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名前のない物語

人は見た目がどれくらい?

作者: 中田カナ

思いつくまま書いたので設定とかはかなりゆるめです。

私は学院で女子学生にとても人気がある。

学院の剣術大会では無敗を誇り、一挙一動に黄色い声援が飛ぶ。代々、国を守る職に就く家系なので、卒業後の進路希望は騎士団入り。

背は高くてスリムで手足も長め、動きやすさを考えて金色の髪はちょっと短めにしている。

学院祭の演劇では王子様役に選ばれ、生徒会に再演の要望が山のように寄せられた。他の学年の女子学生達からもファンレターが届き、いまや差し入れが来ない日はない。

そんな私を見て隣の席の幼馴染はため息混じりにこぼした。

「お前、男だったら文句なしだったのになぁ」

「言わないでよ。私だってちょっとそう思ってるんだから」



そんな私でも一応は乙女ではあるわけで、時には可愛い服を着てみたいと思うことだってある。だけど鏡の中の私はどう見ても似合っていなくて本当にガッカリした。だから私服はいつもシンプルなものばかり。

そんなささやかな愚痴をしばらく我が家に滞在することになった叔母にこぼしたら、

「あら、そういうことなら私に任せてちょうだい!次の休みに大変身させてあげるわよぉ~」

と、やたらとノリノリだった。

叔母は若い頃からセンスの良さで定評があったと母からよく聞いてはいた。でも、いくら叔母でも私を可愛くすることなんて不可能に決まってる。

そう思ってた。


「これでどうよ?!」

休日の午前中、叔母に捕まって服をあれこれ着せ替えられ、服が決まればお化粧もされた。

そしてなぜか長い黒髪のウィッグまで用意され、鏡の前に立った私はまるで別人だった。

落ち着いた色合いだけど、ほどよく可愛く、ほどよく上品なワンピース。レースもそう多くは使ってはいないけれど、いいアクセントになっている。

「貴女は間違いなく素材はいいんだから、あとはどう生かすかを覚えればいいだけよ」

私を見てニコニコする叔母。

「でもなんで黒髪のウィッグまで必要なの?」

「あのね、今日はいつもの貴女じゃなくて、別人になりきってみてほしいと思ったのよ」

「別人?」

「そうよ、今日は自分がいいなって想像する女の子になりきってみて。さ、私もこれから支度するから一緒に出かけるわよぉ~」

そう言って叔母はあわただしく私の部屋を出て行った。

残された私は鏡の中の自分を見つめる。今の私は長い黒髪の女の子。

そうだなぁ・・・こんな見た目だったら静かに読書するのが似合いそうな、いかにもおとなしい感じの女の子とかかなぁ?

よし、それでいこう。そう決めた。



叔母と我が家の馬車に乗って王都の中心部へ出かける。

落ち着いた雰囲気のカフェで昼食。叔母はいろんなことを知っているので、話していてとても楽しい。

カフェを出て少し歩いたところにある噴水広場で叔母が言った。

「私、これから少し用事があるから、貴女は少し街歩きを楽しんでらっしゃいな。2時間後にここで待ち合わせね」

そう言い残してさっさと消えてしまう叔母。2時間か・・・まずは本屋さんかしらね。


カランカランとドアのベルが鳴って本屋さんに入る。

普段なら真っ先に小説をチェックしに行くけれど、今日は気分を変えてちょっと詩集でも見てみようかな。

何冊か手に取ってみたけれど、挿絵がきれいな本が気に入った。詩の内容も軽やかでいい。

レジに持っていって支払いをしたら、きれいな花柄の栞とキャンディをおまけでつけてくれた。

次は雑貨屋さんへ。可愛い小物がたくさんあって、見ているだけで楽しい。

普段は短い髪だからリボンとかは無理だけど、文具なら可愛いのだってありだよね。

外見はチェック柄だけど内側は花柄のペンケースを買ってみた。


人通りの多い商業エリアをしばし散策し、待ち合わせ場所の噴水広場まで戻ってきた。

まだ少し時間があるからと思い、バッグの中から本屋さんでもらったキャンディを取り出そうとした時に詩集が落ちてしまった。かがんで拾おうとしたら

「あ、どうぞそのままで」

通りすがりの男性が拾ってくれた。

「ありがとうございま・・・?」

詩集を手渡してくれたのは学院で隣の席にいる幼馴染。ものすごく驚いた。

「素敵な詩集ですね。よく読まれるのですか?」

「あ、あの、時々ですけど」

「貴女によくお似合いだと思いますよ」

笑顔で話しかけられる・・・あれ、もしかして私って気づいてない?

