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フィオ•アルケイデア

 家が没落した。フィオ•アルケイデア、十四年目の春のことである。

 フィオの家は古くからある名家、という肩書きだけが生き残った所謂没落貴族と呼ばれるものだった。贅沢などとは縁遠く、生活を切り詰めるのは当たり前。時代遅れのドレスを流行り物に見せかけるだけの裁縫の腕前はなく、結果独自にアレンジして夜会に乗り込んでは笑い者になるような、そんな日々を暮らしていた。

 家族にとって、フィオは家を建て直す道具だった。両親から情を与えられたことはなく、優良物件に見初められることだけを期待されてきた。そのためにそういう人が集まる日は彼らに好かれるように着飾られ、似合わない化粧を施された。次第に理想的な体型のためにと食事管理も徹底されるようになり、伽指南もみっちり行われるようになった。そうして最後には、最もお金を出したものに食べられるのだ。愛も恋もない結婚を強いられるのだ。出荷される家畜と変わらない。

 嫌だと悲鳴をあげる心はあった。夜会のたび引き合わされる男たちに値踏みされ、いやらしく触られるたび吐き気が込み上げた。腰を抱かれ、耳に口を寄せられ、際どい部分にお触りされるたび、泣き喚いてしまいたかった。

 それでもフィオは我慢した。それがアルケイデア家の者の義務だと思い込んでいたからだ。

 幸いないことに、十四になってもなお買い手はつかなかった。お世辞にも美しいとは言えない容姿のおかげだろう。

 腰まで伸びた髪は燃え尽きた後の灰の色で、老婆のくすんだそれによく例えられたものだ。翠玉を嵌め込んだような一重の瞳は、切れ長と言えば聞こえは良かったが、視力の悪さから相手を睨んでいるように見えてしまうのが難点だと散々親に詰られた。肌の色だけは透き通るように白く、我ながら美しいと思えるものだったが、血の色が透けて赤みがかかっているうえに、頬には数えきれないほどそばかすが散らかっていた。そこに貧相なスタイルが合わされば、平均よりちょっと下ぐらいの容姿の女が出来上がる。

 若い女だと侍らそうにも華はなく、褥で満足させられるだけの豊満な体もない。

 結果、没落する方が早かった。爵位は剥奪され、期待に応えられなかった娘だと路頭に捨て置かれた。娼館に売り飛ばされるかとも思っていたが、父も母もそこまで考えが及ばなかったらしい。

 とは言え、悲嘆に暮れたりはしなかった。常々やれ社交界だ自慢話だといった華々しい貴族社会に馴染めなかったフィオは、これ幸いと憧れのデザイナー、マダム•リナリーの許へ転がり込んだ。両親も誰も知らなかったみたいだが、フィオはもともと服飾の世界に興味があった。服が好きだと公言して憚らなかった。誰も聞いてくれなかっただけで。

 割愛。とにかく馬車で通るたび見惚れていたブティックの主人は、ちょうど雑用係が欲しかったと言って薄汚いフィオを快く住み込み従業員として迎え入れてくれた。

 それからの日々は、目まぐるしかった。最初は掃除、次に針仕事の手解きなど、順に仕事を教えてくれた。それだけでなく、デザインに興味を示したフィオに紙とペンを与え、好きに描かせてくれた。

 そこで新しい発見があった。フィオの絵の腕前はどうやら人並み以上だったらしい。発想も独創的だと評価され、気づけばマダム•リナリーを師として仰ぐ日々が始まったのである。

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