焔に祈る
オムライス屋さんを出て気分が落ち込んでしまったクレアをサファイア邸まで送り、スピカもトパーズ邸に送り届けた所だった。帰り道、リーフをエメラルド邸に送るべく2人で道を歩いていたがリーフの足取りが重かった。クレアがアルベルトに気に入られてしまった事を知り、それを伝えてしまった罪悪感があるのだとノエルはすぐに分かった。
「、、、送ってくれてありがとう。また、後でな」
リーフの口が重いのは見ててすぐに分かる。ノエルは後ろを向いてエメラルド邸に入るリーフの腕を掴み引っ張る。
「おい、どこに行くんだよ」
「俺の屋敷」
ノエルはリーフを引っ張りノエルの屋敷ルビー邸に入っていく。
「おかえりなさいませ。坊ちゃん、リーフレット様」
ルビー邸に着くやいなやノエルの侍女ラーナが出迎えてくれた。
「お茶を用意してくれ」
ノエルの指示でラーナは一礼して離れていく。ラーナが離れるとまたノエルはリーフを引っ張りノエルの部屋まで連れて来られた。そのまま赤いソファに座ってしばらくするとノック音が聞こえて扉を開けるとティーセットを持ってきたラーナが来ていた。ラーナからティーセットを受け取りノエルは着々と準備をする。ティーカップに注がれた紅茶は海のような美しい青色だった。
「、、、綺麗な色だね」
「姉ちゃんから貰ったんだ、クレアみたいって言ったら分けてくれた」
ノエルが「クレア」という名を出すと紅茶を見て笑っていたがまた顔が戻ってしまった。
「、、、そんなに罪悪感があるんならなんで言った?クレアの悲しむのを分かってて言ったんだろ?」
リーフはノエルに注いでもらったカップを持つ手が止まってしまった。
「、、、、、、。分かってた、クレアが1番聞きたくない事だってこと。でも、俺だけがこの事分かったままパーティーに参加することなんて出来ない!」
リーフはズボンを強く握った。
「、、、俺は何もあの時何も出来なかった。城の者たちが警戒していたのはノエルだけ。だったら、俺が何かするべきだった。写真を奪ったり、クレアの嘘の悪評を言って興味を無くしたりと。でも、出来なかった!」
「、、、」
リーフは目に涙を溜めている。ノエルはリーフの話しを聞きながら優雅に紅茶を飲んでいる。
「、、、悔しかった。肝心な時に限っていつも何も出来ないで終わる。クレアの笑顔を守りたかった、幸せになって欲しかった。もう、あんな悲劇を繰り返したくなかった!」
リーフの言葉にノエルはティーカップを置く。
「じゃあ、何故希望を捨てるんだ?」
ノエルの言葉にリーフは下げていた顔を上げた。涙も止まっていた。
「え?」
「そうだろ?兄ちゃんの言葉はまるでもう助ける術がない、もう詰みって言ってるようなものだぞ」
ノエルは大きなため息を吐き、リーフの胸ぐらを掴んだ。
「希望を捨てんじゃねぇよ!少しでも希望があれば挑戦する、希望がなかったら作る!俺らが信じなくて誰が信じるんだよ!そのための俺たちだろうが!」
ノエルの顔は怒っているのではなくとても悲しそうだった。
「、、、俺だって悔しかったさ。あの時どことなく気配は感じていた、まるで監視されているような。でも、それがクレアの事についてなんて検討も付かなかった。、、、あの時俺がトイレに行かなければクレアは悲しむ事はなかった、俺のせいでもあるんだ」
ノエルはそっとリーフから手を離す。
「1人で抱え込むな。そのための俺らだ、きっと姉ちゃんもそう思ってる。どうせ、今も聞いてるだろ」
ノエルたちはスピカの耳の良さ、聴力の凄さいやヤバさを知っている。どんだけ距離を離れていてもどれだけ小声でも聞き取ってしまうのだ。
「そうだね、きっと聞いてるよ。ここに居たらきっとビンタでも喰らったかもね」
「絶対痛いだろ、それ」
ノエルはスピカのビンタを想像して、クスクスと笑った。
「、、、あれも使う時が来たんじゃないか?」
ノエルの言うあれはおそらく魔薔薇の事であろう。
