51話 前世からの想いを乗せた説得を【sideラテーナ】
ああ、よかった皆さん止まってくれて……。
先程の言葉で注目を引いたため、その場にいた方々は全員こちらを見ております。
「ラテーナなんでこんな所にいるんだ!!」
「そうだ、ラテーナ嬢ここは危険なんだぞ!?」
「そもそも私が、安全な場所に連れて行くように頼んだはずよねっ!!」
口々にそう言ったのは、セル様にイールド様にミルフィさんでした。
「ごめんなさい、私が無理を言ってここに連れて来てくれるように頼んだのです……」
そう言いながら私は後方にいる、私の頼みを聞いて下さったお二人をチラリと見る。
本当に無茶な頼みだったのに、聞き入れて下さったことには感謝の念しかありません。
「どうしてだ、ラテーナ……!!」
いまだ納得できない様子のセル様は、悲痛にそう叫びます。
「それはどうしてもカネフォーラ様とお話しをしたかったからです」
「なんだって?」
「だから皆さんには申し訳ありませんが、しばし私に時間をくださいませ」
そう言って他の方々に頭を下げる。明らかに困惑しているのが見えなくとも伝わってくるが、ややあってからイールド様の「分かった」という声が聞こえてきて、私はゆっくりと頭を上げた。
「兄上!?」
「……ここは一旦ラテーナ嬢に任せよう」
「イールド様、ありがとうございます」
改めてイールド様にお礼を言うと、時間が惜しい私はそのままカネフォーラ様の方に向き直りました。
先程まではただ夢中で気付きませんでしたが、皆さんが一見してボロボロなのと同様に、カネフォーラ様もまた負傷したようで、腕からダラダラと血を流していました。
それだけでも十分心配ですが、今私がそのようなことを口にしても聞いては下さらないでしょうね……。だから私はそれを敢えて無視して声を掛けました。
「カネフォーラ様とはまだまだ話したいことが沢山ありました。なのに結局あの後、私のところには来てくださいませんでしたね」
「……たまたま忘れていただけだ」
カネフォーラ様は私から目を逸らしながらそう仰られました。それがきっと答えなのでしょう。
次は容赦しないと言ったからこそ、あえて来なかった……。
「やはり、アナタはそういう方なのですね」
「はっ知った風な口を聞くな。貴様に何が分かる」
あからさまに不機嫌そうな表情で、カネフォーラ様はそう言います。
「ええ、沢山考えてもまだハッキリとは分からないんです」
「なに……」
「だから今ここで教えてください、貴方様の本当の望みを」
「……王位だ、俺は玉座が欲しい」
「いえ、それは本心ではないでしょう?」
私がそう問いかけるとカネフォーラ様は、ますます不快そうな顔をされました。しかしその程度で話を止めるわけにはいきません。
「恐らくですが、貴方様が心の底から望んでいらっしゃるのは、二十年前の事件で不当に傷つけられた大切な方々が救われること……そうではありませんか?」
「それは……当然そうだ。だから俺には王位が必要なのだ」
カネフォーラ様はあくまで、そう仰るつもりなのですね……。
ならば、きちんと指摘していかなければなりませんね。目を背けてもなお、行動の節々に滲む彼の本当の心を。
「そういえば、ここにいるのはカネフォーラ様だけですね。他の反乱軍の方たちは一体何処にいらっしゃるのですか……?」
「ここには不要だから他に配置しただけだ、それがどうした」
「私の幽閉場所にも見張りがいませんでした。コチラもアチラも、まるで誰かに来てくれと言わんばかりの手薄さですよね」
そう、その様子は不要だから人がいないというより、あえて人を置かずにいるという方がしっくりくる有様だった。
「本当は誰かくるのを待っていたのではありませんか?」
「…………なぜ俺がそんな馬鹿なことをせねばならんのだ」
「前も言った通り、カネフォーラ様は本心では人を殺したり傷つけたりしたくない。だからこそ、大規模な事を起こす前に止めてくれる誰かを待っていたんですよ。違いますか?」
「そんなわけがないだろう……」
カネフォーラ様は否定しているが、その言葉は先程よりも弱弱しい。まるで自分でも今気付いて、信じられないとでも言いたげな様子です。
「更にここを守るために人を置かなかったのは、最悪何かあっても死ぬのが自分だけで済むようにするためではないのですか?」
「……っ」
「本気で王になるつもりなのであれば、側に人を置いて自分自身も守らせるべきなのにそうはしなかった。それは今でも、カネフォーラ様自身が自分のために誰かが死ぬことを忌諱しているからではありませんか?」
「……黙れ」
口ではそうは言うもののカネフォーラ様の言葉には、もはや今までのような覇気はありませんでした。
もしかしたら今の私の言葉は、彼自身にとっても少なからず衝撃的なものだったのかもしれません。
だからこそ、ここまで来て黙るわけにはいきません。
「カネフォーラ様……貴方様が二十年前の事件で一番許せないのは、きっと自分自身なのではありませんか?」
「……っ!」
「だからこそご自身を蝕み苦しめる感情でも自責の念を、死んでいった方々のために手放すことが出来ない。どれほどそれで苦しむことになったとしても……いえ、きっとご自分を苦しめること自体が罰で、あえてそうしている部分もあるのでしょうね」
「貴様に……貴様に何が分かるっ!!」
私がいよいよ核心に触れたからでしょう。いつも冷静に努めているカネフォーラ様は、らしくもなくそう叫びました。
「分かる……と言える自信はありませんが、これでも長い間カネフォーラ様のことを考えていましたので——」
