16話 ミルフィちゃん in ダンジョン【sideミルフィ】
「いいかー!! 陣形は崩すなよ!? 特に新入りは、陣形を意識しつつ敵からも目を離すんじゃないぞ!!」
轟音と共に飛び来る魔物の攻撃。
そんな魔物へと斬りかかる屈強な男たち。
ここはどこ……私はだれ?
わ、私は……乙女ゲームの主人公?
うぅ……このゲームの魔法やバトル設定なんてあるイベントに置ける局地的なもので、こんな変な場所まで来て、ガチガチなバトル系ゲームみたいな戦闘はなかったはずなんだけども!?
なんで、格闘ゲームに登場しても不思議じゃなさそうなガチムチの男たちと、モンスターたちと戦うことになっているのかなぁ!!!!!
「ほら、クリミアさん危ないよ。もっとコチラへ」
そしてジミーことチャーリーは想像以上に優秀で、呆けている私を危なくないように守りつつ上手く誘導してくれている。
最初は何コイツって思っていたけども、面倒を見るとか言っていただけあるわね!?
でも、だからと言ってこの状況は一体どうするのよ!!
私は突然 《ダンジョン攻略専攻チーム》に放り込まれたミルフィ・クリミア。
かつては乙女ゲームの世界に生まれ変わったと思っていた時期もあったけど、最近はなんか違うかもしれないと思っているところ!!
「あ、次の攻撃きてるよ、クリミアさん」
「ああー、もういやぁー!!」
「しっかりして、クリミアさん。敵を前にそういう態度が一番危ないからね?」
「……はい」
叫びたい気持ちでいっぱいだが、危ないと言われたら流石に静かにせざるを得ない。
だって、私も怪我なんてしたくないもん。
「はぁ……」
見たところ先輩たちは強そうだから、とりあえずは安全かな。
目の前で繰り広げられる戦闘を適切な距離をとりつつ、手持ち無沙汰ではあるし、その様子を観察してみることにした。
ガチムチな先輩が攻撃すると、私の身長ほどはある、頑丈そうな爬虫類っぽい魔物が簡単に吹っ飛ぶ。それを待ち構えていた別のガチムチ先輩が受け止めて見事にトドメを刺す。見事な連携だ。
……本当に強いな、彼ら。え、この人たちが例のドラゴン事件の時にいれば、あれも瞬殺だったんじゃないかな。
そう思えるくらい、先輩たちの身のこなしと攻撃技術は卓越している。
こ、これが 《ダンジョン攻略専攻チーム》なのか……。
「おい、新人!!」
「は、はい!?」
彼らの戦闘がひと段落着いたように見えたところで、突然声を掛けられる。
「そろそろお前らも、少し試してみるか?」
「え……もしかして戦闘をですか?」
「そうだ」
私も参加しなきゃダメなの!?
いや、でもそうか私も名目上 《ダンジョン攻略専攻チーム》に入ったことになっているのだから、やらないとダメなのか…………どうにかジミー、いやチャーリーに押し付けられないかな。
「あ、僕は別所で一通りの戦闘訓練を受けているんで、この子を集中的に見て上げてください」
はぁ!?!?
ジミー……!! この裏切者ぉぉ!!
「分かった、ではそこのピンク髪の女子はこちらへ」
「……はい」
屈強な男たちの中でもリーダー格と見える、輪をかけて屈強な先輩に呼ばれ、私はジミーを睨みつつ前に出る。それにも関わらず、ジミーはニコニコと手を振っていた。うぅ、ムカつく。
「名前は?」
「ミルフィ・クリミアです」
「俺の名前はゴライアス・リゴーラだ、よろしく頼む」
なんだろう、なんかゴリラを連想するような名前の人だ。見掛けも相まってゴリゴリにゴリラだ。
「ではクリミア、これからお前のために初心者でも攻撃しやすい魔物を追い込む、クリミアはそれを攻撃してくれ」
「はい、でも何で攻撃すればいいのでしょうか?」
「得意武器は?」
「特にありませんが、魔法は簡単なものが全属性使えます」
「ほぅ、そうか。なら一度、メイスでも使ってみるか?」
「メイス?」
「これだ」
そう言って彼が武器置き場から取り出したのは、やや長さと太さのある鉄製の棒だ。先端には金属製の突起が付いていて、所々尖っている。
「確か戦棍とも言ったかな、これで敵を殴りつけるんだ」
棍……もしかして、これって棍棒ってコト!?
