45話 シナリオを破壊するもの【sideエキセルソ】
ミルフィと別れた後、僕は僅かな騎士たちを連れて、地下への入口から続く通路を進んでいた。
中々に暗いな、ランプを持ってきていて正解だったが……肝心の攫われたはずのラテーナは、一体どこにいるのだろうか。今までならばもっと焦っていただろうが、先刻のミルフィとのやりとりのお陰か、心配なのは変わらないが不思議と落ち着いていられる。
そうして代り映えしない通路を進みながら、僕は先程ミルフィから聞いた情報を思い返してみた。
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「まずはカネフォーラが何をするつもりなのか、私が分かる範囲で話しておくわね……アイツは王都に大規模な攻撃を仕掛ける腹積もりでいるわ」
「奴はそんな派手なことを出来る程の人員を抱えているというのか?」
「ある意味そうだけど、そうでもないとも言えるわね。確かにカネフォーラの配下はそこそこ人数がいるらしいけど、それは王都に配置されている警備を、正攻法で全てどうにかできるほどのものではないわ。昨日学園で起きていたような爆発や火事は、どちらかというと目くらましで、本命の作戦はまた別にあるのよ」
「……それは一体」
「エキセルソ、アンタは 《古代文明の遺物》のことは知っている?」
「一応話には知ってはいるが、それになんの関係があるんだ」
「それが大ありも大ありなのよ。あの男はね…… 《古代文明の遺物》に類する、大量破壊兵器を所有していて、それをこの王都で使うつもりなのよ。ほんの僅かな時間で王都を瓦礫の山に変えてしまえるような、強力で恐ろしい兵器をね」
「それは本当なのか? 《古代文明の遺物》なんて全てが国宝級のシロモノだし、現在発見されているようなものは厳重に保管されている。そうそう手に入るものではないだろう」
「どうやって手に入れたかは知らないけれど、ゲームのシナリオ通りであれば、ほぼ間違いなくカネフォーラは遺物を所有しているわ。だからそれを起動される前に遺物の破壊か、奪取を行って、目論見を阻止する必要があるのよ。出来なければバッドエンド……まぁ現政権は終わりを迎えるでしょうね」
「バッドエンド……」
「だから、ラテーナさんのことはもちろん大事だけど、 《古代文明の遺物》のこともくれぐれも忘れずにね。分かった?」
「ああ、分かったよ」
「そうだ! 最後にこれだけは言っておくけど、例えカネフォーラと鉢合わせることがあったとして、絶対に戦ってはダメだからね。今のアンタが自分の実力にどれほど自信があろうとも、一人や少人数じゃカネフォーラに勝つなんて不可能に近いから」
「ふーん不可能に近いってことは、不可能じゃないとも取れるけど」
「なんでそうなるのよ……ええ、確かにとても難しいものの、ゲーム上でも勝つこと自体は一応不可能ではなかったわ。でもそれはやり直しありきのゲームの攻略上の話だから、現実の問題として、命の危険を冒してまで意地になってやることではないと思う。冷静に考えてリスクを犯すよりも、ゲームのシナリオを参考に上手く立ちまわった方が利口だとは思わない?」
「それは確かに、そうだ」
「だから、何度も念を押すようだけど、お願いだからカネフォーラと戦うことは避けてね。絶対に」
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ミルフィの話を端的に要約すると、 《古代文明の遺物》を探し出して対処することと、カネフォーラとは戦うな、とのことだった。
だから僕のするべきことはラテーナと遺物を探しつつ、カネフォーラのことは避けるということになるだろう。
だがしかし、ミルフィも地下の詳細は分からないらしく、めぼしい何の手掛かりもないので、足を使って手当たり次第に調べる他ない。
なんなら今だって、適当に通路の分かれ道を選んで進んでいっているからな。唯一僕に出来るのは、カネフォーラとは出くわさずに、無事に目当てのものが見つかるように祈ることくらいだろう。
どうにか上手くことが運べばいいのだが……おや?
