33話 飛び入り介入ミルフィちゃん【sideミルフィ】
うわぁーん、うっかり割ってはいちゃったよ……。
カネフォーラってゲームのラスボスで、メチャクチャ強くて、作中屈指の激ヤバ男なのにぃ!!
「先程から妙な気配がすると思えば、こんなネズミが迷い込んでいたのか……自ら声を上げて姿を現すとは、よほど死に急いでいるとみた」
え、それって気配だけで存在がバレていたってこと!? こわっ。
でも出てこないで立ち去っていたら、もしかしたら私はどうにかなっていたかもしれないけど……アレは流石に見過ごせなかった。
だってだって、足を切り落とそうとしてたのよ!? あれは間違いなく冗談じゃなくてマジのやつだったわ。
カネフォーラってそういう男だもの!!
理由とかは不明だけど、エキセルソを筆頭に性格諸々の違うキャラがいるから、もしかしたらカネフォーラも性格が違ったりしないかなぁ~って淡い希望を抱いていたけどダメそうですね!! はい、最悪!!
カネフォーラ・レオ・アムハル。
約二十年前に死んだことになっている王弟で、本作ルート共通のラスボスにして、一個人としての戦闘能力が作中最強の男。もはや出鱈目なレベルで強くて、プレイヤーたちのトラウマである。
とは言いつつ、彼自身の背負った背景を鑑みると、色々と同情の余地はある。
ある日突然、実の兄から裏切られて殺されかけ、大切な部下と自身の片目も失い、死んだことにされた男。どうにか逃げた後も何年かは命を狙われることがあり。そんな生活によって、性格もすっかり荒み切ってしまったわけだ。
その結果、一緒に逃げ延びた部下や、志を同じくする配下を集め、兄である国王やひいては王国への復讐を計画するようになる。
そんな感じで、彼はこのゲームのコンセプトである珈琲の苦味の部分を、徹底的に煮詰めて背負っているようなキャラなのだが、彼は攻略キャラではなくラスボスなので救済はない。
ひたすら暴れまくって、プレイヤーがハッピーエンドを迎えるためには必ず死ぬ。
そう聞くと可哀想な感じもするが、プレイヤー目線だと、コイツって全然簡単には死なないから、そこまで可哀想な感じはしないのよね。先に言った通り、同情はするけども。
圧倒的強者、つよつよラスボス。
最後の最後まで強者の矜持を貫いて死ぬ彼に、可哀想という言葉ほど似合わないものもない。
それが今私の目の前にいる、カネフォーラという男なのだ。
「さて、小娘ここから先はどうするつもりだ?」
私個人の希望としては、ワンチャンこのまま穏便に解放してくれたり……は、ありませんよね。うん、知ってる。
ならば、ここから私が取れる手段は一つよ。
「聞きなさい、王弟カネフォーラ!!」
「ほぅ俺のことを知っているか。あるいはさっきの会話を盗み聞きしたかのか」
ええ、その両方です。でも、今はそんなことはどうでもいい。
「いざ尋常に、正々堂々私と戦いなさい!!」
「ふむ」
「そして私が勝ったら、その子を解放するのよ!!」
私がするべきなのは、ゲームの知識を総動員して、少しでも有利な状況に誘導すること。
「そんなことをして一体俺になんのメリットがある?」
そりゃごもっともな意見ね。でも私もこうなったからには後には引けないのだ。
「あーら、こんな小娘一人相手にして勝つ自信もないの? 流石、地下でこそこそ女の子を虐めてる男は違うわね~」
「ふむ、わざわざ俺を挑発しようというのか。そんな見え透いた言葉乗るまでもないが……」
カネフォーラはそう言いながら、そこで一旦言葉を区切る。
これは……。
「まぁ、確かにたかが小娘一人だ。多少遊んでやっても良かろう」
よし、きたぁあああ!!
カネフォーラという男は、かなり冷静な性格で安い挑発なんかには乗らない。だがその一方で、余興や遊びのようなことを好む傾向があった。ゲームでも最終決戦までに、そのお遊びに度々付き合わされることがあったわけだが……。
だからこそ、もしかしたら私の話に乗ってくれるのではないかと思ったわ。
そして、わざわざ話に乗るのであれば——。
「だが、本気で相手をするのはあまりに哀れだ。一つハンデをつけてやろう」
そう、きっと自らハンデをつけてくれると思ったわ!!