「あの……すみません、できれば魔法を補助してくれる杖とかが欲しいんですが」
「杖だといざという時、思いっきり殴れないだろう」
「いや、そもそも殴るというのがちょっと……」
「確かに、慣れないうちは戸惑うかもしれないな。特にお前のような女子はそうだ。だがいずれ気づくだろう、いざという時の物理打撃は最強だということに!!」
えらく熱が入っているが、一体何を言っているんだろうか、この人は。
「俺も普段は大剣を使っているが、拳も十分に鍛えてある。最悪、剣がなくなったとしても、最後の武器が一番身近にあるんだ……!!」
そもそも、武器がなくなる状況なんて想定したくないんですが……。
「だがお前のようなか弱い女子が、そこまで拳を鍛え上げるのも難しいだろう……だからせめて打撃用の武器は普段から使い込んで、慣れたうえで持ち歩いておけ」
「いや、ですから私は魔法をメインで使うつもりなので、杖を持たせて頂きたくて……」
「分かっている、魔法を補助する機能がある武器がいいのだろう?」
「あ、やっと分かって貰えましたか!!」
「今ここにはないが、クリミアのチーム加入記念で俺から魔法補助機能があるメイスをプレゼントしよう」
「……ふぁ?」
「これで、クリミアが懸念する問題を解決した上で、思う存分に打撃武器を使えるぞ!!」
「あの、その、えっと……」
「そんなわけで悪いが、今日のところは有り合わせのメイスで我慢しておいてくれな」
そうしてゴライアス先輩は笑顔で私にメイスを手渡した。
あ……逃げられない、絶対に打撃武器から逃がして貰えない流れだ!!
「クリミアの武器についての話も着いたところで、早速だが魔物を追い込んでくれ!!」
「うっす!!」
なにこの返事は、どっかの道場か何かかな? ……って、魔物を追い込む!?
私の返事を特にきかないで、もうなんか始めてるし勘弁してよぉ!!
気が付くと先輩たちが息を合わせて、何かしらの魔物を追い始めていた。きっとこういうことにも慣れているのだろう……そうして追い詰められた魔物は、真っすぐにコチラへと走り込んでくる。
サイズはイノシシくらいだけど、毛皮は苔むしたような緑色で、その姿はどことなくウサギに似ていた。牙も角もなく、小動物という印象の強いそれは、攻撃するのにやや躊躇してしまうような存在だった。
「アイツの弱点は火属性だ。射程距離に入ったらよく狙って、今できる最大火力で撃つように!!」
「は、はい!!」
ゴライアス先輩の声でピンっと背筋が伸びる。
そうよね、仮にも魔物なんだし、可愛く見えても危ないだろうから、しっかり攻撃しないとダメよね。
火属性、最大火力……でも今の私が使える火属性魔法は火炎球だけだから、相手が近づいてきたらこれを大きく、効果力で撃つイメージを……。
「っ!! 今だ、いけ火炎球!!」
私がしっかり魔力を込めつつ、最大火力で飛んでいく火炎球のイメージをする。そうすると確かに火炎球は今までにないほど大きく、そして高火力で、相手へと向かって飛んで行った。
「キェェェェェ!!」
それはたちまち魔物を包み込み、こんがりと黒い綺麗な丸焼きが出来上がった。
「おお、初めてにしては上出来じゃないか凄いぞ!!魔法の威力も初級のものにも関わらず物凄く強かった、これは将来が楽しみだな!!」
魔法って実践ではこんな風に使えるんだ。今までの自主練では、こんな風に全力を出すのは無理だし、動く的を使うのも難しかった…………これはこれで楽しいかもしれない。
「ゴライアス先輩、もっともっと私にも魔法を撃つ機会を下さい!! 色々と試してみたいんです!!」
「おおお、いいぞ新人、ならタイミングを作ってやるからやってみろ!!」
「はい……!!」
魔法を使った実践的な魔物の討伐、私が本当にするべきなのはこれだったのよ……!!
こうして私の青春は始まったのだった。