この先に見える場所は随分と明るいようだ、もしかしたらもうランプも必要ないかもしれないな。
恐らく、何かしらの特別な場所には違いないだろうが、それは一体……。
その空間に出ると一気に視界が開けた。壁沿いに灯る明かりのお陰で、そこはそれなりに明るく、全貌も一目で分かった。
一瞬外かと錯覚するような広さのそこは、地下に作られた巨大空間とでも形容すべきだろう。いつ誰が作ったものかは不明だが、その圧倒的な見た目だけで、これを作るのがどれほど手間だったのかはなんとなく察するほどだ。
そしてそんな空間の最奥には、一人の男がこちらに背を向けて立っていた。それなりに大柄に見えるその人物は、その体躯よりも更に大きな謎の装置のような物を前にして、何やら熱心にそれを見ていた。が、そいつはどうやら気配に敏感なようで、僕たちがその空間に足を踏み入れた途端、そこから距離があるにも関わらず当初の動きを止めてこちらを振り返った。
「おや……」
そいつに見られた瞬間、全身にゾワリとした感覚が走る。それは一緒にいる騎士たちも同じだったのか、気圧されて若干後ずさりする者も出ている。
……なんて気味の悪いやつだ。
「まさか、部外者がここにやってくるとはな……それにもしかして貴様は第二王子か?」
男の年齢は四十代前後、浅黒い肌に左目の黒い眼帯、アイスグレーの眼に、何よりも嫌でも目につく、ややくすだ色ではあるものの王家の証である金色の髪。
「……お前こそ、カネフォーラだな?」
「ああ、そうだ。可愛い甥っ子に知って貰えてるとは嬉しいよ」
「お前が攫ったラテーナは何処だ!?」
「さぁ一体何処だろうな」
そう言って、カネフォーラはくつくつと笑う。食えない男だ……。
「しかし地下にある重要なものはコイツくらいだからと、警備も残さず他に人員を割いたが、よもや辿り着くものがいるとはな……驚いたぞ」
そう言って奴は、自分の後ろにある物体に手をかけた。それに僕は思わずビクッとする。
何故ならそれは、僕の見立てでは間違いなく……。
「ふふ、どうした……俺の後ろのコレが気になるか? それもそうだろう、これは貴重な 《古代文明の遺物》だからな」
「っ!!」
チッ、やっぱりそれがそうか……!!
ミルフィはあれだけ、カネフォーラとの戦いを避けるようにと言っていたが、カネフォーラ自身は他でもない 《古代文明の遺物》の真ん前にいる。
カネフォーラをどうにかしなければ、アレをどうにかするのはまず無理だぞ。
今なら距離もあるし一旦逃げることも出来なくはないが……もし逃げた途端に遺物を起動させられたら最悪だ、出来るわけがない。
「ちょうど今から起動させるつもりだったのだが、よければ見ていくか?」
カネフォーラの奴はニヤリと笑って、こちらに問いかけてくる。
完全に挑発されている。それに乗るのは癪だが後々のことを考えると、これを放置するという選択肢は最早存在しないだろう。これを起動するということは、王都が破壊されることを意味するのだから。
シナリオを参考に立ちまわった方が利口か…………確かにそう出来るのであれば、そうだな。
だが、その前提は既に崩れている。もしかしたら、ラテーナのために話を変え始めた時からもう……。
「はっ、ゲームのシナリオがどうだなんて、もう知るか……」
どうせ、ここで逃げても失敗しても結果は同じだ。ならやるしかない。
僕は決意と共に腰の剣を抜き、カネフォーラに切っ先を向ける。
「シナリオも遺物も、今ここで全部粉々にぶっ壊してやるよ……!!」
自分が望む未来のため、気に食わないものも、邪魔なものも、全て壊し尽くすまでだ。
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もう終盤に差し掛かっておりますが、引き続き楽しんで頂けたら幸いです。




