秘める思い
揺れる馬車の中フィンセントは手をずっと眺めていた。やっと想い人をこの腕に抱き締めることができた余韻に浸っている。それと同時に思うのはアルベルトへの怒りだ。
今回の目的であるアルベルトの婚約パーティーに参加をしている時、フィンセントの気は落ちていた。クレアに嫌われてしまったかもしれないという不安がフィンセントの胸を覆い隠す。ルーズベルトとのお揃いで差し色だけが違う王子のような正装を纏って居ながら1人だけ暗かった。
「大丈夫ですか?1人だけ暗いですよ」
ルーズが炭酸のブルーソーダを渡してきた。
「あぁ、なんとかな」
ブルーソーダの中には細かく刻んだパイナップルが入っている。フィンセントはブルーソーダを眺めていた。まるでクレアの美しい髪のようなブルーソーダに輝く瞳のようなパイナップル。フィンセントの表情はさらに曇る。
「グレイシア嬢とちゃんと話しましょう、きっと分かってくれます。もしかしたら、今日来ているかもしれませんよ?彼女は公爵令嬢なのですから」
フィンセントの表情が少し明るくなった。
「そうだな、スピアナ嬢にも会えるといいな」
フィンセントが笑いながら、ルーズを揶揄う。ルーズは顔を赤くする。
「うるさいですよ、少し外の空気でも吸ってきたらどうですか!」
少し怒りっぽいがこれがルーズの照れ隠しだ。フィンセントからジュースをそっと奪い背中を押す。フィンセントは笑いながら、マントをひらびかせてバルコニーで夜風に当たった。
「俺が愛しているのはクレアだけだ。きっと分かってくれる、いや分からせる。、、、大丈夫だよな、、、、、、兄ちゃん」
夜風に当たっていると、城の中が騒がしくなっていた。フィンセントが恐る恐る戻ると後ろの方にはスピカやノエル、リーフがいた。しかし、クレアの姿だけ居なかった。パーティーに参加をしていないのかと思ったがその考えは一瞬で消えた。
「貴方と結婚するくらいなら自ら死を望みます!」
フィンセントの愛するクレアだった。フィンセントはここでクレアはアルベルトの婚約者ということを初めて理解した。しかし、さほどショックではなかった。クレア自身が婚約を拒否しているからだ。まだ、フィンセントにのチャンスがある。そう分かるだけでニヤニヤが止まらない。周りが驚く中フィンセント1人だけ笑っている。すると、次の瞬間クレアの身体が宙に浮いた。違う、落ちているのだ。フィンセントは居ても経っても居られずどこぞの貴族なんかほっといて愛する人の身体を抱きとめた。
その後はフィンセントにとっては初めてのことばかり。クレアの水、氷系の魔法は見たことあっても、雷系や水に強い植物系、逆に弱い炎系、。本で読んだことはあっても実際には見たことはない。フィンセントとクレアを守ってくれたスピカの雷。兵士を一瞬で倒してしまったリーフの薔薇。アルベルトを一瞬で捉えたノエルの炎。全てがレベル違い。国同士が争ってでも欲しい理由を改めて理解した。エルセノア国王との会話でまさか彼らが血の繋がった正真正銘の兄弟というのを確信した。フィンセントの侍女のルチアから実は兄弟だとあの後聞かされ、人の見る目には自信があったフィンセントもこれだけは見破ることが出来なかった。そして、そのまま自分を偽らずに話し、お互いの不安が解決した。婚約をした時はフィンセントは物凄く嬉しかった。まさか、お互いが両思いとも思っていなかったのだから。でも、クレアの側にいるリーフとノエルはなかなか手強いと思っていた。まぁ、彼らにとって大事な妹であるのはもちろんだ。フィンセントは皇子とは言えど、普通の人間に過ぎない。しかし、クレアたちは魔法を使える特別な人間に当たる。大切な人を守りたいとは思うが力の差は一目瞭然。守るより守られることが多くなってしまうだろう。それに日頃からスピカとリーフを主人として守っていることもクレアが教えてくれた。それにノエルという同じ同等力を持つ相棒がいるということも。いつでも、クレアは自分の身を粉にしてもフィンセントを守り向くだろう。でも、たとえそんな力無くても自分でもクレアを守っていこうと誓った。他の人からすると騎士に見えるがフィンセントからすると世界一愛おしい姫なのだから。
馬車は城に着き、フィンセントはそのまま降りた。すると、ルーズがお出迎えをしていた。あの後、ルーズもスピカに婚約を申し込み承諾を得てトパーズ邸まで送ったところだった。しかし、ルーズの顔もどことなく疲れている。おそらく、フィンセント同様リーフやノエルに釘を刺されたのだろう。
「お疲れ、ルーズ」
「フィン君もですよ、お疲れ様でした」
お互い肩を抱き城に戻っていった。フィンセントは久しぶりにゆっくり眠れそうだと思い、夜空に浮かぶ月を眺めてた。