「ギリギリまでは使わないでおきたいけどね。最悪の場合は使わざる得ない時もあるだろう」
魔薔薇はリーフが作った特別な薔薇の花。薔薇自体に魔法が宿る。そのため、色が変わる以外にももう一つ使い道はあるが、出来るだけ魔黒鳥のための切り札に使いたいとリーフは考えていた。
「婚約破棄が上手くいくとは限らない。上手い話には必ず裏がある。クレアもそんな簡単にはいかないだろう」
「俺たちも王族だけど、今は公爵の位。ああいう高貴な身分な人は下の身分な人に指図されるのを嫌う。アルベルトなんていい例だと思うよ」
リーフの考えにノエルも頭を抱える。あの性格上、自分の身分を盾にして色んな事をやりかねない。下手に断り、変に反発すれば大変な事が起きるであろう。
「あの我儘小僧が。成人しても精神年齢はガキだな」
「ノエル。それ絶対に本人の前で言うなよ?」
ノエルは鼻で笑い再び紅茶を飲む。ノエルは紅茶の無くなったカップを崇めて再び紅茶を注ぐ。今度はそこにレモンを入れる。すると、海のような美しい青色から宇宙のような美しい紫色に変わった。
「この紅茶の名前はバタフライピー。レモンに含まれる酸が反応して青から紫に変わる」
ノエルは急に紅茶について語り出す。ノエルはそこまで紅茶に興味がない。なんなら紅茶の知識の知文字も知らないくらいだ。なのに急に語り出したため、リーフは驚いて口を開ける。
「、、、少しの努力が未来を変える。結局、パーティまで何も出来なかった。でも、まだ間に合う。俺らはクレアをまだ助けられる」
ノエルの言葉にリーフは目付きが変わる。
「俺、ずっと考えてたんだ。おそらくすんなり解消とは行かない。行かないとすれば原作通りの死刑。もしくは国外追放、位の剥奪、、、。平民暮らしに戻るのも悪くないかもね」
ノエルは大爆笑していた。
「そうだな。自分たちで野菜育てて、単発の仕事を掛け持ちしてお金稼いでさ。のびのびと暮らすのも俺は好きだぜ」
ノエルもリーフの意見に賛成している。つまり、クレアと共に罪を受ける覚悟を決めたのだ。
「あ、二人は死ぬなよ。俺は、毒を飲んでクレアの後を追う」
「はぁ?何言ってんの?俺が逝く。俺が出来ると思うか?兄ちゃんが死んだら魔黒鳥の計画を誰がすると思ってんだよ」
二人が見つめ合う。すると、窓を叩く音がした。ノエルが窓を開けると、電気を纏った鳩、電鳩が手紙を加えていた。ノエルは電鳩からそっと手紙を受け取ったが、電鳩の纏っている電気が触れバチっと痛そうな音がした。ノエルも声を殺ししていたがとても痛そうだった。指を摩りながら手紙を開けた。
私、住むなら花畑の近くがいいなぁ。紅茶やジャムとかいっぱい作れるわ。晴れた日には皆でピクニックしましょ!
もう、勝手に決めないで!戦闘力の高い2人が死んでどうするのよ!私が一緒に逝くわ。
お兄様。1番上だからってダメよ、私だっていつでも力になりたいのだから。
たった数行だけど、この送り主はノエルは一瞬で分かった。送り主スピカも同じで共に罪を受ける覚悟をしていた。手紙をリーフに渡すとその目には涙が溜まった。
「俺の考えは随分ちっぽけだったようだね」
「今気付いたのか、遅ぇよ」
ノエルは色が変わったバタフライピーを飲んだ。
「、、、ありがとう。よし!これで覚悟が出来た、急いで魔薔薇を用意しないと!時間に遅れるなよ、ノエル!」
リーフの表情はとてもスッキリしていた。ノエルはカップを持っていない反対の手でヒラヒラと手を振る。バタンっと扉が閉まると窓に近付き走って行くリーフを見るノエル。
「全く、世話の焼ける兄上だ」
息を吐き、窓に寄り掛かりながら目を瞑る。
『どうか、悪役令嬢がバッドエンドになりませんように。絶対にハッピーエンドに変えてみせるよ、クレア』
ノエルはいつも身に付けているクレアと色違いの赤いマントを靡かせながら部屋を後にする。ノエルの部屋に有るアンティークの3本腕の燭台はノエル達の思いを乗せてゆらゆらとそして、メラメラと燃えていた。




