変わる表情
林を迷いに迷った結果、結局街へ続く道は見つからなかった。時間は流れ、体力は奪われる一方だった。今頃城では彼らの存在がないことに気付き城中を探し回っているところだろうか。しかし、彼らは城の外にいるため見つかるわけがない。彼らは休憩しようと腰を下ろしたとき、横笛の音色と女の人の歌声を聞いた。その音たちを頼りにそっと音たちの発信元を見つけた。星のようなクリームイエローの髪の少女が目を瞑りながら、優しい横笛の音色を奏でている。そして、空のようなスカイブルーの髪の少女がその横笛の音色に合わせて透き通る氷ような美しい歌声を出していた。そう、スピカとクレアだ。時々開かれた瞳は今までにないほど美しい宝石のような瞳をしている。彼女達の目が合うとお互いそっと微笑む。その微笑みまるでは天使のように思えた。彼らは彼女達にもう釘付けだった。それと同時にあの子が欲しいと思った。すると、フィンセントが疑問を覚える。
「あの歌っているほう、何で騎士っぽい服を着てるんだ?一応ドレスのようなスカート部分はあるが。」
「護衛じゃないんですか?もしくは服の趣味とかですよ。ドレスが嫌いとか。」
彼らは歌や演奏を遮らないように小声で話す。
「ドレスが嫌いな女がいるのか?」
スピカはふわふわのシャンパンベージュのプリンセスラインのドレスを着ていた。その逆にクレアの服装はフリルブラウスに袖はアンガシャントになっている。そして、髪と同じ淡いスカイブルーのマントを纏っている。フリルブラウスの中心にはモーヴ色のブローチをしている。フィンセントにとってこのモーヴの色はとても大切な色なのだ。話しは戻し、クレアの服装のスカート部分は円錐状に大きく広げ、中央とサイドの生地に分けていて、その間からスラっとパンツが見える。よく見ると腰には剣をぶら下げている。しかも、本物の護身用の。護身用の剣もかなりの重さだ。それを女が持つなんてとたくさんの疑問が生まれる。フィンセントが考え込んでいると隠れていたことを忘れて、目の前の草むらに音を立ててしまった。
「そこにいるのは誰だ!姿を見せろ!」
クレアの威嚇に驚くルーズベルトとフィンセント。声からすると相当彼らに敵視が向いていると思いクレアたちの前に姿を見せた。恐る恐る姿を見せても、クレアの防御体制は崩れることはなく逆にその剣に魔力であろう物を纏い始めた。ルーズベルトと共に腰に下げている剣をその場に投げ捨てた。ルーズベルトと名を名乗ると彼らのことを知っているためか、膝まづき謝罪をした。彼女たちが「グレイシア」と「スピアナ」と名乗り道を案内してくれることとなった。ルーズベルトはスピカに興味があり、クレアに唾を付けられたがスピカと仲良くしていた。一方クレアはずっとスピカとルーズベルトのほうを眺めていた。最初は警戒が多かったが、今では2人に釣られて優しく微笑んでいる。しかし、その瞳には微かに寂しさを感じる。その寂しさの拠り所がフィンセントの元だと嬉しいと思うフィンセントであった。
「君はそんなふうに笑うんだな」
つい、フィンセントの心の声が漏れた。
「え、申し訳ございません!気に触りましたか?」
「あ、いや、いい。」
クレアはフィンセントの気に触れたと思い誤ったが、フィンセントはコロコロ変わるクレアの表情にだんだんと心惹かれていたのだ。林を抜け、フィンセントはふとクレアの怒った表情が見てみたいと思った。ポケットから金貨を3枚出しクレアに渡す。
「お礼。これで、女子力でも買えば?」
内心そんなことは1ミリも思っていないが、怒った表情を見るためにわざと嘘をついた。案の定クレアは怒り出し、右手に魔力であろう物を貯め、そこに出来た雪玉を投げようとしていた。フィンセントは焦る様子もなく逆にクレアの怒った表情を見れて嬉しそうだった。なんなら、その雪玉も受けるつもりでいた。しかし、それは当たることはなかった。