その長い間というのは、単純に彼にこの世界で出会ってからではなく。つい先程思い出した、前世からの話。
ゲームの中で何度も死んでいく彼へ、ずっとずっと向けていた感情でした。
「私はずっと貴方様のことを救いたかった。それがどれほど難しいことだとしても」
私はゲームの中で絶対に救われることはなかった、カネフォーラが救われることをずっと望んでいた。それはもう切実に痛いほどに。
だけど自分はカネフォーラ様と対面しても、ついさっきまで思い出すことが出来なかった……その理由も、今はなんとなく分かっております。
前世の私は、ゲームで見たカネフォーラ様の存在が、あまりに報われないのが悲しくてやりきれなかったんです。だからこそ生まれ変わってからも長い間、記憶に蓋をしていました。だからこそ、ギリギリまで詳しく思い出すことすらできなかった。
あれほど必死に彼がどんな想いだったかを考えて、どうすれば救われることができるかを考えていたのに……本当に馬鹿ですよね……。
そんな記憶の蓋は、ゲームの主人公でもあるミルフィさんの強さに触発されることでようやく開き、甦りました。それからは機会を得たらどのように彼と対話するか、必死に考えながらここまでやってきたのです。
カネフォーラ様の悲しみ、怒り、無念、憎悪、後悔……何度も何度も繰り返しなぞっては思い返していた前世のこと。それが今ようやく無駄ではなかったと思えました。
どうかカネフォーラ様にも届きますように。
「俺が救われる……? そんなの許されるはずがないだろう!!」
「カネフォーラ様……」
ああ、やはりアレだけでは足りませんか……。それもそうでしょう、彼の感情には二十年分の重みがあるのですから。
だけど、それで諦めるわけにもまいりません。
「そのように自分を痛めつけ苦しめることは、故人への償いにはなりません。本当はカネフォーラ様も分かっていらっしゃるのでしょう……?」
「黙れ!! 部下は俺が間違えたから……無能だからこそ死んだのだぞ!? 俺が背負わなければ、誰がその無念と怒りを背負うというのだっっ!!」
カネフォーラ様は明らかに怒っている。だけどその怒りは、私以上に自分自身に向いているのが分かった。この方の本質がそうなのだ。
彼は責任感が強くて、色々な人を抱え込んでしまう人だから。
「俺の心の奥底には、煮え滾るような憎悪が居座り続けている。どれほど時が流れても、忘れることが出来ないし、忘れることも赦されないこの感情……それを糧に俺は、死して何も言えず、何も出来ぬ奴らのために、自分の全てを賭けて復讐を成し遂げると決めたんだ!! それ以外の道などあってはならぬのだ!!」
この叫びはカネフォーラ様の心の底からの叫びなのだろう。それと同時に、自分自身に言い聞かせて鼓舞するための言葉のようでもあり、それはとても痛々しくもある。
カネフォーラ様……。
一体どうすればこの気持ちが彼の心に届くのか。やはり私にはまだ分からない。
「……私思うんです。多くの人々を傷つけるような復讐だけが方法ではないと」
だけど、それでもこの言葉を止めるわけにはいかない。
ずっと見せなかった、彼の本音がようやく出てきたのだから。
「貴方様が心から求めているのは、理不尽に命を奪われた方々の貶められた名誉を取り戻すことと、その関係者の心を慰めること。それが正しく叶うのであれば、首都への攻撃も不要でしょう」
私の言葉に警戒しつつも、少し考える素振りを見せるカネフォーラ様。アレだけ激昂しても、まだ私の言葉を受け取ろうとするのだから、その根は寛容で真面目な人なのだ。だからこそ救われて欲しい。
「……だとしても、どうやってそれを叶えるというのだ」
「今、具体的に申し上げることはできません」
私の返答に彼は鼻で笑う。
「ならば、何の意味も……」
「その代わり、私の命を賭けましょう」
「は?」
「このラテーナ・カルアの命を賭ける申し上げたのです」
私のその言葉に衝撃を受けたのはカネフォーラ様だけではないらしく、今まで黙っていたセル様まで後ろで「何を言ってるんだラテーナ……!!」と叫び声を上げています。
ごめんなさいセル様、今はあえて無視させて頂きます。
「これが私の誠意です。貴方様は命を賭けている、だから私も命を賭けてそれを実行し、仮に叶わなければ自ら命を絶ちましょう」
「……箱入りだったご令嬢の考えにしては中々にいかれてるな」
「ふふ、クーデターを起こそうとするほどではございませんよ」
私がそうやって微笑みかけると、カネフォーラ様の表情もようやく和らいだ。
ああ、これならば、もしかすると……。
「もしこれが仮に、俺一人だけで動いている話だったら、一考した話かもしれんな」
私が安心しかけたのも束の間。カネフォーラ様は、そのようなことをポツリと呟きました。
え……それは。
「しかし、今の俺にも背負うものがある……!!」
そんな言葉と共にカネフォーラ様は、イールド様やミルフィさんの包囲を抜け出して、古代文明の遺物の方へと駆け抜けていきました。
「し、しまった」
「完全に油断していたわっ!!」
そう叫ぶのはイールド様とミルフィさんで、慌てた様子で、カネフォーラ様の動きを追っています。
「悪いが反乱軍の同士たちのためにも、王都への攻撃は果たさせて貰うぞー!!」
そう言ってカネフォーラ様は、遺物の起動スイッチへと手を伸ばします。
「カネフォーラ様、やめてぇぇー!!」
もしそんなことをしてしまったら、根が真面目で優しいカネフォーラ様は、結果はどうであれ、きっとその後悔も背負うことになってしまうのに……!!




