32話 狂気の王弟カネフォーラ【sideラテーナ】
カネフォーラ・レオ・アムハル。約二十年前に死んだことになっている、現国王の異母弟。紛れもない王族だ。
「王弟殿下ですって……!?」
「ああ、そう呼ばれるのも随分久しぶりだな」
カネフォーラは感慨深そうな表情を見せたが、それも一瞬で消し去ると、冷たい私のことを見据えた。
「さて、自己紹介も済ませたところで本題に入ろう」
「本題……」
この状況に、公には死んだはずの人物が現れたことといい、もはや嫌な予感しかしない。
「先程も言った通り、エキセルソには我々に協力して貰いたいのだ」
「我々というのは……」
「この俺を筆頭とする、現国王や今の王国への不満を持つ者たちの集まりだ」
「まさか叛逆を……」
「まぁ、そういうことになるな」
国家への叛逆。それは計画が露呈した時点で、死罪に問われるほどの大罪である。
「そ、そんな者たちとエキセルソ様は関わり合いになったりなどしません!!」
だから私は反射的にそう答えた。間違ってもセル様とそんな奴らを関わらせる訳にはいかないから。
「果たしてそうだろうか。例えば大切な婚約者からの口添えがあったとすれば?」
「っ」
その言葉に私は一瞬口ごもる。確かに、私から話を持ちかければ、セル様も興味を示してしまうかもしれないと思ったから……。
「ですが私はそんなことしません!!」
「本当に、絶対にか?」
「ええ、絶対にです」
私は強い意志を持ち、カネフォーラの言葉に頷き返す。するとカネフォーラはやや私のことを見つめたのちに、ふっと視線を逸らした。
「そうか、それは残念だ……」
え……わざわざ誘拐までしたのに、こんなに簡単に引き下がるの?
そんな私の心情を読み取ったのか、カネフォーラは次の瞬間、恐ろしい冷徹な笑みを浮かべて、こう言ったのだった。
「では、エキセルソは無理矢理言うことを聞かせることにしよう。ご令嬢のことを人質として利用してな」
「な、なんですって……」
一気に血の気が引くのを感じる。さっきの会話で簡単に引き下がったのも、まさか元々コチラが本命だったからでは……。
「出来れば、こちらも穏便に済ませたかったが仕方ない。ご令嬢はどうしても協力する気はないらしいからな」
私を嘲笑うかのように、カネフォーラはくつくつと笑いつつ、今度は私の身体の部位を指差し始めた。
「それならば、どれがいいだろうな。目か、手か……ああ、足でもいいな。万が一にも逃げようという気が起きないように」
「な、何を仰っているのですか」
「何って……これから君が、失う身体の部位についての話さ」
「な……」
「切り落としたら丁寧に包んで、可愛い甥っ子の元へ送り届けてやろう。もしアイツが従うのを拒むようならば、更に少しずつ別の部位も送る」
か、身体を……切り落とす?
言葉の内容自体、上手く飲み込めないのに、カネフォーラは笑みを浮かべて、コチラに問いかける。
「さて、こちらはどれでも構わない、ご令嬢に希望があればそれに沿おう」
「……狂っている」
そうして私がどうにか絞り出した言葉は、それだけだった。
だがカネフォーラは、そんなことには興味がないと言いたげに鼻で笑った。
「はっ、狂いでもしなくては、今の今まで生きてこれなかったからな……さて」
カネフォーラは帯刀していた幅広の刀身が黒い剣を抜刀し、ゆっくりとコチラへと向けた。
仄暗い笑みを浮かべながら。
「特に希望がないのであれば、最初は足にするか。比較的止血もしやすい部位だからな、あと残念ながら痛み止めの持ち合わせはないから、そこは我慢してくれ。なに殺しはしないさ、これでも大事な人質だからな」
「や、いや、やめて……」
「諦めろ、ご令嬢の選択の結果だ。代わりに切り落とし部位は丁重に扱うと約束しよう」
カネフォーラは近付いてくる。私の心臓は恐怖からバクバクと激しく脈打つ。
だ、ダメ……このままでは、本当に……。
「ち、ちょっと待ったー!!」
そんな時、知らない女の子の声が響き渡った。そちらを見ると学園の制服を着た女の子が、拳を握り締めて立っていた。
だ、誰なの……?
「か弱い女の子にそんなことをするなんて、この私 《ダンジョン攻略専攻チーム》所属のミルフィ・クリミアちゃんが許さないんだからね!!」
ミルフィ・クリミア!? それはこのゲームの主人公である女の子の名前のはず……。でも 《ダンジョン攻略専攻チーム》というのは初耳です、わざわざ名乗りを上げるだけあって何か凄そうですが、一体何なのでしょうか。
「ほぅ……」
一方、邪魔をされたはずのカネフォーラは意外に反応が薄く。彼女のことを見つめながら、真意の読めない笑みを浮かべていました。




