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52話 決着!!してもやっぱりそこはミルフィちゃん【sideミルフィ】

「させるかぁーー!!」


 そう言って私は愛用のメイスをぶん投げた。狙いはもちろん遺物の目前にまで迫り、手を伸ばすカネフォーラだ。


「っっ!?」


 一か八かで投げたメイスだったが、なんともう少しで起動スイッチに届くはずだったその手に命中した。

 や、やった、ミルフィちゃんってば天才じゃない!? いやー、ダンジョン攻略の際に投擲武器を練習してきた甲斐があったわね。あの斧とはまた勝手が少し違うものの、努力は無駄ではなかったんだわ……。


 カネフォーラが一瞬動きを止める。と、後を追っていたゴライアス先輩たちが、その隙をついてカネフォーラを床に押さえつけ制圧した。


「クソッ!!」


 あ、これは刑事ドラマとかでよくあるやつだ!! まぁそれとは違って、なんか四人くらいで押さえつける感じになってるけども……。

 四人というは過剰に押さえつけているわけではなく。最初に抑え込んだゴライアス先輩一人だと、まだ全然不足していて、そこで二人が素早くサポートに入ったもののまだ抵抗があり、更にもう一人が追加されたという流れである。この間約五秒ほどの出来事でした。

 なるほどね、最強つよつよラスボスは、鍛えた男性四人程度はいないと上から抑えるのすら難しいのかぁ。

 いや、怖すぎるでしょ!! 一応人間のはずなのに何なのよこのパワーは……憎悪? これが激しい憎しみの力なの??


 そんなくだらないことを考えつつ、私を含めた残りの全員が、押さえつけられたカネフォーラの元へと集まる。その間に流石のカネフォーラも抵抗を諦めたのか。押さえつけられたまま、動きを止めて目を伏せていた。


「カネフォーラ様……」


 そうして一番最初に声を掛けたのは、先程まで自分の命を賭けると言ってまでカネフォーラの説得を試みていたラテーナさんだった。


「……せ」

「え?」

「殺せと言ったのだ。それで終わりだ」


 カネフォーラのそんな言葉は、静まり返ったこの空間によく響いた。


「そ、そんな……!? ダメですよ、そんなことは!!」

「ならば俺を生かすのか? もし仮にそうするならば、俺は何度でも王や王太子の命を狙うぞ」


 そう言って笑うカネフォーラに、ラテーナさんは悲し気な表情を浮かべる。


「そういうわけだ、さっさと反乱軍の首魁(しゅかい)を始末すればいい。大量破壊兵器がないとはいえ、ゆっくりしていると上での騒ぎの被害者も増える一方だぞ」


 ああ、そういえば上でテロも起こってるんだったわね……一連の戦いがだいぶ濃くて、忘れかけてたわ。

 しかしこの期に及んで被害者の話をするなんて。やっぱり先程のラテーナさんの話通り、カネフォーラは余計な犠牲を出したくないみたいね。

 そう言われてみれば、私がさっき治療した騎士たちも重症ではあるものの、即死しているものは一人も居なかった。

 カネフォーラの技量を考えれば不自然だと思ったけど……アレもわざと加減していたのね。


 本当に面倒くさい男。でもこの気質は使えるかもしれないわね。

 私はそう考えて、カネフォーラの前へと歩み出た。


「ねぇ、カネフォーラ。わざわざ死に急ぐ必要はないんじゃない」

「なんだと小娘」

「アンタがおとなしく拘束されて、多少なりともコチラの意思も汲み取ってくれるというなら。反乱軍のお仲間に対して、ある程度の減刑するって言ったらどうする?」


 その瞬間、カネフォーラの表情が露骨に変わった。

 ほら、やっぱりそうだ。さっきラテーナさんが言ってた通り、反乱軍の仲間をなるべく殺さないためにここから遠ざけたのなら、この話にも絶対食いつくと思ったわ。

 だって、本来叛逆罪は極刑(死刑)のみだものね。コイツの性格を考えるとできることなら助けたいと思ってしまうはずよね?

 ただ問題は私は試しに言ってみただけで、なんの決定権もないっていうことなんだけども……。


「……だが、貴様にはなんの権限もないだろうが」


 案の定、速攻で本人にも看破されてしまいました。ですよねー。


「いや、この俺が保障しよう」


 そう言って私の隣に歩み出て来たのは、他でもない王太子イールドだった。

 え、この話に乗るの!? 私が言い出したことながらに、ちょっと驚きなんだけど。


「…………本気で言っておるのか?」


 当然ながらカネフォーラ自身も疑いの眼差しを向けている。


「ああ、俺は本気だ。俺には二十年前の事件の責がある、今回のクーデター騒ぎだってそのせいだ……だから少しでも彼らに報いれるのであれば、そうしたいんだ」

「……」


 カネフォーラの目は戸惑いに揺れている。きっとそれは仇である国王やイールドに向ける憎しみと、仲間を助けたいという思いの間で、迷っているのだろう。


「ねぇ、カネフォーラ」

「……なんだ小娘」


 それを見ていると私も、もう少しだけ彼に言葉を掛けたくなってしまい口を開いていた。


「私にはアンタの悔しさや怒りが分かるわけじゃないし、今まで抱えてきた苦しさに共感できるとも言えないわ……だけど思うの」

「……」

「もし大切なものを守るためにある未来なら、アンタ自身が今思っているよりも、ずっと悪くないのじゃないかと思うの」

「……」

「それにラテーナさんも、さっき言った通り働きかけてくれるでしょうし。私もできる範囲でなら手を貸す。だからもう少しだけ生きてみない? 今までとは違う形になっても、アンタの大切な人たちに何かしら報いいるために」


 一世一代、私渾身(こんしん)のいい感じの話に、カネフォーラは噴き出すように、ふふっと笑った。……え、そこ笑っちゃうの?