生存確率を上げるためにも、これが欲しかったのよ。
コイツは自分の実力をよく理解している。そしてこの手の遊びをする上で、妙に公正を重んじるところがあった。だからわざわざ条件を付けるのだ。
本来敵と思えば、女子供といえど容赦はしない男ではあるが、これで多少はマシになるでしょう。馬鹿正直にやりあえば速攻でフルボッコ。なんなら死ぬところだからね。
「魔法を含めた飛び道具の類を使うのは止めてやろう」
うん、魔法と飛び道具ナシは中々悪くない条件ね。カネフォーラの魔法も飛び道具も激つよだから。遠距離からの攻撃で死傷する可能性がなくなっただけ、よしとしよう。
私は深呼吸をしたのちに覚悟を決めて、念のために持ち歩いていたメイスを取り出して構えた。そんな私の姿を見て、カネフォーラは嫌らしく笑う。
「とはいえ、貴様の不利は変わらん、愚かな小娘よな」
んなことは、百も承知なのよ!! こっちだって、状況上強いられているだけで、やりたくてやってるわけじゃないんだからね……!?
「ああ、そういえば、貴様の蛮勇に一つだけ正解がある」
カネフォーラも手にした刀身が黒い幅広の剣、確か黒鋼魔剣ファルシオンだったかを構えようとしたが。急に何か思い出したように、声を上げて一旦動きを止めた。
「先程、声を掛けずに不意打ちをしようとしなかったことだ。もしそうしていたら、俺はその時点でお前の首を刎ねていただろうからな」
さも楽しそうに笑いながら、カネフォーラはそう言った。
そんな一方私は、自分の首をサクッと切り落とされるところを想像して、一気に血の気が引いたんだけど! ……やっぱり、コイツはどこか狂ってるんだわ。
正直な話、冗談抜きでこの男は、軽々とそれが出来るだけの実力がある。だってコイツと戦うのも本来は、4対1くらいの方が正しいのだから。
実はこのゲームのラスボス戦は、自分側は最高4人組のパーティーで行うことができる。
あれ、選ぶ攻略対象は一人なんだから、戦闘はその相手と二人っきりとかじゃないの? と思った人は正しい。初見だったら、大体そうなる、そして見事に全滅させられてバッドエンドまっしぐらなわけだ。
このゲーム、攻略対象として選択した一人だけと仲良くしていると、あと二人のパーティーメンバーが揃わず、4人パーティーを作ることができない。
だから4人パーティーの結成を目指す場合は、選択した攻略対象の他、あと誰かしら二人の好感度も友好程度までには上げて、友人になっておかないといけないのだ。どう考えてもクソ仕様である。
え、そう思うなら二人だけで、どうにかラスボスを倒せばいい? それが出来れば苦労はしない。前述したように彼は作中屈指の実力者だ。
そしてそのボス戦での戦闘力は、万全の準備をした4人パーティーで戦闘をしてもなお苦戦を強いられる難易度に設定されている。
更に本作に置いてバトルは本筋ではないので、そもそもレベル上げの概念がない。代わりに必要なイベントを選択することによって、戦闘用のステータスが上がる仕様になっている。実質的なレベル固定制というわけだ。当然レベルをゴリゴリに上げて押し切るなんてことは、システム的に不可能。なのに敵が強い。根本的にゲームとしての何かがおかしい。
そしてこれを乗り越えなければ、グッドエンディングには辿り着けないという鬼畜使用。完全にオマケ程度のシステムで設計されているバトルが、もろにエンディングに関わることといい、乙女ゲームの定義と攻略バランスについて、製作者と小一時間議論したい仕様である。
そんなわけで、彼を相手にするには少なくとも、それなりの実力者を4人連れてくるのが正しい。
ゆえに今現在、そんな相手と一対一のタイマンを張ろうとしている私の行動は、根本的に間違っているわけだ。私自身もそう思う。
でもだからといって、私も無謀に戦いを挑んでいるわけじゃない。
あのハンデだけでもまだまだ足りないが、もし足りないのであれば、別の手段で補うまでよ!!
「しかしカネフォーラ、アンタには同情するわ」
「なに……?」
どこまで通用するかは未知数だが、私には一応ゲームの知識がある。
「だってある日、突然実の兄に裏切られたのでしょう?」
「っ!!」
とにかく興味がありそうな話題で気を引いたり、本人の感情を揺さぶったりして、集中力を散らすのよ……!! 卑怯で姑息だろうが、そこはお生憎様!!
実力差がありすぎる私に勝ち目を作るなら、それしか道はないのだからね。




