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幽霊少女  作者: 文室蓮
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幽霊少女との新生活

幽霊少女との生活が始まります!

現在時刻18時30分俺は部活を終えてやっと家に帰ってきた。汗だくなので早く風呂に入ることにした。


テニスと言う競技は未経験の人から、サッカーやバスケなどのスポーツより簡単で楽という風に見られがちだ。しかし、それは大きな間違いである。


はっきり言って、テニスは他のほとんどのスポーツよりもきつい。まず、チームプレーなんてものはダブルスでもない限りないので基本的に1人で戦う。なので得点も失点も全て自分の責任だ。そんな競技なので、選手にかかるストレスは尋常ではなく、プロテニス選手が試合中にラケットを叩き壊す動画なんかはYouTube上にたくさん転がっている。


更に相手から打たれて自陣コート内に落ちたボールは、どんな状況でもワンバンで打ち返さなければならない。ツーバンになると失点だ。なのでコート内を縦横無尽に走り回れる無尽蔵の体力と、どんな状況でも打ち返せる技術、そしてフィジカル、それに加えて先ほど述べた通り、どんな状況でもメンタルを安定させる力が必要なのである。


なので練習はかなりきつい。馬鹿みたいに走らされるし、週に6日あって休みは平日のみというふざけた日程だ。


だから俺はこんなにも疲れているのだ。しかし、それとは別に対処すべき問題がある。そう雪のことである。


雪は俺との再開を果たしてから、ずっと俺と行動を共にしていた。授業中は俺の隣で授業を聞いていたし、部活中も終わるまで待ってくれていた。…なんか思い出すと彼女みたいだな。


そして、電車に乗っていつもの駅に着いてから、帰路の途中で


「これからどうするんだ?」


と聞いてみた。すると雪は


「私のことが見えるのはケイちゃんしかいないから、これからはケイちゃんと一緒にいようと思ってる」


と言ってきた。正直嬉しい。例え幽霊だとしても雪が俺にとっての初恋の相手であることに代わりはない。しかし、本当にこれで良いのだろうか。


幽霊が現世に残るというのはあまりいいことのようには思えない。そういうときは大抵、幽霊は現世に対して未練があるのだ。


もしかして雪にもなにか未練があるのか?


いや…考えても仕方がないな。


そう思った俺は39度の熱い風呂に肩まで浸かった。


◇ ◇ ◇


風呂から出た俺は体を拭き、ドライヤーで頭を乾かしてから服を着た。


我が家は少し特殊で、いつも風呂に入ってから晩御飯を食べる。


今日の晩御飯は母特製オムライスだ。母特製とは言うが、特殊な製法もなければ、珍しい食材もない普通のオムライスである。だが、俺はこのオムライスがとても好きだ。子供の頃から食べているからだろうか?俺にとって安心する味だ。


母と俺と妹の3人で食卓を囲む。父はまだ仕事中である。サラリーマン戦士として今も終わらぬ仕事と戦っているのだ。ありがとうお父さん。その後、食事を終えた俺は2階の自室に入る。


すると雪が俺の椅子に座って本を読んでいた。ドアを開けた俺に気付いてスッと本を下げ、俺の目を見た。…かわいいなこいつ。そう思った瞬間、雪の表情が緩んだ。


「はぁ~やっと話せるよ」


椅子にだら~っと座った雪は少し疲れているように見えた。幽霊にも疲れはあるのだろうか?


「まぁでもとりあえずここなら話せるよね~」


雪は嬉しそうである。


「いやーすまんな。雪が周りの人から見えないからさ、俺が虚空に向かって話しかける変人扱いされちゃうのよ。だから申し訳ないけど他の人がいる間は話すのは難しいんだよな」


「まぁ、それは仕方ないじゃん?私としてもケイちゃんが変人扱いされることは望んでないしね~」


雪は俺をフォローした。


…雪と会ってから考えていたことなんだが、なんか精神年齢高くないか?多分、幽霊になってから色々なところを徘徊していた影響なのだろうが、小学5年生の見た目で高校生のように振る舞われるのはなんだか違和感がある。


そんなことを考えていると雪が話しかけてきた。


「そういえばケイちゃん引っ越したんだね」


「あ~そういやそうだな」


そう実は雪が引っ越した少し後に、俺も引っ越したのである。しかし引っ越したと言っても通う学校は変わっていない。なぜなら近場に一軒家を建てたからである。


引っ越した理由は確か…なんだったかな?…子供の頃のことなので詳しくは覚えていない。


雪と俺が住んでいた部屋はもう別の住人が住んでいる。なんだか悲しいなぁと感傷に浸ってしまう俺である。


「まぁ、あの頃から結構経ってるし色んなことが変わったよ」


「そうそう変わったと言えば夏帆ちゃんだよ」


夏帆とは俺の妹のことである。俺の2個下で現在は中学2年生。短くサラサラなショートカット(ボブ?とかいう髪型らしいのでショートカットと呼んで良いかは分からない)とその端正な顔立ちは彼女がクラスの中心人物であることを象徴するかのようだ。


因みに夏帆はかなりモテるらしく、俺が中学生のときには、知らない後輩男子君に夏帆の連絡先を聞かれて困ったものだ。


本当に自慢の妹であるが、絶賛反抗期である。昔の可愛さはどこへやら?最近は顔を会わせるだけで舌打ちされる。いや俺はなにもしてないからな。本当だぞ?


