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4話 我が美しき婚約者が制服を着用して可愛らしい過ぎた記念日【sideエキセルソ】

 ついに来たな……。

 今日はラテーナとともに、例の学園『カルフェ王立魔法学園』に入学する日だ。


「セル様、お待たせいたしました」


 そんな美しい声音が聞こえ僕は、そちらを見る。そこにいたのは学園の制服に身を包んだ、世にも美しいラテーナの姿だった。


「ああ、目にした瞬間天使が地上に迷い込んだのかと思った……今日も綺麗だよ、ラテーナ」

「あ、ありがとうございます……」


 ああ、頬を染めて恥ずかしそうに笑うラテーナも最高に可愛い……。

 この瞬間の彼女を絵画にして、永遠に残して置きたいくらいだ。きっと将来国宝になることだろう。


「でも、わざわざセル様が私の家まで迎えに来て下さるなんて」


 頬に赤みを残しつつ、ラテーナがややぎこちなくそう口にする。

 うん、ぎこちないラテーナも抜群に可愛らしい……。


「婚約者をエスコートするのは当然のことじゃないか……それに僕は、少しでも長くラテーナと一緒に居たいんだ」


 そう言いながら、僕はラテーナの手を取り口付けを落とす。

 そうした瞬間、ラテーナの顔がボッと赤くなり口をパクパクさせ始めた。


「せ、せ、セル様」


 ああ、何度もこういうことをしてるはずなのに、いつまでも反応が初々しいラテーナは可愛いなぁ。


「ふふ、さぁ行こうか」


 いつまでも可愛い彼女を見ていたい気持ちもあるが、そういうワケにもいかない。なので僕はラテーナに声を掛けて、用意した馬車までエスコートしたのだった。

 馬車に乗り込んで対面で座ると、ラテーナの表情が妙に硬いことに気がついた。


「ラテーナ、もしかして緊張してるのかい?」

「ええ、少し……」

「何も心配ないさ、君には僕がいるだろう?」

「はい、そうなのですがどうしても……」


 そう口にするラテーナの顔はどうも暗い。

 きっと学園に入学するところから始まるという【乙女ゲーム】のシナリオというものを気にしているのだろう。

 本当にそんなこと気にする必要なんてないのにな……。


「それじゃあ、こうしよう」

「え?」

「僕は学園ではできる限りキミの側にいるようにする。だからラテーナが不安で不安でたまらなくなったら、僕の服の袖を掴んでくれ」

「……服の袖をですか?」

「ああ、そうしたら、君の視界を僕以外の何も見えないようにしてあげる」


 そう言いながら僕はラテーナの頬に手を添えて、ぐっと自分の顔を近づけた。


「そうして僕以外なにも見え無くなれば、ラテーナの中に不安もないのと同じになるだろう? だから僕のことだけを考えて、僕だけを見つめていてよ、君の瞳に映るのは僕だけで十分だ」


 そう言ってるうちに、ラテーナの顔がみるみる赤くなっていく。

 その姿が愛おしくて愛らしくて……いっそ、このままキスでもしてしまおうか? という気持ちを抑えて僕は更に言葉を続けた。


「つまりよそ見は禁止ってことだよ、分かったかい?」

「で、で、でも……私はもう既にセル様のことを考えていることが多いので、これ以上は」

「……へぇ? それは確かに嬉しいけど、まだまだ足りないかな。取るに足らない【乙女ゲーム】とやらのことを気にしているうちはね」


 そう、余計なことを考えるくらいなら、ラテーナはもっと僕のことだけを考えるべきだ。

 そんな気持ちを込めた僕の言葉を聞いたラテーナは、何も答えずただ困ったように視線をさまよわせていた。


「まぁ、いいさ……それについては遠からず結果が出ることだからね」


 そんな言葉とともに、僕はそこでラテーナの顔からそっと手を離した。

 だってこれ以上こうしてると、これから学校だというのに我慢できなくなりそうだったからね……まぁ、僕自身はそれでも構わないのだけれど、ラテーナは真面目な子なので流石に初日くらいは抑えておうと思ってね。


 しかし手を離した瞬間ラテーナはだいぶホッとした様子だ。そんなものを見てると、また彼女をからかいたいというイタズラ心が湧いてくる。


「しかし、僕が何度大丈夫だと言っても信じなかったよね。そんな悪い子には、ちょっとした罰が必要かもなぁ」

「えぇ、罰ですか……?」


 僕の口にした罰という単語に、少しビクッと驚いたような反応をするラテーナ。

 ああ、驚く姿すら可愛いなぁ……。


「そう、全部終わって僕が言った通り何もなかったその時には……ラテーナから僕にキスをしておくれ」

「え、き、キスですか……」


 そこでまた、少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめるラテーナ。ああ、可愛い……物凄く可愛い。


「ああ、だってラテーナは恥ずかしがりで、一度もキミの方から何かしてくれたことはないだろう?」

「そ、そうでしたかね……」

「いつものラテーナももちろん可愛らしいけど、たまにはキミからもそういうことをして欲しいんだ……どうかな?」


 僕はそう言いながらラテーナの手を握り、彼女に向かってそっと微笑んだ。

 そうすると先程よりも更に顔を真っ赤にしたラテーナが、コクコクとぎこちなく頷く。


 正直ここまでくるとラテーナが可愛い過ぎて、学校に行く必要性すら分からなくなってきた。もう、このままサボってデートに行くべきでは?

 まぁ……流石の入学初日に、そんなわけにはいかないけどね。全く面倒な話だ……。


「わ、分かりました、全部終わったその時には……私からすると約束します」

「ふふ、そうなったら僕もますます頑張らないとね」

「あれ……でも、それってよく考えると罰ではないのでは……」

「え、じゃあもっと罰っぽいこともするかい?」

「い、いえ大丈夫です……!!」


 ああ、まったく慌てるラテーナの姿も可愛いなぁ。そもそも彼女に可愛くない瞬間なんてないんだけどね……。


 照れ隠しのためであろう、不自然に窓の外に目をやったラテーナが、急に不思議そうな顔をして「あれ……」と呟いた。


「どうしたんだいラテーナ?」

「あの、学園の行くには今の道を曲がるのでは……」

「ああ、でもそれは正門にいく道の話だろ? 今、向かっているのは裏門の方だから別に問題ないよ」

「え、どうして裏門に……」

「うん、僕の方で少し用事があってね」


 それに今日の正門には、ラテーナを行かせたくないから……これが今日、彼女を屋敷まで迎えに来た大きな理由の一つである。



 さて、乙女ゲームとやらがどんなものかは知らないが、僕とラテーナの前に立ち塞がるのであれば……ただ潰すのみ。

 何より彼女からのキスもかかっているのでね?

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