というか、幼馴染の私には雑な口調で言いたい放題なのに、女性に対してこんなに優しいことに驚いた。


「お待たせ!早かったわね・・・って、こちらの方は?」

叔母が登場。

「あ、さっき落とした本を拾っていただいたんです」

「あら、そうなの。どうもありがとう。さ、馬車をこちらにまわすよう指示しておいたからすぐに来るわ。行きましょうか」

せっかちな叔母が歩き出す。

「あ、あの、ありがとうございました!」

幼馴染にペコリとお辞儀をして叔母についていく。

やってきた馬車に乗り込むと、噴水前に立ったままの幼馴染はだんだん遠くなっていった。



「ちょっと話があるんだ」

休み明けの学院。授業が終わってから幼馴染の男子学生に呼び止められた。

「何よ?」

「今、お前んちに長い黒髪の女の子っているか?たぶんお前と同い年くらいだと思うんだけど」

「ど、どうしたのよ?急に」

「休みの日にちょっと見かけたんだ。お前んちの紋章の入った馬車で去っていったんだよ」

なるほど、紋章でうちと気づいたのか。それは予想外だったけど、ここはなんとか切り抜けないと。

「えっと・・・叔母と一緒にうちに来ている従妹のことだと思うんだけど」

とっさに嘘をつく。本当は叔母には息子しかいない。

「・・・あのさ、お前に頼みがあるんだ。彼女を俺に紹介してくれないか?」

「紹介?」

なぜか胸がドキンとした。

「落としたものを拾ってあげて、ほんの少し話しただけなんだけどさ、もっと話してみたいと思ったんだよな。ダメかな・・・?」

幼馴染のあまりに真剣なまなざしに、私はその場で断ることができなかった。

「確認はしてみるけど・・・あんまり期待しないでよね」

「ありがとう!よろしく頼む」

幼馴染は走り去っていった。



「そっか、結局は見た目なのか」

思わず口をついて出た言葉。そして自分で言った言葉に自分で傷つく。

走り去る幼馴染の背中を見ながら心にむなしさが広がる。

ちょっと見た目が変わっただけで、こんなに対応が変わるなんて思ってなかった。

でも、あれは本当の私じゃない。

帰宅してへこんでいる私を見かねた叔母が相談に乗ってくれた。そして悩んだ末に幼馴染の要望を受け入れることにした。だって叔母は来週には帰ってしまうので、あんな格好が出来るのもきっとこれが最後。

これが終わったら騎士団の入団試験に向けて集中しよう。そう決めた。



次の休みの日の午後。

最初に出会った噴水広場で待ち合わせる。

叔母は前とは別の服を用意してくれた。これも上品だけどちゃんと可愛さも兼ね備えている。こういう路線なら私でもいけるんだな、ということがわかった。

そんな私の傍らにはニコニコしている叔母がいるので、幼馴染が少しとまどった様子で近寄ってくる。

「来てくれてありがとう・・・あの、そちらは?」

「私、この子の母ですわ。本当は男性と2人きりなんてまだ早いと思うのだけれど、遠方に住んでいるので次に王都に来れるのはいつになるかわからないから、思い出作りということで特別に認めることにしましたの。それに仲介してくれた姪が言うには、貴方はしっかりしたとても誠実な方と聞いているわ。約束の時間までにここへ戻ってきてくださいね」

「はい、確かにお預かりいたします」

偽の母親同伴は『嘘をつくなら徹底的に』という叔母の提案によるものだ。確かにこれなら私が化けているとは思うまい。

そんなわけで今日の私は架空の従妹を演じる。普段の私とは違う上品な言葉遣い。ボロが出ないように気をつけなきゃ。

叔母が馬車で去った後、幼馴染と2人で歩き始める。

「最近王都で人気のカフェでお茶しようと思うんだけど、いいかな?」

「はい、よろしくお願いします」


目的地は先日の街歩きでちょっと気になっていたカフェだった。

通りに面した日当たりのよい予約席に通される。香り高い紅茶と本日のおすすめケーキのセット。

「やはり従姉妹だけあって似ているね」

「・・・そうでしょうか?」

「髪の色や長さは違うけど、顔立ちはよく似ている。瞳の色も同じなんだね」

そりゃ本人だからね。


その後の会話もそれなりに弾むのだが、その内容がどうもおかしい。

架空の人物に成りすましているのだから、嘘に嘘を重ねる状況を想定していた。

だけど、彼は目の前にいる黒髪の女の子ではなく従姉、すなわち私自身のことばかり聞いてくるのだ。

好きな本、花、食べ物・・・本人だから間違うことなくすらすら答えるんだけど、いくら共通点はそこだけとはいえ、これってちょっとおかしくない?

