうでうっかりジミーなんて呼んだら大変だから、これからは気を付けないとね。そう、彼はカルロス、彼はカルロス、彼はカルロス。
「その分、あっちについたら苦労させないようにするから安心してね」
「期待してるわ……」
しかしエルブイア帝国か、向こうはゲームに登場しないから情報がないのよね。
なんの問題もないといいけど。
そう考えていると、脳内にとある文言がポップアップしてきた。
——特報、次回作の舞台はなんと紅茶帝国!?
次回作の舞台……次回作の舞台ですって!?
その瞬間、次回作の告知情報が次々と脳内を駆け巡った。
あ、そうだ、思い出した……紅茶帝国の話は、私がプレイできなかった次回作の内容なんだ。
そして今までジミー、いや皇太子カルロスのことが分からないのも今納得できた。
彼は一作目じゃなくて、二作目のキャラなんだ。そういえば告知で、チラッとビジュアルを見た覚えがあるかもしれない。
…………待って、せっかくカルフェ王国の問題を解決したのに、これから問題が起こりかねないエルブイア帝国に行かなきゃいけないの?
それも皇太子の婚約とかいう、どうみてもトラブルに巻き込まれることが確定したポジションで????
「ね、ねぇジ、じゃなくてカルロス」
「なんだい我が婚約者ミルフィ」
彼は私が婚約者に決まると、迷わず私の名前を呼び捨てにするようになった。ついでに名前を呼ぶ際は、事あるごとに婚約者であることを強調するのも欠かさない。コイツは一体なんなのだろうか。いや、今はそれどころじゃないけども。
「念のために聞くけども、帝国って別に大きな問題を抱えたりしてないよね?」
「あー……詳しくは後々話すけど、たぶんなんとかなるから大丈夫だよ」
「……」
ぜ、絶対にすぐにはなんとかならないやつぅ!?
ああ、私はゲームに振り回されつづける運命なのかしら。
だ、誰か私を助けてぇ……私のハッピーエンドはいずこに。
「とにかく君を連れて帰るのが楽しみだよ」
「そう……」
嬉しそうな笑みを浮かべる婚約者 (仮)に私は曖昧な笑みを返して、静かに空を仰ぎ見たのだった。
とりあえずは、まぁカルロスが幸せそうだからいいか。問題は……起こってから考えましょう。
うんうん、ネガティブになるなんて良くなかったわ。新天地でも精一杯頑張るぞ!!
ミルフィちゃんは負けないんだから!! おー!!
最後までお読みいただきありがとうございました!!
本作はこのエピローグを持って一旦完結となります。読者の皆様の☆☆☆☆☆やご反応などなど、大変励みになりました。
最初から完結まで書ききっている作品を投稿するのは今回が初めてでしたが、これはこれで作者側も安心感があり楽しかったです。また気が向いた別の作品も覗いて頂けると嬉しいです。




