恋する乙女
クレアは枝からルールーの手綱を解き、スピカを馬に乗せ歩き出そうとした時、
「グレイシア嬢、その手綱僕に引かせてくれませんか?」
「皇子様にそのようなことをさせるわけにはいきません」
ルーズベルトの問いかけに歯向かうようにクレアは言う。
「僕がしたいのです。それにスピアナ嬢とお話しをしてみたいので」
クレアは悟った。ルーズベルトは明らかにスピカに好意があると。仮にもクレアも王族だが、今は公爵令嬢の身。これ以上逆らってしまうと国同士の関係に関わってしまうと思い手綱を渡すことに決めた。
「承知いたしました。ですが、主人様に危害を及ぼそうとするなら皇子とは言えど遠慮は致しません」
少し脅しを入れ、渋々手綱をルーズベルトに渡した。
「スピアナ嬢ですよね?とても綺麗な瞳をしていますね、まるでペリドットのようです」
「ありがとうございます、皇子。もしよろしければスピアナではなく、是非スピカと呼び捨てでお呼びください」
ルーズベルトの表情が一気に明るくなった。相当嬉しかったのだろう。
「では、僕のこともルーズと呼んでください。スピカ」
「はい!」
スピカとルーズベルトの周りにお花が舞っているようにクレアは見えた。おそらく2人は両思いだろう。スピカを見つめるルーズベルトの瞳はとても愛しい人を見つめるような優しい瞳をしている。スピカも頬をほんのりと赤くしていてどこからどう見ても恋する乙女だ。初めてみるスピカの表情にほんの少しばかりの寂しさがあるが、スピカの幸せとスピカの恋にショックを起こすであろうノエルとトパーズ公爵の顔を想像し、クスクスと笑った。
「君はそんなふうに笑うんだな」
今まで自分の名前を名乗る時にしか喋らなかったフィンセントがクレアに向かって喋りかけた。
「え、申し訳ございません!気に触りましたか?」
「あ、いや、いい」
フィンセントの返答に顔を顰めるクレア。それからも無言の時間が続き林を抜けた。すると、急にフィンセントが服のポケットから金貨を3枚ほどだし、クレアに渡した。
「お礼。これで、女子力でも買えば?」
ククッとまるで魔王のような笑いをし、馬鹿にするような言い方をされ、クレアの右手に魔力が貯まる。それに気付いたスピカが止めに入ろうとするがルールーに乗っているため止めに行くことが出来なかった。右手に出来た雪玉を投げようとしたその時、その右手を誰かに止められた。