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40話 ついに恋愛ゲームっぽい展開だよミルフィちゃん!【sideミルフィ】

 あれれ、おかしいぞ。もう日が暮れちゃうなぁ? ……いや、いくら何でもジミーの帰りが遅くない!? 知らない場所に勝手に連れてきたうえに、ほぼ丸一日放置は酷いでしょうよ!!


 あの後、私は室内着らしいドレスから、もう一段階豪華なドレスに着替えさせられて、朝食を食べ、やたら広い屋敷の中を案内などをされつつ時間を潰し、昼食を食べ、午後は美しい庭を散策したのちに、呑気にティータイムまで済ませてしまった。

 沈みゆく夕陽を、これまた立派なバルコニーから見て、流石にヤバいと感じる。


 だって気づいたら一日が終わっちゃうところなのよ!?

 ラテーナ・カルアは囚われたままで、カネフォーラはクーデターを起こす気満々なのに、こんな優雅な貴族の一日みたいな過ごし方をしていて良いはずがない!!


 ああ、どうしよう、私がこんなことをしている間に、今度こそラテーナの体の一部が切り落とされたりしてたら……。


「ミルフィ様、風が冷たくなってきますのでそろそろ中へ。それとよろしければミルクティーでもお入れしましょうか?」

「ありがとう……ルフナさんの入れる紅茶って凄く美味しいから嬉しいわ」


 こんなことしてる場合ではないはずなのに、純粋な好意は無下にできない!! あと本当に、この人の入れる紅茶は美味しいのよ……。

 元々カルフェ王国はコーヒー文化だから、あまり紅茶は飲まないんだけど、この屋敷ではジミーが帝国出身だからか、基本的に紅茶が出る。実のところ、前世の貴族的なイメージのティータイムに密かに憧れてた私にとって、紅茶を入れてくれるのは新鮮なうえに嬉しくて……それもあって、この屋敷での待遇をうっかり満喫してしまっていたのだ。

 ちなみに私の今の会話の口調は、色々とやりとりをした後にルフナさんから言われて、やや砕けたものになっていたりもする。


「ふふ、ありがとうございます。それでは……」


 ルフナさんがそこまで言いかけたところで、男性が慌ててやってきて何やら耳打ちをした。すると彼女の表情が変わり、改まって真面目な表情でこちらを見た。


「ミルフィ様、我が主がお戻りになられました」

「本当!? ではすぐに会わせてもらえるかしら」

「はい、もちろんでございます。どうぞこちらへ」


 ああ、よかった! ようやくジミーに会える!!

 絶対、絶対文句を言ってやるんだから……!!



 ✾



「一日ぶりだねミルフィさん、元気そうで安心したよ」

「いやいや、何言ってるのよアンタ!? 勝手にこんなところに連れてきて一体どういうつもりなわけ?」

「どうもこうも、ただミルフィさんにゆっくり休んで欲しくて、僕の屋敷に招待しただけだよ」

「勝手に連れてきたことを招待っていうな!!」


 私が案内された応接室に現れたジミーは、なんといつもと変わらない様子で、私はそれに余計イライラした。


「そんなに怒って、一体何が気に入らなかったの。もしかして紅茶や食事が口に合わなかった?」

「いや……紅茶や食事は正直物凄く美味しかったけども」

「なら、よかったー」

「そういう話をしてるわけじゃないんだけども!?」


 ダメだ、このままじゃコイツのペースに乗せられてしまう。気を引き締めて話をしなければ。


「改めて真剣に聞くけども、一体どうしてこんなことをしたの? ジミー、じゃなくてチャーリー」


 ここからは真面目に話をするという気持ちを込めて、私は珍しくいつものジミー呼びではなくて、彼のことをチャーリーと呼んだ。

 するとそれは彼にも伝わったのか、やや真面目な面持ちになったチャーリーが、真面目な声音で答えてくれた。


「他でもない君が、昨日いきなり一人で飛び出して行ったからだよ。オマケにその理由の説明もイマイチ要領を得なかったからね」


 ……うん、真面目な路線に持って行ったのは失敗だったかもしれないわね。そこについてはちゃんと答えられないもの、私。


「だからね、君が勝手にどこかに行かないように、安全な場所に置いておこうと思ったんだ」

「……安全な場所に置いておく?」


 またそのまま問い詰められる流れになるかと思ったら、なんか話の方向性が変わってきてるような?


