クレアの欲しい物
馬車が城に着き、アンソニーのエスコートで馬車を降りる。
「お気をつけて、お嬢様。お嬢様なら、きっとできます。健闘を祈っております」
アンソニーは強くクレアの手を握る。
「ありがとう、いってきます」
クレアはアンソニーの手を離し、城へ入って行った
「グレイシア・サファイア、入場」
城の使用人の声で一気に城の皆の視線がクレアに向く。クレアが軽く当たりを見回すとリーフたちが先に付いていた。クレアはコツコツとヒールを鳴らし前を歩いて行く。大きな中央階段の前で足を止めた。中央階段の近くには驚いているルーズベルトの姿があったが、フィンセントの姿はなかった。すると、中央階段から階段を降りる音がして見上げると、左手の階段からアルベルトが歩いてきた。
アルベルト・エルセノア。現時点での王位継承権第一位を持つと言われている現国王の甥に当たる存在だ。なので実際は血縁関係はないとは言えないがあるとも言えない。ご自慢のアポロの髪は美しくセットされていてパールグレーの瞳は人を見下すように目を細めている。
「ようこそ、我が花嫁。さぁ、階段を上がれ」
「、、、はい」
『まだ、花嫁じゃないし』
クレアは内心イラッとしながら、中央階段を上がった。
「ほう、写真通り美しい。俺を示したオレンジの薔薇も美しい」
「、、、ありがとうございます」
『どう見ても黄色だろ。どこをどう見たら、オレンジに見えるわけ?!』
クレアのイライラは募るばかりだ。
「皆の者、今日は俺のために感謝する。我が花嫁に会える素晴らしい日。この日をずっと待っていた」
アルベルトの言葉を聞きたくなくて目線をリーフたちに向けると、リーフとノエルが怖い表情をして、拳を強く握っていた。スピカはまるでゴミでも見るかのような冷たい目をして持っている扇子を壊れる勢いで握っていた。
「夫婦というのはお互い助け合うもの。俺はクレアに我慢はして欲しくない」
『気安くクレアと呼ぶな』
「クレアが俺との婚姻を望まないのなら断ればいい。まぁ、断らないと思うが」
後半はクレアや耳が良いスピカなら聞こえているだろう。その証拠にリーフやノエルの表情が明るくなった。どれだけ、馬鹿なのだろう。アルベルトの事を知らない人からすればあたかも素敵な婚約者に見えるであろう。しかし、クレアは1ミリも思わない。こんなことを言うなんて、クレアたちにとってはチャンスでしかない。
「さぁ、君の気持ちを聞かせてくれ。俺と結婚してくれますか?」
『、、、初めて会って、しかも公開プロポーズまで。ここで言うしかチャンスはない』
クレアは覚悟を決めて答えを出す。
「では、正直に申し上げます。この結婚、、、お断りいたします」
クレアの言葉にざわつく会場の中。アルベルトもまさか断ると思って無かったのだろう、手は震えて顔が青ざめている。
「、、、はは。警戒心が強いと聞いていたがまさにそのようだな。何も怖がる必要なんてない」
「お断りします」
『誰が怖がるか。本気怒ったスピカ姉様の方が怖いっつうの」
クレアはニコリと微笑みながらズバッと断る。
「もしかして、緊張しているのか?皆の前で言った事に怒っているのだな」
「お断りします」
『お前の全てに怒ってるっつうの」
そう、スピカ達と考えた「何があっても拒否る作戦」をクレアは実施していたのだ。
「クレアの望む物。宝石やドレス、全てやるぞ」
「お断りします」
『輝く宝石も煌びやかなドレスも要らない。私が欲しいのは、、、』
そして、とうとうアルベルトがキレた。
「、、、なぜだ!未来の国王の妃になれるのだぞ!」
「いいえ、貴方は国王の器に相応しくない。学問や魔法について学んでいると思えば遊んでばかり。令嬢の方にしか優しくせず、子息の方には要らぬ罪を被せ、国民にも愛されていない貴方と結婚なんてこちらから願いさげです!」
