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5話 私が乙女ゲームのヒロイン…だよね?【sideミルフィ】

 鏡の前で入学式前、最後の身だしなみチェックをする。

 うん、このカラコンも入れてないのにピンク色の眼は今日も最高にキラキラでキュート。肩にかかる程度の長さのストロベリーブロンドの髪はサラサラで綺麗。

 メイクもヘアセットも我らながらいい感じで、お顔も可愛いければ、髪型も可愛いわね。

 ふふ、自分でいうのもなんだけど可愛らしいルックスで、間違いなく美少女な私はミルフィ・クリミア、カルフェ王国にあるクリミア男爵家の令嬢である!


 家族から愛され、大病や大怪我もなく、田舎貴族と言うこともあり、ちょっとゆるめな貴族令嬢生活を順風満帆に送ってきた自分であるが……そんな私には前世の記憶というものを持っていた。



 そして、その記憶によると、今の生きているこの世界は前世でやっていた乙女ゲームの世界で、私はそのゲームのヒロインなのです……!! いやー、それに気が付いたとき、どれほど喜んだことか!!

 結構やり込んでたゲームだから、どんなルートでも完璧に対応可能……なんというか、もう楽しみすぎて予習のため自分用の攻略メモまで作っちゃいましたよ、ええ。


 ハッピーエンド……つまり幸せな結末が用意された存在。

 それがどれほど素晴らしくて得がたいモノなのか、私はよく知っているからこそ私は嬉しくてたまらなかった。


 今でこそ、これほど幸せな人生を満喫している私だけど、前世の私の生活は今とは対照的に、幸せに溢れたものではなかった……。


『ああ、つまらない……』


 それというのも前世の私は、生まれつき身体が弱く、その人生の大半を病院の中で過ごさなくてはならなかったからだ。

 医療も科学も今の世界よりずっと進んでいるのに、まったく良くなることのなかった私の病気。病名はなんだったのか、もう思い出せないけど、辛かったことや、苦しかったことは何故か、たくさん覚えていて……。


 普通の同年代の子達が学校に通っているところ、私の身体では当然通う事なんて出来ず、ただ伝え聞く情報だけの遠い存在としてそれを知っていた。


 新幹線や飛行機という文明の利器でどれほど移動が便利になろうとも、博物館や美術館のようなどれほど貴重な文化を伝える優れた施設があろうとも、ショッピングモールやテーマパークのような娯楽施設がどれほど充実しようとも……私の現実にはお伽話のように、伝え聞くだけの無関係な話だった。


 だから私は、少しでもツライ現実を忘れるために代わりに、優しい嘘で癒やしてくれるゲームにのめり込んだのだ。

 むしろ漫画やゲーム以外に、私の心の拠り所はなかったから。


 別に家族が愛してくれなかったわけではない。だけど前世の私は、とても疲れてすさみきっていて……その愛情を素直に受け取る事なんて出来なかった。

 だって私がどれほど欲しいと思っても、得られない普通という恩恵を享受して、そんな恵まれた立場から私に「頑張れ」と言う彼らの存在。それが憎くて疎ましくて苦しくて仕方なかったんだ。

 苦しいのはきっと家族という立場でもそうだろうに、当時の自分はそれも分からずに……。


『ねぇ、頑張れって何? 今の私は頑張ってないと思ってるの? それともまだ足りないとでも言いたいの』

『ち、違うの……そうじゃないの』

『じゃあ、何ももう言わないでよ、頑張れなんて言葉聞きたくない』

『…………ごめんね』


 ……あの後、私はどうしたっけ。もう思い出せないけど、もやもやが残ったことだけはなんとなく分かる。ごめんね。


 前世の家族はよく言っていた『苦しんだ分、いつか報われる』って……正直、あの時は『また、そんないい加減なことを……』と思って、やさぐれ気味に聞き流してたけども、今なら分かるよ、あの話は嘘じゃなかったって。


 結局前世では死んじゃったけど、代わりに今はこんなに幸せだもん!!

 本当に疑ってごめんね!! あと度々当たりが強かったのも本当にごめんなさい……!! 文字通り生まれ変わって、反省しました……。


 健康な身体に、整った容姿、私を大事にしてくれる家族に、そこそこ裕福な実家。

 あぁ幸せ、最高に幸せ……!! 健康って素晴らしいっっ!!


 だからこそ、私はここで前世では手に入れることのできなかった色々な挑戦や経験をして楽しく生きていきたいと思います!!

 ありがとう神様、ありがとうみんな、私頑張るよっっ!!


 と、まぁ。もはや何度目だか分からない、そんな決意をしたところで……。

 ついについに、乙女ゲームのシナリオが始まる学園の入学式の日がやってきました……!!


 色々考えているうちに到着したのはカルフェ王立魔法学園……の正面門の前です!!

 ゲームの舞台となる学園、その目の前に降り立った私は改めて胸の高鳴りを感じた。


 ああ、学校だ!! 私、ついに学校に通えるんだ……!!


 そう考えるだけで思わず涙が出そうになって、私は涙がこぼれないように目をつぶって上を向いた。

 この学園で沢山楽しい思い出を作って、恋もして、それから友達も……と、この国って別名が珈琲王国で、紅茶より珈琲文化の方が強くてお茶会(ティータイム)ならぬお茶会(コーヒータイム)で親密度を深めるのよね。

 あれ、ゲームをやってて憧れていたの……友達や恋人とお洒落なお菓子と珈琲でお茶会(コーヒータイム)……いいなぁ。

 とにかく、親しい相手と楽しく過ごせる時間が作るのが憧れよね。そんなことを考えたら嬉しくて嬉しくて、ついに感動で体の震えまで、ってあれ? これってもはや足元から震えてるような……。



「大変だ!! そっちに野生の魔獣がいったぞ、みんな逃げろ!!」


 ま、ま、まじゅう……? えっ、魔獣ぅ!?


 驚いて声がした方を方を振り向くと、確かにこちらへ駆けてくる、鹿に似た大きな角を持った魔獣の群れが!!

 え、いや、なんで!?

 なんでこんなところに野生の魔獣の群れがいるのよ!!


 こんなゴツい生物の生息地としては、どうみても不釣り合いなお洒落な正門じゃ…………ん、ってあれ、いつの間にか他の生徒がはけてる気が?

 広い広い門の前はすっかりガランとしていて、興奮した魔獣の目の前にはポツンと私だけ……当然そうなるとターゲットは。


 あ、ちょ、ヤバい逃げなきゃ……!!


 慌てて自分も避難しようとするけど、そいつらは完全に私の動きを追うような動きを取ってくる。


 待って待って待って、なんでこっちに来るのかな!?

 やめよう、ね? そういうのはやめよ!?


「だ、か、ら、こっちに来ないでって!!」


 ついには全力疾走で逃げ出した私だけど、それにも魔獣はピッタリと距離をキープしてついてくる。


 なんで入学初日から、こんなバケモノに追われることになるのよ!?

 あっ、ダメ!! 気を抜くと追いつかれる、死ぬ死ぬ死ぬぅ!!


 その後、私と魔獣の追いかけっこは、学園の教師がやってきて魔獣を取り押さえてくれるまで続いた。

 うぅぅ、私の楽しい学園生活の始まりが……。

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