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監査委員の公務の帰りに、太宰府天満宮の参道の土産物屋を覗く。
気になっている「ある事」の傍証を得る為だ。
子供向けの玩具も最近はかなりハイテクになってるようだ。
ティラノサウルス型の2足歩行タイプの地上ドローン。
簡易型コンピューターの組立キット。
そして……。
本当に「スーパーヒーロー」「スーパーヴィラン」が現われてから、逆にヒーローものの玩具は廃れた。
と言っても「一時期は」と云う枕詞が付くが。
でも、最近になって、再び売られ始めている。
その1つを手に取って、箱の説明書きを読む。
「レスキュー隊」が使う強化装甲服の装甲には、状況に合わせて表面の色や模様を変えられる素材が使われている。
例えば、災害現場では目立ち、そして「レスキュー」の象徴でもある明いオレンジ色になり、怪我人・病人を病院に搬送する際は病院に相応しい白に。
俺が手にした「レスキュー隊用強化服」のオモチャも、最近は、その機能を再現出来るようになっているらしい。
再び、ヒーローもののオモチャが売れるようになった、今、その「ヒーロー」は架空の存在ではなく、実在する「ヒーロー」になった。
しかし……。
「実在するヒーロー」のオモチャは有る。
確かに存在し、ここでも売られている。
にも関わらず……無い。
もし、特異能力者の存在が明らかになる以前の時代の人間に、「将来、本当にスーパーヒーローが現われて、そのオモチャが売られるようになったら?」と訊いた時に、訊かれた奴が、まず頭に浮かべるであろうモノがどこにも無い。
かつて「正義の味方」「御当地ヒーロー」の人命救助部門だった「レスキュー隊」のオモチャは山程有るのに……実在している「正義の味方」当人達や「御当地ヒーロー」そのもののオモチャは全く無い。
俺達は、無意識の内に、奴らが自分達を「ヒーロー」だと思っている……そう信じていた。「信じていた」事に気付かない程に自明の事だった。
だが……。
「正義の味方」と「悪の組織」は何から何まで逆だとするなら……俺達「悪の組織」が思い描く「正義の味方」のイメージは正しいのか?
奴らが真のヒーローだと思っている者達は、本当に奴ら自身なのか?