雪と夏帆は子供の頃に俺も含めた3人で頻繁に遊んでいたので、それで覚えていたのだろう。


「久しぶりに見たら、さらに可愛くなっててビックリしちゃってさぁ~」


「まぁあいつは元が良かったし、なにより俺の妹だからな」


雪は自慢げな俺に対して疑いの目を向ける。


「ふーん。そう言うケイちゃんはさぞおモテになるんでしょうねー?」


上目遣いになって聞いてきた。可愛い。


「それ聞いちゃうかぁ~?まぁ俺のモテ伝説を聞かせてやるよ」


「おー」


パチパチと拍手をする雪だが、確実に本気にしていない。何だか声に覇気がない。なのでそんな雪を驚かせる衝撃のカードを場に召喚する。


「聞いて驚け!なんと!小学6年生のときにラブレターを貰ったんだ!」


「えっ…本当に…?」


さっきまで微笑んでいた雪の表情が固くなった。


驚いているなぁ。だが!俺のバトルフェイズは終了してないぜ!トラップカード発動!


「まぁそのラブレターはドッキリだったけどな!」


そう実はトラップを仕掛けられたのは雪ではない。俺だったのだ。


…なんだこのオチ。


「ドッキリで告白されたの…?」


雪は正気か?というような顔をしている。そうだよな。まぁそう思うよな。俺も思ってる。そのせいであの頃からちょっと女子が怖いもん。


渾身の自虐ネタを決めたが、雪の反応は俺の想像していたものとは違った。大体これを話すとほとんどの人は慰めるか、笑ってくれるかの2択である。しかし雪は怒っているように見えた。やべ、話題を間違えたか?


「あ、あの雪?」


俺の声かけに雪はハッとして顔を上げる。


「あ、ごめん。その…ケイちゃん大変だったんだね。」


「まぁな、でも俺はもう気にしてないよ。何年も前のことだしな。それに今じゃ良い話の種をくれて感謝してるくらいだよ」


「そっかぁ。ケイちゃんは強いね」


雪は少し感心しているのだろうか。先ほどの怒っているように見えた彼女ではなくなっていた。


「あの因みに…モテ伝説とやらはもう終わりですか?」


「…いやぁ、はいそうですね…」


「ふーん…」


そう言った雪の表情に少しだけ笑顔が混じったように見えた。


「なんだよ。俺がモテないと嬉しいのかよ?」


彼女は俺の質問に表情を変えずに答える。


「うん。まぁそうだよ~」


砕けた声色で彼女はそう答えた。


いや、やめてくれよ。俺がモテないと嬉しいとかもうそれってさぁ…もうさぁそういうことじゃん?いやいや駄目だ。絶対に思い上がりだし、見た目が小学生の女の子に対してこんな邪な心は持っちゃいけない。


そう俺は心に決めた。


それからも俺は雪と会話をし続けた。今までの空白の時間を埋めるように、お互いの今までのことや、楽しかったこと、最近の悩み事まで色々と話した。


話してみて分かったのは、雪には水も食事も睡眠さえも要らないらしい。それらをしなくても幽霊として生きることには何の支障もないとのことだ。


まぁだからこそ誰からも認知されなくとも、1人でも生きてこれたのだろうが…


そして散々話すと、気付いたときには遅い時間だった。なので俺は寝ようと思い、布団で横になる。すると雪は布団がないので俺の布団に入ろうとしてきた。流石にそれはまずいということで雪にその意思を伝えた。すると雪は、


「冗談だよ。そもそも私寝なくていいしね~」


と、はにかんだ笑顔で言う。その言葉に安心した俺はそのまま眠りについた。


◇ ◇ ◇


ピリリという音がした。いつものアラーム音だ。俺はその音を消そうと、まだ眠たい目を擦りながら起き上がる。しかし、違和感があった。起き上がった瞬間俺の目に飛び込んできたものは雪だった。いや雪そのものは普通だ。昨日と同じ黒髪のロングだ。そう雪自身はおかしくない。


おかしいのは雪のいる場所である。雪は俺の隣で寝ていた。すぅすぅと寝息をたてて、まるで天使のような寝顔だ。


…えっ?いや?えっ?雪さん?いやこれは駄目だろ。理性が壊れるほどの可愛さだ。本当に犯罪的。しかし、俺は決めた。もう邪な心は持たないと、そう誓ったのだ。


その意思を確認した俺は、雪を起こそうとして揺さぶった。すると雪は「ん~」とか言いながら起きてきた。可愛い。


「おはようケイちゃん。いい朝だね」


雪は、はにかみながら朝の挨拶をしてきた。可愛い。


「いやちょっと待て」


冷静になった俺はそんな雪に待ったをかける。


「ん?どうしたの?」


雪はちょっと呆けた感じだ。それに対して俺は至極全うな質問をぶつける。


「あの、何故に俺の布団で寝てるんです?」


「えっ?いや~最初は起きてたんだけど、電気つけれないから本も読めないし、暇になっちゃってさ、だからまぁ…ね?」


彼女は手を合わせてあざとい表情で許されようとしている。ごめーんねとでも言うのだろうか?