「先ほどから従姉のことばかりですのね」

とうとう気になっていたことを口に出してしまった。

「ああ、これは申し訳ない。本人に聞けばいいのはわかっているんだが、いざとなるとなかなか聞けなくてね」

そう言いながら、ちょっと情けない表情になる。

学院では隣の席で毎日のように顔を合わせてるんだから、それくらいいつでも聞けばいいのに。

不思議そうな顔をしている私に小声で言った。

「絶対、内緒にすると約束してくれるだろうか?」

「はい」

よくわからないけどうなずく。


「僕は君の従姉殿のことが好きなんだ。子供の頃からずっと」

「え・・・?」

嘘でしょ?・・・それとも、もしかして私だってわかった上でわざと言ってる?

「あまりにずっと近くにいたものだから、今の気安い関係が壊れるのが怖くて言い出せずにいるんだけどね。情けない男だろう?」

「いいえ・・・そんなことはないと思いますけど。あの、失礼ですが彼女のどこがお好きなのでしょうか?」

なんだかおかしなことになってきたけど、わからないから率直に聞いてみる。

「そうだなぁ・・・何にでも一所懸命なところかな。出会った頃は自分が家を継ぐんだって勉強をがんばっていた」

「ああ、弟が生まれるまではそうでしたね」

まだうちに子供が私しかいなかった頃のことだ。ずいぶん前のことなのによく覚えてるのね。

「そう。家の跡継ぎとなる弟が出来てからは、騎士団入りに目標を変えた」

そう、好きな剣術を生かしたかったし、女性だからこそできることもきっとあると思ったから。

「実は僕も騎士団入りを目指してるんだ。彼女の近くにいたいからね」

照れくさそうに笑いながら言う幼馴染。

騎士団入りを目指しているのは知ってたけど、私のためだなんて知らなかった。


少しの沈黙の後、私から口を開く。

「あの・・・私が言うのもどうかと思うんですけど、貴方の思いは本人に直接はっきりと言った方がいいと思うんです。その・・・彼女はそういうのはちょっと鈍そうなので」

ごめん、本当に気づいてなかった。

「さすがは従妹殿だね、よく見てる」

いや、本人なんですけどね。


カフェを出た後、雑貨屋さんでプレゼント選びを手伝う。本当はかわいいもの好きだということを伝えると真剣に選んでいた。そして従妹に成りすます私には今の黒髪のウィッグに合うリボンをプレゼントしてくれた。

やがて叔母との約束の時間が近付く。

「今日はありがとう。おかげで勇気をもらえたよ。また会えるかな?」

「ごめんなさい・・・休み明けには帰ってしまうので、もう当分は王都に来ることもないと思います」

嘘つきでごめんね・・・と心の中で謝る。

「そうか・・・どうかお元気で」

「私こそ今日は本当にありがとうございました」

迎えに来た叔母と挨拶して幼馴染と別れた。

これで従妹のふりもおしまい。なんだか思いがけない1日だったな。



休み明けの学院。

授業が終わって帰る前に幼馴染から先日買ったプレゼントとともに告白され、私はそれを受け入れた。

「・・・あ、そうだ。お前さ、髪を伸ばす気ねぇの?」

「どうして?」

「本当は身につけられるものを贈りたいんだけどさ、高価なアクセサリーとかはまだ無理だから、せめてリボンくらいプレゼントできたらと思って。黒髪のウィッグじゃなくてお前自身の金髪に似合うやつをさ」

・・・え、ちょっと、なんで? いつからバレてたの?!

「最初はわからなかった。普段と全然違ってたし、母親まで登場してたから本当に従妹だと思ってた。だけど癖が全部お前のだった。言葉につまると左手を口に持っていく、何か思いついて話し出す時に軽く手を叩く、それから嘘をつく時にまばたきがやたらと多くなる・・・」

「ああ、もういいから!」

もう恥ずかしさで顔が上げられない。それにどこからバレてたとか怖くて聞けないよ・・・。

幼馴染の彼は、そんな私の顔をわざと下からのぞき込んで笑顔で言った。

「なぁ、まずは2人で騎士団の入団試験に向けて勉強と剣の稽古をしよう。そして無事に試験が終わったらデートしようぜ。ああ、今度は変装なしでな」

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[一言] 幼馴染くん頑張って主人公を使ってね!!! /応援団
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