薔薇に誓う
リーフはずっと研究室に篭り研究、実験を繰り返していた。そして、ある薔薇の花を開発に成功した。すると、コンコンというノック音と共にスピカとノエルがやってきた。
「お疲れ様。少し休んだら?ハーブティーとマドレーヌを持ってきたの」
スピカはハーブティーの入ったティーポットのティーセットと籠を持ってやってきた。籠から微量に甘い匂いがした。
「今日のマドレーヌはレモン風味なんだね」
「どうして分かるの!?わざと味言わなかったのに!」
スピカの驚き顔にリーフはくすくすと笑いゴーグルを取った。
「相変わらず、優れた嗅覚だな」
後ろから沢山の紙を持ったノエルがやって来た。
「あれ?クレアは?スピカのマドレーヌなんかクレアが1番最初に飛び付くだろうに」
リーフはいつも側にくっついているはずのクレアの姿が無く、また徹夜し過ぎて視界がぼやけたかと目を擦っている。
「クレアは、アクアくんの病院の付き添い。歩かないと身体が鈍るからだって」
本来、連絡があれば医師の方から邸に来るのが普通だ。だが、クレアの弟のアクアは身体が丈夫では無くすぐに体調を崩しやすいらしく寝たきりが多いらしい。でも、寝たきりは良くないので調子が良い時は病院に行く時は歩くようにしているらしい。クレアは心配性でアクアが執事のルークが居るとはいえ心配で必ず着いて行くのだ。まぁ、下兄弟が心配なのはよく分かるとリーフは首を立てにする。
「だから、これを持って来たんだ。、、、やっと、見つけたぜ。ヒロインのリーリア・シャーロットを」
沢山の紙の中の1番上からリーリアの情報が載った紙を見せた。すると、リーフとスピカの目が輝き出す。
「本当に!?これでやっとクレアの悩みの種が無くなるわ!」
研究室にある長机にティーセットと籠を置いたスピカがソファの前でジャンプしてる。よくその裾の長いベビーイエローのドレスで高くジャンプできるなぁとリーフとノエルは眺めていた。
「良かった、このままシナリオ通りに行ってくれたらもう婚約破棄まですぐだね」
「あぁ、でもこの世界では俺らがここにいる時点で世界は狂い始めた。シナリオ通りに行くとは限らねぇよ、兄ちゃん」
リーフたちは転生者。ここはリーフたちの前世で大人気だった小説「バラの約束」の世界。魔法が存在する国エルセノア。リーフたちの前世はごく普通の新人の社会人。前世の頃から仲が良かったリーフたちはたまたま同窓会の帰りで電車に乗っていた時だった。
『久しぶりに皆んなに会えて楽しかったね」
同窓会で貰ったお菓子を抱えて電車に座っているのは前世のクレア。
『1番誕生日早くて1番最初にお酒飲めるくせに飲まないなんてやっぱり1番子どもだな、って痛ぇ」
前世のクレアを煽り散らかしてめっちゃ痛いパンチを食らった肩に手を着いているのが前世のノエルだ。この2人は前世からこんな感じだ。
『電車なんだから、静かにしなさいよ。2人とも』
前世のクレアとノエルを宥めるのが前世のスピカだ。スピカはぼんやり外の景色を写真に撮っていた所だった。
『あんだけ飲んだのに全然酔ってないおまえが怖いよ」
座っている前世のスピカ見て吊り革にぶら下がっているのが前世のリーフ。前世のリーフはお酒が弱いのか顔が少し赤くなっている。
『そう?貴方が弱いだけなんじゃないの』
前世のスピカはおそらくお酒が強くザルである。
『そう思ってるのは君だけだよ、そうだよね?』
前世のクレアに声をかけられた人は読んでいた「バラの約束」の本から視線を外し目線を向ける。
『そうだね、でもそれは、、、』
一瞬の出来事だった。物凄い音と一緒に急に電車が右に傾いた。それの反動で割れて飛び散った窓や扉のガラス、曲がった手すり、上の荷物置き場も曲がったり、壊れている。最後に意識がぼやけて見たのは血だらけの前世のクレアとスピカだった。そして、今はリーフレット・エメラルド。エメラルド公爵の長男という程で生きてきた。本来なら、エルセノア王国、国王ウィリアム・ダイヤモンド・エルセノアの第一王子として育つ予定だった。生まれてすぐ魔黒鳥に攫われてたまたま助けられて今ここに生きている。6歳の頃にエメラルド公爵たちが自分たちが本当の子ではないという会話を聞き思い出した。そして、本来ならクレアが主人公であるでアルベルトと婚姻なるが原作を読んでとんだクズ野郎という事は理解していたし、出会うことさえなければ婚約はないと思ったがまさかのサファイア公爵が了承してしまいクレアとアルベルトが婚約者同士となってしまったのだ。若干シナリオ通りになっている。シナリオ通りといえば、クレアの名前のグレイシアの名前も原作通りだ。リーフたちの名は原作では公開されてはいなかったから特に違和感はなかった。ただ、問題は3つあった。現在、妹であるクレアの婚約破棄に魔黒鳥の件、そして