「僕はさ、自分の大切なものは、なるべく自分の目の届くところに置きたいし、それが出来ないなら傷ついたりしないように閉まっておきたいタイプなんだ」

「ふ、ふーん……で、それがどうしたの?」

「まだ分からないかな。僕は君のことを大切に思っている、だから守りたいと思ってるってことだよ」


 大切に思ってる? 守りたい?? は、いや、それって……まるで告白みたいな……。

 そう考えた瞬間、顔に血が上ってかぁっと熱くなるのを感じる


「ま、紛らわしいこと言わないでくれない!? か、か、勘違いしちゃうでしょ!!」

「その勘違いならしてくれて構わないよ」

「は、はぁあああ!?」


 ジミーの方は涼しい顔でサラッとそんなことをいうが、私の頭の中はますます大混乱だ。

 だって、いや、待って、そんないつから……え、ホントに? 本当にコイツ私のことが!?


「いや、でも、なんで急に、このタイミングで……?」

「本当なら僕だって、後でじっくり準備をしてやるつもりだったよ。でも君がやたら危ないことをしようとするからさ。今、捕まえて置かないとダメかと思ってね」


 なにそれ、なにそれ、待って、噓でしょ…………そもそも、捕まえておかないとダメの意味が物理的になっているのはどうなの?


「とにかく、この万が一のために用意された帝国所有の屋敷の中なら、他よりも安全で安心だから、しばらくはこの中でおとなしくしてて欲しいんだよね」

「……」

「僕はまだ忙しいから、ずっと一緒には居られないのだけれど……だから少しの間だけ、おとなしく我慢しておいてくれないかい、僕のお姫様?」

「……いや、待って、まだアンタのお姫様なった覚えはないんですけども!?」

「まぁ、その話はまたあとでゆっくりとね」


 そう言って彼は私の手を取ると、その手の甲にそっとキスをした。


「!?」

「本当はゆっくり一緒に食事でもしたいのだけど、僕はまたすぐ出ないといけないからごめんね。くれぐれもいい子にしてるんだよ」


 そうしてジミーは、それだけ言うと軽く手を振りながら部屋から出て行ってしまったのだった。


「な、なんなのよ……なんなのよ!!」


 で、でも、どうしよう、急に告白されちゃった……こんなの初めてだからどうしたらいいか全然分からないんだけど。

 交際って一体何から始めればいいんだっけ、文通? 交換日記? 分からない、人生二回目なのに全然分からない、だってずっと病院に居て、家族と病院の人以外との付き合いすらなかったんだもの!!

 はわ、はわわわわ……。



 ——

 ————



「ミルフィ様、夕食のお支度ができましたが……」

「は!?」


 ルフナさんの声で我に帰る。私はジミーが居なくなってからもずっと、彼と話した客間でぼーっとしていたらしい。

 いけない、告白らしきことをされたせいで、おかしくなっていたみたいね……。

 とりあえず、ご飯でも食べて落ち着きましょうか。

 うんうん。それがいいわ。



 ✾



 のこのこ食事をしに行っちゃったけど、冷静に考えると私、こんなことをしてる場合じゃないわよね!?


 食事を食べている最中にじわじわ思い出してきたけど、今の状況ってメチャクチャ大変なんだから!!

 まずラテーナが連れ去られて身の危険に晒されているうえ、このままじゃクーデターも起っちゃうはずだもの……。


 あの男、カネフォーラの分かりやすい行動目標は王位簒奪。

 自分が王になることで、復讐や諸々の目的を果たそうという腹積もりである。

 そのためにアイツは、現政権にダメージを与えつつ、更に現政権自体の立場を貶める手段として、首都への大規模な攻撃を計画しているのだ。

 これはゲームのストーリー上でも、特に大きな意味を持つイベントになってくる。でもそれは主人公の行動次第で、被害が大きく増えたり減ったりするもので、この時点で首都攻撃が完全に成功するとストーリーは、ボス戦も行えないままにバッドエンド直行となる。


 本来の実行時期はもう少し遅いけど、私から己の存在がバレる可能性を考慮しないカネフォーラではない。そう考えると、その時期が前倒しになる可能性はかなり高い。



 それが分かっている以上、こうしてはいられないわ!!


 おとなしくして欲しいと言ってきたジミーは悪いけど、行動あるのみ。

 ちょうど今、私が使わせて貰っている部屋にいるのは私一人だけ。

 通路から外出すると人目に付きそうだし……外に出るならやはり、窓からかしら。


 ここは二階、飛び降りれない高さではない。ダンジョン攻略の時にやっているように、魔法で上手く衝撃を軽減できれば、まったく問題ないわね。


 愛用のメイスはすぐ目につく場所に置いてくれているけど、元々着ていた制服などの着替えは部屋の何処にも見当たらない……もしかして洗われちゃったのかな。


 うーん、なら仕方ないわね。

 このちょっと高そうなドレスを汚すのは忍びないけども、今は緊急事態だし、このままこれを借りていくわ……!!


 今の今まで散々時間を浪費してしまったけど、待ってなさい……!! クーデターなんて絶対成功させないんだからっ!!


「とうっ」


 そんな決意とともに私は一人、日も落ちて暗くなった外の世界へ飛び出していったのだった。

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