(2)
「お前の偽物だけあって、マヌケだな。GPSも隠しカメラも切ってねえ」
課長が携帯電話の画面を観ながら、そう言った。
「よし、この辺りだ。探せ」
変だ。
目的地への経路から少し外れてる。
しかも、わざと人通りが少ない場所に居るような……。
「あの……課長、それ、どう考えても罠……課長?」
あれ?
居ない。
もう、早速、やられたか……。
「いつの間にか消えた」どころじゃない。
奴の居場所の近くに来た途端に消えた。
瞬殺ならぬ瞬消えだ。
でも……。
次の瞬間、社用の携帯電話に着信音。
相手は……課長の携帯電話の番号。
『仲間の命が惜しければ……右の路地に入れ』
「へっ?」
逃げて「正義の味方」に全部チクれ。
俺の理性と勇気は……そう告げている。
しかし……俺は……どう転んでも……。
俺は……例によって、勇気ではなく弱気を振り絞り……路地に入る。
「命令通り、私の偽物の行動を阻止する」
「た……助けて……」
そこに居たのは……課長を裸絞にしている俺の偽物……。
やっぱりそうだ。
この馬鹿は……上部組織の幹部の「古川の偽物を止めろ」と云うのを……俺とは逆に解釈した。
俺は止めるべき偽物を奴だと解釈し、奴は止めるべき偽物を俺だと解釈した。
だが……。
「さぁ、仲間の命が惜しければ……潔く自決しろ」
「あ……あんた……何で、他の事は融通が効かないのに、俺を殺す事に関してだけは知恵が回るんだ?」
「よくぞ訊いてくれた。私こそ、生体強化歩兵大隊『万朶』の生き残りなのだ。人殺しはお手の物なのだ」
「へっ?」
「聞いた事ない? あの有名な『万朶』。知らない?」
「無い」
「俺達、有名じゃないの?」
「知らん」
「本当に?」
「どんな成果上げたんだ?」
「2個中隊半が……自称『正義の味方』の中でも、最強と言われた『羅刹天』『羅刹女』『ソルジャー・ブルー』『水神』『大元帥明王』『炎の天使』『太陽の鳥』『翠宝石の龍』のチームに挑み……」
なんだ、その「半」ってのは? しかし……どいつもこいつも「正義の味方」の中では伝説級の連中じゃないか。
「傷1つ付けられずに、2分で名誉の玉砕を遂げた。前日に古くなったマンゴーを喰ったせいで寝込んでた我々以外は栄誉ある軍神となった」
……。
…………。
……………………。
…………………………………………。
まぁ、問題は俺も課長もヒーローじゃないし……早い話が、この馬鹿でも、俺達を瞬殺出来るだろう、って事だが……。