調査
「誰かがやった可能性が高いってこと?」
「ああ。それもある程度金のある人物がやったということになりそうだ。魔石は国による専売で許可も必要だ。人を襲うためでも大金がかかるような方法はしないはずだ。」
俺は使用済み魔石のかけらをポケットの中にしまった。
「あの傭兵、信用できるかしら。」
さっきここまで呼んだ衛兵。彼らはとても信頼できる街の守り人などとは思えない。その態度や動き。茶色いの瞳からも覇気などは感じられない。
たとえこの件について衛兵に話したところで適当に流されてしまうかもしれない。そもそもある程度の地位や金さえあればまともに裁かれない可能性もある。
「俺がやる。犯人を探す。オルメタの目的は幸せを奪う者、貴族や王族を変えることだ。それなら殺人なども当然公平に裁かれる対象だと思う。」
「私もそう思うわね。レン。ただあなた、手から血が出てるわ。瓦礫を頑張ってどかしすぎたみたいね。はいハンカチ。」
あまり熱心に活動していたからか傷に気がつかなかった。手のひらに複数の傷がついていた。何かに引っかかったのだろう。ただ傷は指摘されてから気になるという厄介な特徴を持っていることが残念だ。
「ハンカチ?いや、これくらいなら大したことないしそもそもハンカチなら持ってる。」
「これは祝い品みたいなもの。いいから貰って。それとも私が手当てした方がいい?」
俺はハンカチを受け取り手に巻きつけた。白いハンカチで何か模様、いや見たことのない言葉のようなものが刺繍されていた。中央の花の刺繍はとても上手い。本当にそこに存在し、風が吹けばそれに合わせて揺れるかのような生命を感じる。
大したことのない傷ではあるが一応汚染対策くらいはしておくか。ハンカチで手を縛った。
「こんな綺麗なハンカチ本当にもらっていいのか?刺繍までされてるみたいな感じだけど。」
「ええ。構わないわ。ああそれとこの事件のためになるかもしれない資料があるわね。この街の領主とか大商人の情報が記されてるわ。」
すごいな、この秘密結社は。裏で準備を進めていたのだろう。俺が騎士として働いている間一度もオルメタなどの名前は聞いたことがない。確か六年前には国が「ノストラ・フィルジタ」とか言う秘密結社の解散を命じたという話を聞いたがほとんど問題も起こしていなかった結社ということでそれ以降ほとんど話は聞いていない。
この秘密結社もまだ行動は起こしていないのだろうか。
「とりあえずその資料は明日とある人が持ってくる。その人には絶対従ってね?明日の9時、ここに来れる?」
「ああ。わかった。明日の9時だな?」
俺らはしばらく小声で話した後解散となった。今日は本当に色々なことがあった一日だ。とりあえず今はオルメタで活動しながら自分に合った仕事をしていこう。
とりあえず騎士の頃に貯金していた金を使って教師でもやってみるか?教えたことはないが少なくとも一度見たものを覚えて伝えることはできる。
明日の誰かとは一体誰なのだろう。レイアが絶対に従ってといっていたから少なくとも地位の高い人なのだろう。
それにあの魔石。あれを持っているような人はおそらく廃墟街には住まない。
裏路地ではなく表の通りに住むはずだ。だがそもそも表の通りに住んでいる人はほとんど廃墟街には向かわない。なぜならあそこは危険だからだ。
だから廃墟街と表通りに住む人々は関わらないはずなんだ。何か恨みでもあったのか?
俺の家は一応表の通りにはある。まあ徴税人の家から離れたいということもあってかなり街の外れにあるのでそこまで家賃は高くない。
とにかく明日は遅刻しないようにしておこう。
俺はきっちり9時に家の前についた。高かった時計を買った甲斐があったというわけだ。鐘の音は1時間おきにしか鳴らないので遅れる可能性もある。
地下室へと続く階段を降りた。少しだけ緊張する。まるで何者かが俺のそばにくっついて不安の言葉を話しかけられているような気分だ。
扉の先に誰がいるのか。最悪レイアがいれば問題ないし、俺のことを話してくれているかもしれない
一応この間貰ったペンダントを持っておくか。そっとドアノブに手をかけた。もう片方の手はドアに当ててゆっくりと扉を開いた。
「誰もいないのか?」
部屋のテーブルには一本のろうそくが燃えている。
部屋には誰もいない。緊張しただけだったかと思うと俺い油断した瞬間俺は誰かに押し倒された。
地面に背中を打ちつけられる。苦しくて抵抗しようにも首を掴まれていて動けない上に声もあげられない。ろうそくの僅かな光で照らされたのは女性の姿だ。赤い髪と緑の瞳ではあるが全身から殺意剥き出しである。垂れた髪のせいで表情がよく見えないのが恐怖を加速させる。
「待って、待ってくれ。」
なんとか声を出そうとすると掴んでいる手の力をより強めた。このままでは喉が潰されかねない。この女性がレイアの言っていた奴のことなのか?確かに従わなければ殺されかねない感じはするが。
俺は右手に持っていたネックレスが遠くに飛んでしまっていることに気がついた。あれを見せれば納得してもらえる。後少しでチェーンに手が届くのに。
呼吸できないという異例の事態に全身が緊急事態だと言っている。どれほど手を伸ばしても届かない。
それに彼女に対抗しようにも力があまりない俺には彼女の腕を外すことはできない。ああ神よ憐れみは品切れですか?
仕方ない。もうやるしかない。俺は右手の指先に力を込めた。少量の水でいい。魔石が無くても多少なら魔法は使える。ただあまりにも少しなので日常では火打ち石代わりに火を出すくらいにしか使わないが。
「いいから手を離せ。」
絞り出した声に反応し俺の言葉に注意が向いたこの瞬間しかない。右手の先から少量の水を作り出した。彼女の瞳に入った瞬間、彼女の手の拘束は緩んだ。これなら抜け出せる。
何とか手を外して俺は拘束から逃れた。
俺はろうそくを手に取り前に出して女性に話しかけた。