「おまえも転生しているんだろ。どこに居るんだよ」
もう1人の親友の存在だ。あの時一緒に死んでしまったのに1人だけ転生していない事はないとリーフは考えている。前世のリーフの1番の親友でいつも勉強ばかりだったリーフをいつも外に連れ出してくれた大切な存在だ。
「あいつも探そう、きっと居る。でも、まずはクレアだ」
ノエルはリーフの肩に手を置き我を戻させた。リーフが心配しているのと同じようにノエルもクレアが心配なのだ。
「そうだね、でもそんなにクレアが大事なら意地悪するの辞めればいいのに」
「それはノエルにとっては無理難題ね。ノエルにとっての唯一の妹、可愛くって仕方ないんだもんね」
スピカはクスクスと笑いながらティーポットのハーブティーをティーカップに入れている。ノエルは否定出来ず鼻で笑っている。ティーカップに注がれたハーブティーの香りは研究室中に広がった。
「いい香りだね」
「まだ、新しい茶葉らしいぞ」
リーフとノエルは匂いに連れられてソファに座る。ノエルも座ったと同時に紙の山を机にどさっと置いた。
「うふふ、そうなの。だから飲みながら、食べながら話しましょ」
スピカの合図でお茶会が始まった。
「よく、リーリアを見つけたな」
「ルビー家の情報管理舐めんな。時間かかったけどな」
ノエルはスピカのマドレーヌを食べながら、紙を眺めている。すると、ノエルの手が止まる。舌舐めをして少し考えた素振りをする。
「、、、はちみつ入れた?普段は水あめなのに」
「頂き物のはちみつなの、、、ってだからなんで分かるの!?」
スピカはマドレーヌは普段水あめを入れるがはちみつを入れたことに気付かれて驚きカップからハーブティーが溢れそうだった。
「人のこと言えないよ、ノエルの味覚の異常さ」
リーフはやれやれという表情をしながら資料を見る。
「まだ、平民なのか。そろそろ会う頃って所か?」
「あぁ、近々会うらしい」
ノエルはもう資料を読んだのか足を組んだ。
「そうそう一応、あれがさっき完成したよ」
リーフはそう言いトレーに入った一輪の白い薔薇を持ってきた。
「これ、普通の白い薔薇よね?」
スピカは白い薔薇をまじまじと見る。
「これはね、、、」
リーフが白い薔薇に触れると白い薔薇はたちまち鮮やかな緑色に変わった。
「え!?凄い!?色が変わった!マジックみたい!」
「マジック。魔法だな、兄ちゃん」
スピカやノエルは薔薇の色が変わり興奮している。
「種を少し弄ったんだ。俺らの魔力で反応するようになってる」
「じゃあ、私が触れば黄色、ノエルが触れば赤色になるの?」
スピカの質問にリーフは首を縦に振る。
「魔法を持たない人が触るとどうなるんだ?」
「色は変わらず白のままだよ」
リーフの返答にスピカとノエルは驚いてばかりだ。
「でも、リーリアが無事に会ってくれるならこれは要らなかったかもな」
リーフは白衣のポケットに手を入れて薔薇を眺める。
「まぁ、備えあれば憂いないしって言うし無駄ではないと思うよ」
「そうだぞ、あくまでそれはクレアのお守りなんだから」
スピカとノエルはリーフを元気付けようとする。リーフも自然と笑みを残す。
「そうだね」
「この薔薇の名前は何?」
リーフは目を瞑り考える。
「魔法を宿っているから「魔薔薇」。別名「インペリアル・ローズ」」
「インペリアルって皇帝って意味だよな」
ノエルは顎に手を付けてリーフに尋ねる。
「皇帝。つまり、1番上でありトップだ。あんなやつにクレアも王座も渡さない。魔黒鳥にも勝つ。最後に輝くのは俺、いや俺たちだ」
リーフは魔薔薇をスピカとノエルに突き出した。
「、、、力を貸してくれ、2人の力が必要なんだ。「この国の平和を守る」とこの薔薇に誓う。エルセノアの第一王子の名に掛けて」
長い綺麗な深いエメラルドグリーンの髪と白衣がたなびく。でも、そのカーマインの瞳には大地を照らす朝日のように強い意志が見られる。スピカとノエルは迷う事なかった。スピカは手を胸の前で絡めて床に座り、ノエルは片膝を床に着き手を前と後ろで揃える。
「はい、もちろんです。お兄様」
「主人、いや兄上の御心のままに」
3人の心は団結した。その数日、リーリアが死にクレアがスピカの家に凸るのはまだ先の話ではある。