いやしかし真面目な話、ここはこれからのためにも注意すべきな気がする。そうだ少しだけ厳しくしよう。


「何がまぁ…ね?なんだよ。マジでビビったからな。というか睡眠は必要ないんじゃなかったっけ?」


「あー必要はないよ。でも睡眠を取ること自体は出来るの。だから…ね?それに幼馴染みだからさ?ね?良いでしょ?」


その時俺の中である仮説が生まれた。


もしかして、雪は純粋な気持ちで俺の布団に潜り込んで来たんじゃないか?それなら雪が100%悪いとは言えない。


雪にとって、俺が寝ている時間は暇以外の何物でもない。だから俺の布団に入ってきた。子供が親と寝るようなものだ。他意なんてあるはずがない。


これは冷静になって考えると俺のミスじゃないのか?雪の立場に立って、しっかりと考えていなかった俺の落ち度じゃないか?


「…分かったよ。寝てる間できることを用意しなかった俺の責任でもあるからな」


俺は渋々彼女を許すことにした。


「やった!」


雪は許された喜びから胸の前でガッツポーズをしている。しかし、言わなければならないことがある。それは今後の俺たちのためでもあるんだ。俺は覚悟を決めて雪と向き合う。


「ただし、もうこんなことしてはいけません」


そう言った俺に雪は食いついてきた。


「なんで!?別にいいじゃん!?幼馴染みだし!」


「幼馴染みは免罪符じゃないぞ」


俺は雪の謎理論を一蹴した。


雪には俺のこともちょっとで良いから考えて欲しい。初恋の相手が同じ布団で寝ていたときの男子高校生の気持ちってやつをな。


すると、雪は申し訳なさそうに、それでいて心配するような表情になる。


「あ、あのさ…もしかして、わたしと同じ布団で寝るのいやだった?」


なんかめちゃくちゃ勘違いされていた。


「いや違う。そういうことじゃなくて…えっと説明が難しいな。そのだな?まず分かって欲しいのは、俺は雪と寝るのがいやだったとかそういうことじゃないってことな」


「そ、そうなんだ…本当に?」


「それはマジで本当」


雪は今までで一番心配そうな顔をしている。何とか分かって貰わないとまずい。


「それなら何で駄目なの?」


雪は疑問をぶつけてきた。これにしっかりと答えられないと雪の好感度が駄々下がりになる。そう思った俺は弁明を開始した。


「いや、あのな、一応俺はもう高校生だしさ、恋仲でもない女子と一緒の布団で寝るっていうのは、その…良くないと思うんだよな」


「あ~そういう…でも、私たち幼馴染みだよ?」


雪はまたもや幼馴染みを免罪符に使おうとしている。


「幼馴染みでも駄目じゃないかな?」


それ対して俺は当たり前のことを言って対抗する。


「それに私幽霊だよ?」


幼馴染みは免罪符理論を否定すると雪は次の理論を立ててきた。


「そもそも幽霊である前に霙川雪っていう一人の女の子だろ?」


僅かに間を置いてから雪は納得したように返事をする。


「そういうもんなんだ…」


「そういうもんなんだよ」


理解してくれただろうか?はっきりと初恋の相手だから駄目だと言うのは簡単ではないのだ。頼む分かってくれ。


「まぁ私もこれからは気を付けるよ。ごめんね」


雪に俺の願いが届いたらしい。いやー良かった…いや良かったのか?だってさ、これって俺が認めてたら、これからも雪の寝顔が見れたってことだよな?…あれ?俺もしかしてめっちゃもったいないことした?


「あ、あのケイちゃん?」


アホなことを考えていると雪が話しかけてきた。


「でも私さ、寝る以外にやることが何にもないしさ、時々なら良いでしょ?」


上目遣いで首をかしげながら可愛く頼んでくる雪に、俺の固い意思は折れそうである。


「う~ん。まぁ少しなら」


やっべ言っちゃったよ。


「やった!」


雪は本当に嬉しそうにはしゃいでいる。


…どうしよう許可出しちゃった。でもしょうがないと思う。こんなこと言われて、断れる男がこの世にいるのか?いやいない。だからしょうがないのだ。それに俺にも非があった。そもそも俺が頑張れば良いだけの話なんだ。だから頑張ろう。


すると突然


「慶太~起きなさ~い」


という母さんの声が聞こえてきた。雪と話しすぎてしまったようだ。俺は雪に「ちょっと待っててね」と言って、朝の準備をするためにリビングへと向かった。

読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。

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