「……まったく生意気なガキだ」


 でも、表情も雰囲気も先程よりだいぶ軟化した気がする。

 なるほどなるほど、意図した反応とは違ったけど、それならそっちの方向性で更にダメ押ししちゃおっかな!!


「それに何よりも、敗者はおとなしく勝者に従うべきだとは思わない?」


 そう言っていたずらっぽく笑うと、カネフォーラは更にくつくつと笑った。

 よし、今度はちゃんと狙ってウケけてる。カネフォーラは勝負事が好きだし、割とこういうこだわりがあるので、絶対刺さると思ったわ……!!


「小娘よ、最後の言葉だけには同意してやる」


 それだけ言うと、一転して真剣な表情になったカネフォーラは更にこう言った。


「貴様たちに無様に負けた以上、言うことを聞いておとなしく捕まってやる。後のことはそちらの好きにしろ」


 その言葉を聞くと、ラテーナさんは感極まった様子で「カネフォーラ様……!!」と言いながら口を抑え、イールドも安堵した様子で胸を撫でおろしていた。


「そうと決まれば……おい、誰か。魔封じ手錠などの拘束具を持ってこい。意気揚々と反乱軍の本拠地に乗り込んできたのだから、流石に持っているのだろう」


 ん、んん……皆さんこの違和感にお気づきだろうか。

 なんとこの指示を出しているのは、王太子のイールドでも、ましてや第二王子のエキセルソでもない。なんとこれから拘束されるはずのカネフォーラ本人である。

 えぇ……なんでぇ?


「あとそちらが許すのであれば、予備で残してある組織内部の通信具を使って、反乱軍に投降を呼びかけてやろう。全員が従うとは限らんが、そうすれば多少なりとも犠牲は少なく済むはずだ」

「わわ……凄い親切ね」

「貴様らの手際が悪いから、代わりに口出ししているだけだ勘違いするな」


 手錠をかけられながら、こんなに偉そうな人間が他にいるだろうか。その手錠をかける指示も本人が出しているという前提まで付くと、完全にコイツ以外にしなさそうな気がするんですけども。


「あと……貴様が最初に言ったのだろうが」

「え?」


 カネフォーラがわざわざこっち見ながら言ってるけど、私なんか言ったっけ。


「誰かを犠牲にしたり傷つけたりするのは許さないとかなんとか……」

「あ、ああー」


 最初にラテーナさんを助ける時に乗り込んだ時のあれかぁ。もう遠い昔のことのようだわ。


「だからなるべく犠牲を少なくしようと思ったのだ……意見を汲んでやったこと感謝しろ」

「それは、どうもありがとうございます……?」

「ふんっ」


 私がお礼を言うとカネフォーラはそっぽを向いてしまった。

 ……なんなのこの人は。


「よし、しっかり拘束具を付けたら、適当な人数の見張りを見繕え、通信具のある場所に行く。くれぐれも拘束対象からは目をそらすなよ」


 その拘束対象は自分なのに真面目すぎる。まるで罪人拘束時の新人研修のようだわ……。

 そんなことを考えていると、いつの間にか必要な人数が集まりカネフォーラは歩き出したが「そうそう」と言って、あるところで止まった。


 するとこちらを振り返ってカネフォーラはこう言った。


「正義の味方の小娘とその仲間、それにご令嬢と甥っ子どもに、ついでに帝国の小倅。おめでとう、貴様らの勝ちだ」


 ……その言葉を聞いた瞬間、改めてラスボスをどうにかしたという感慨が襲ってきた。

 ああ、そうか終わったんだ。ゲームの本来勝利時には、死ぬはずだったカネフォーラも死なないままで。

 ゲームの結末が変わったんだ。


 私が一人でじーんとしているとカネフォーラが更に「あと小娘だけはもう一つ」と言った。

 ん、んんん? いや、綺麗にまとまった風なのにまだ何かあるの?


「もしまた機会があれば、今度こそ本気の一対一の勝負をしような」


 カネフォーラは物凄く、いい笑顔でそう告げた。それはもう、今まで見た中で一番の。

 えー、何を言い出すのかと思えばそんなこと? もしかしてさっき戦わなかったことへの当てつけかな~? まったく、そんなの答えは決まってるじゃない。


「絶対にお断りよ!!」


 何はともあれ、こうしてカルフェ王国最大の危機は去ったのであった。

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