クレアは言い切った。
「なぜだ、なぜこの俺が」
「貴方は私に言いました。気持ちを聞かせてくれとこれが私の気持ちです。それに貴方はまだ次期国王と決まったわけではありませんよね?」
クレアが大きな爆弾発言をする。再び騒ぎ出す城の中。やはり、公にはしていないのだろう。まだ、確定はして居ないのはもしかしたらクレアたちが生きているかもしれないと希望をかけているため仮になっているだけなのだ。
「なぜ、そのことを」
「私が知らないとでも?」
アルベルトが下を向く。髪のせいで顔の表情は分からなかった。
「、、、う、、、さい」
「はい?今なんと?」
クレアがそっと近付くとアルベルトが勢いよく顔をあげ、クレアの肩を強く掴んだ。
「、、、痛」
「この俺が優しく言ってやれば調子に乗りやがって。おまえは大人しく俺の言うことに従えばいいんだよ!」
アルベルトの目は怒りと殺意が混じっている。
「嫌です!私は貴方と結婚するくらいなら自ら死を望みます!」
『私が欲しいのは私の大切な人達と楽しい毎日を過ごせるそんな日常。フィンセント様にお相手様が居たっていい、時々お会いして元気なお姿を見られればそれでいい。それが私の欲しい幸せなのだから』
クレアの言葉を聞きそれが響いたのか肩の力を弱めた。すると、ずるずると階段の段差ぎりぎりまで押された。
「そうか、分かった」
アルベルトの言葉を完全に信じ込んでいこみ安心したその瞬間、アルベルトが再び顔を上げると、見たこともないぐらい殺意が篭った目をしていた。
「そんなに死にたいなら、死ねよ」
次の瞬間アルベルトがクレアの肩を強く押し、階段から突き落としたのだ。クレアは急なこともあり頭がそれを理解出来ず、受け身を取ることが出来なかった。
「「クレア!!!」」
「いやーーーー!!!」
リーフとノエルのクレアと呼ぶ声と悲鳴をあげるスピカの声が聞こえた。クレアの身体はふわりと宙を浮き、下へ落下する。
「お前が望んだのだ。恨むなら自分自身を恨むのだな」
『、、、私、死ぬんだ。もしかして、これがストーリーでいう死刑の所かしら。まさか、アルベルトによって殺されるなんて。屈辱だな、でもこれなら兄様たちを巻き込まないし、嫌な結婚生活も無くなる』
クレアは死に恐怖はなかった。上から見下しているアルベルトは「ふん」っと鼻を鳴らして笑っている。
『お父様。ごめんなさい、こんな親不孝者で。
アクア。身体には気をつけて。
アンソニー。今までこんな私に仕えてくれてありがとう』
クレアは落下していく中で目を閉じて大好きな人たちを思い出す。
『バーグマン先生や国のみんな。あぁ〜、こんな事になるならもっと会えば良かった』
魔法や攻撃は弾くが他は弾かないクレアの結界。クッションを雪に応用しても間に合わないしこの高さだ。助かる見込みがないとクレアも分かっていた。
『研究に没頭し過ぎて身体を壊さないでね、大好きなリーフ兄様。
あんまり小さい子をからかっちゃダメだよ、大好きなノエル兄様。
どうか、ルーズベルト様とお幸せに。大好きスピカ姉様。』
クレアの心に1番残ったのはもちろん彼らだった。
『シオン、私を見つけてくれてありがとう。髪飾り欲しかったなぁ。
お母様、私もそちらに参ります。たくさんお話し、聞いてくださいね。
フィンセント様、ずっとお慕いしていました。』
クレアは思いが届くように願った。
『皆に幸せを、私に安らかな死を。、、、、、、最後にもう一度フィンセント様に会いたかった』
クレアはそっと目を閉じた。すると、次の瞬間シオンの気配を感じた。薄く目を開けるとそこには赤い蝶が漂っていた。
「させるかよ!」




